帰還日七日め
春雪はいかにも待ちきれないとでもいうように、いつもより早めにやってきた。
当然母さんはまだ支度ができていないので、さっそく二人でラリーをやることになった。
打ち込んで拾って、それを打ち込んで…試合はできないが、それである程度の力量が分かる。
「腕なまってるかもしんないなぁ。
うわ、やばい楽しみ!」
だん、だん、とボールを片手で弾ませる。
春雪からのサーブ。意識してないのに、胸が高鳴る。
たん。
強いサーブ。腕に感じる力を、腰を使って押し返した。
…巧い。
レシーブするだけでも分かる。
春雪の顔から笑みは消えていた。戦いの、顔。
俺も真剣にボールを目で追う。
ラリーは途切れない。黙々とボールを返していく。
時にトスで攻撃を誘い、アタックと見せかけてフェイントで走らせ、互いに拾いあった。
「巧いなぁ、夏月」
「…そっちこそ」
穏やかだった。安心してボールを打てる。
必ず拾ってくれると分かっていたから。
巧いとか強いとか、考えるより、ただ心地よかった。
「夏月の兄貴もバレーやんのか?」
だん。
ラリーが途切れる。
レシーブする足が一瞬遅れた。
「…ああ、バレー…巧いよ」
「ふぅん?そうなのかぁ。
俺も弟に教えてるんだよ」
たん、たん。俺は黙って手でボールを弾ませる。
「つってもまだ小学生だからまだまだだけどさ。
好きになってくれたらさ、いつかこーやってラリーやりたいよな」
「……ふうん」
「そしたらさぁ、夏月もやろうぜ!
ついでに夏月の兄貴ともやってみてーなぁ。
楽しそうだわぁ」
だん。
答えられない。
答えたら、たぶん、泣いてしまうだろう。
だからサーブを思い切り力を込めて打った。
いきなり打ったサーブに、レシーブが後れる。
「うわ、なんだよぉ。まだ話してるじゃんかぁ」
冗談まじりに拗ねたように口を尖らせる。
ボールを拾う春雪の背に向かって呟く。
「……俺の兄さんとはできねぇよ」
ボールを手に、首を傾げる春雪。
「兄さんはもう、二度と戻ってこないかもしれないから。
俺のことも忘れて、遠くに行ったっきりなんだ」
「なぁに言ってんだよぉ。忘れるわけないだろぉ、弟なんだし。
必ず戻ってくるって」
明るい春雪の顔。
…だめだ、もう。
「帰ってこねーよ!!」
涙を堪えるために叫んだ。
「もう兄さんはいねーんだ!」
涙を堪えるために拳を握った。
「母さんも父さんも、俺のことも忘れて、見てもくれねーんだ!」
嗚咽を堪えるために怒鳴る。
「そうだろ?!」
だめだ。もう、泣きそうだ。
ボールを持ったまま、不思議そうな顔をして俺を見ている、兄さんを睨む。
「兄さん!!」
た、たん。
ボールが地に落ちる。
春雪は目を、頭を両手で覆っていた。
黙ったまま、うずくまる。
そして、一言。
「まさか………………お前が
夏月、なの、か?」
呟いて、『兄さん』は倒れた




