帰還日四日め
兄さんは
認識できないらしかった。
理由は不明。事故のショックなのか外部の影響か。
とにかく『俺たち家族』を認識できない。
家族がいることは分かっているが、その記憶は十年前のもの。俺のことはまだしも、母さんや父さん、じいちゃんやばあちゃんのことも…認識できない。
『家族はいるけどこの人達ではない』
思い出はそのままに、記憶だけ噛み合わない。
もちろん治療方法など分からない。経過観察しか措置がとれなかった。
「はじめまして、春雪といいます。
色織なんて名前、そうそういないと思ってたんですけどぉー。
いやぁ、遠い昔に親戚だったかもですね!」
加えて兄さんは年をとってなかった。
兄さんの記憶は調査船に乗り、木星までワープした所で切れていた。後の記憶はどうも整合性が怪しい。
話す度に内容が変わり、辻褄も合わなかった。
強いショックでもあったのか、記憶障害が起こっていたのだ。
「春雪くんの家族は、センターの要請でしばらく検査を受けることになっていてね。
色織さん宅にセンターの関係者のお兄様がいらっしゃるから、しばらく一緒に生活してください。
君の変化も見たいからね」
はい、と元気よく返事をする兄さん。横目で見ると母さんは泣くのを必死で堪えてるようだった。
十年振りに会う自分の息子が、母親を認識できないなんて辛いに決まっている。
「夏月くん、だね。俺の弟も似たような名前だったんだよ。
ま、弟はもっと小さいんだけどさ、じゃあよろしくな!」
複雑な影響なのか、『名前は知ってる』けど『思い出す』のはできない、らしい。
俺はなんだか悔しくてぶっきらぼうに返事をした。
「それじゃ、お願いします…ご両親方」
兄さんは帰ってきた。
でもそれは、『俺の兄さん』じゃなかった。




