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英霊使い  作者: 徳永翔己
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第九章 虚夢を操りし者

英霊使いとしての任務に就いて、間もなくといったところで新たな敵が登場しました。その名も「虚夢使い・四騎士」の一人、金鬼を使役して虚夢を操る力を持つイリスに翻弄されるチーム・クローバーですが…?また、今回の戦闘でトーマの新しい特殊能力を披露させていただきました。

 夜になり、一旦ランスロットの部屋に集まったチーム・クローバーは学校での呪詛に警戒して、四人揃って虚夢狩りに出発した。ミモザが再び虚夢の気配を遠隔透視魔法で探り、黒い気配が近付いて来た。前回も思ったことだが、ランスロットは虚夢がミモザに引き寄せられている気がしてならなかった。ミモザは何かを隠しているのではないか…。そんな気がしてランスロットがミモザに語りかけた。

「ミモザ。どうして虚夢はお前に吸い寄せられるように、群がって来る。何か心当たりがあるんじゃないのか?」

ミモザは無言で微笑んだ。

「ランスロット!虚夢の気配が近付いている!数、八体。多いよ!」

ケティの英霊・甲斐姫が虚夢の気配を感じてケティに知らせた。

「やはり、虚夢はミモザを狙って集まって来る。仕方ない!皆、配置に付け。狩るぞ!」

ランスロットは素早く夜の街中を飛び回り、ガラハットを召喚した。

「ガラハット召喚!シンクロ三十パーセント開放。」

ガラハットの光の剣が虚夢を貫いた。

「おう!こっちの群れは、おいらに任せておきな!フランシス・ドレーク召喚!シンクロ三十パーセント。」

トーマもこれまでと変わりなく、悪戯な瞳で楽しむかのように虚夢を次々と狩って行った。ケティは虚夢にミモザやランスロット、トーマが食われることのないよう、固有結界を張って街の人達に被害が出ないように防御に徹していた。ケティの前に虚夢が襲いかかって来た。

「甲斐姫、召喚!シンクロ三十パーセント。名刀・波切!」

防戦一方だったケティも攻撃に出て、見事虚夢を仕留めてみせた。

「奏都、新手が来る。数は…九、いや十二体か。」

アレクサンダーが囁いた。ミモザはある違和感を抱いた。いくらミモザが拓斗の魂の半分を持って、虚夢を呼び寄せていると言っても今回は数が多過ぎる。確かに、チーム・クローバーは虚夢の最も多い地区で構成された英霊使いなのだが…。虚夢の現れるペースが早い事が気になった。

「アレクサンダー召喚、シンクロ三十パーセント開放。これは罠だと思う?」

そう結論付けたミモザにアレクサンダーが同意した。

「ああ、恐らく。これは誘い込まれているのかもしれん。」

ミモザは向かって来る虚夢を切り裂きながら、先頭で指揮を取っているランスロットに、このことを伝えた。

「ランスロット!気を付けて。今日の虚夢の動き、何だか変だよ。」

ランスロットがガラハットを召喚したままミモザを振り返った。

「確かに妙だな。いつもは虚夢に意思など感じられなかったが、今日は明らかに俺達を狙って来ているような…。」

静まり返った夜の街で虚夢の唸り声だけが轟いた。

「ふうん…、虚夢の数を増やしただけじゃ倒せないか。」

そこに、少し甲高い少年の声が響いた。

「誰!?」

気配に気づいてミモザが叫んだ。ランスロットやトーマ、ケティも虚夢を倒し終えると、ミモザと同じ方向を振り返った。暗闇の中から一匹の巨大な虚夢が現れ、その影から銀髪に赤い瞳の少年が姿を現した。

