帰還日九日め
宇宙に出て三年もの歳月をかける。
三年は大きい。
兄さんはバレーに情熱と誇りを持っていた。それなのに三年、バレーから離れるなんて。
俺は小さかったからか、あんまり詳しい経緯は覚えてなかった。
だとしても、兄さんの気持ちは分からない。
「…我々がこの実験を行う理由は、木星までの距離半径で生存でき得る星を居住区とする為だ」
柱は振り返り、真面目な口調のまま言った。
俺の疑問と関係のない切り口に一瞬混乱する。
だが柱は続ける。
「それには…まずワープ内の人体影響を考慮した上で候補を撰ばなくてはならない。いずれその居住区には老若男女全ての人類が住まう場所になるのだから。
それにはあらゆる適格者を想定する必要があった。
……もちろん何年にもわたる動物実験や理論検証を経た上で、現実的に立証可能かどうか何度も検討を重ねてな」
言わんとしていることが、分からない。
「あのな、俺が聞きたいのは…」
「選ばれたのは君だった」
は?
言葉が続かない。
「我々の実験はあらゆる適格者を想定する必要があったが、未だ適格者は限られていてね。
だから想定範囲からランダムに選出した人々へ、協力を要請した。
君が最年少、そして65歳の男性、これが試験枠の再極端となるはずだった」
俺は選ばれていた。本来宇宙に行く予定だったのは、俺の方だったという。
どうしてと聞けば偶然と柱は的確に答えるだろう。
「だがそれは阻まれた。君の家族が、それを許さなかったのさ」
「………」
何も覚えてない。
そんな選択をしていたなんて、父さんも母さんも苦しかったろう。
兄さんなら代わりをやる、と絶対譲らないと思う。頑固で優しくて、周りの幸せの為なら決して譲らない。
「我々も決して強制した訳ではない。君達家族が受けないなら、他の子供の適格者を探せばいい。
それを…君の兄さんは、見過ごせなかったのだ」
『弟の代わりに、行かせてください』
『いいんだよ。三年間のバレーより、弟の三年のほうが大事だし』




