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帰還日二日め

「夏月ぃ、また呼び出しかよ。みんなの赤セン、独り占めすんなよなぁ」


職員室から戻ってきて、フミにからかわれても俺はうわの空だった。

席に着くと、なんかあったのかとフミが真面目な顔で聞く。

フミは高校からの友達で、俺の兄さんの事は知らない。

だがおそらく、十年前の事故の事は知っているはず。話そうと口を開けるが、思いとどまる。

…まだ『兄さん』だと認めたわけじゃない。


この十年間で俺たち家族はずいぶん振り回されて きた。期待させられ絶望し、可能性にすがりついて諦めてきた。

まだ分からない、信じられない。


「あー…眠いだけだ」


「まだ寝足りねーのかよ!溶けるぞ、脳」


誤魔化せたとは思ってないけど、俺が隠したい事は分かってくれただろう。

それから授業を受けて、部活に行こうとした時、赤碕に呼び出された。


「…観測センターから迎えが来てる。

顧問の先生には話を通してあるから、今日はこのまま帰りなさい」


赤碕の顔は暗い。急な話で驚くが、校門で待つ黒い車を見て冷静になった。

赤碕の後ろについて、車に近寄る。

不釣り合いな、重苦しい雰囲気。その車から降りてきた、何人かのスーツと白衣の男たち。

赤碕は鼻息荒くしながら、助手席から出てきた、赤いネクタイの男に言う。


「…勝手に校内に干渉されては彼も混乱します。

以後控えてください」


「はい、先生。で、色織夏月とは君ですね?」


全く赤碕を見ずに、男は俺に話しかけた。

視線はずっと俺。正直薄気味悪い。


「ちょっと!聞いているんですか?」


聞いてますよ、と軽く頷く男だが、やはり視線は交えない。

半ば引っ張られるように車内に入れられた。赤碕は何か叫んでいたが、ドアも閉められたので聞こえない。

そのまますぐに車は発進した。


考えるのは兄さんのこと。


兄さんはバレー部、当時の部長とツートップだった。

その時俺はまだガキで、バレーを教えてもらっていた。

サーブの打ち方、レシーブ。まだまだ遊び半分で、真剣に習っていたわけじゃない。

でも兄さんと一緒にやれるのが楽しかった。


『レシーブはボールの中心を意識して打つんだ』


まだ初心者サーブを打っていた俺に、兄さんはコツを教えてくれた。


『地平線をなぞるみたいに、まっすぐ打つんだぞ』


そんな兄さんがどうして有志に申し込んだのか、俺にはよく分からない。

バレーを教えてくれた兄さんしか知らないからなのか。


車が停まる。

ドアが開けられ、外に出る。


そこは兄さんを最後に見送った観測センターの正面入口だった。


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