「初めまして…かな。英霊使いのお姉ちゃん達。僕は虚夢使い・四騎士の一人イリス。」

学校で呪詛を仕掛けて来た、あのイリスという見た目は愛らしい少年だった。

「学校で呪詛を仕掛けたのはお前か。」

ランスロットが冷静に問いかけた。

「そう、あれは僕からの挨拶。僕達には虚夢が必要なんだ。これ以上、邪魔すると殺しちゃうよ?」

イリスはけらけらと笑って、そう答えた。

「あなた…、もしかしてラグナの子?」

ミモザが尋ねると、イリスの顔付きが変わった。

「お姉ちゃん、とぼけた顔をして察しがいいね。英霊召喚、その程度で良いの?僕が本気を出したら英霊ごと、あの世に送っちゃうけど。」

ランスロットはミモザを振り返って、

「ミモザ、あいつの挑発に乗るなよ。お前は特に五十パーセント以上のシンクロはするな。」

と言った。ミモザは頷いた。トーマはそれを見てはっとした。自分達は同じ性別の英霊と契約しているため、リスクはないがミモザは例外だった。

「あれ?そこのピンクの髪のお姉ちゃん、男の英霊なんだね。ミモザって言うんだ。じゃあ、僕ちょっと本気出させちゃおうかな。」

イリスが虚夢の前に立つと聞いたことのない呪文を詠唱し始めた。ミモザを庇ってランスロットが彼女の前に立った。その瞬間、巨大な虚夢がみるみる小さくなり、人型に変わると半分ほどの大きさになった。とは言え、五十メートルはあり巨体には変わりなかった。

「ミモザちゃん!おいらに任せて!」

人型に変わった虚夢が突然、素早くミモザに向かって襲いかかって来た。ランスロットが身構えると、それよりも早くトーマが人型の虚夢に二刀流で立ち塞がった。その瞬間、トーマの剣から火花が散りその硬さに驚き身をひるがえして体勢を整えた。

「どうした、トーマ!」

ランスロットが問いかけると、トーマはにっと悪戯な笑顔を見せた。

「こいつには魔法詠唱している時間はなさそうだぜ、ランスロット。素早くてとにかく硬い。今までの虚夢とは比べ物にならねえ。」

「トーマ!一人じゃ危険よ!相手の能力もまだ未知数なのに。」

ケティが心配そうに問いかける。

「トーマ、私のことはいい。自分の選んだ英霊だもの、覚悟はしてる。」

ミモザはランスロットの影から虚夢に向かって行こうとした。

「行け!僕の金鬼!」

そうイリスが命じると、黒い巨大な人型の虚夢がうめき声を上げた。今まで単なる闇の塊だった虚夢がまるで意志を持ったように、宙を舞いビルの屋上にいたミモザとランスロットに襲いかかった。

「くっ…!硬い!」

ランスロットが一太刀目を受けた。そして、間髪置かずミモザに襲いかかった。

「アレクサンダー召喚!シンクロ五十パーセント開放!」

ミモザが英霊を召喚しようとした、その瞬間。

「任せろって言っただろ?ミモザちゃん。男の格好良い見せ場は奪っちゃだめだぜ。」

トーマが英霊を五十パーセント召喚した状態で虚夢の背後から現れた。虚夢はトーマの二本の剣に貫かれて泥人形のように崩れ落ちた。

「金鬼の力を使っても虚夢一匹じゃ、所詮この程度か。今回は見逃してあげるよ。次はこんなもんじゃ済まないからね。じゃあね、英霊使いのお姉ちゃん達。」

イリスはそう言い残すと、ふっと姿を眩ませた。どうやら今日の闘いはここまでのようだった。

「あのイリスって男の子。虚夢使いって名乗ってた…。虚夢を操れる人間がいるなんて…。」

ミモザ達は英霊召喚を解くと、地上に降り立った。街は何事も無かったかのように静まり、行き交う車やネオンの光で彩られていた。

「どうやら、虚夢は自然に発生した厄災ではなかったということか。」

ランスロットは眉間にしわを刻みながら、あんなに幼い敵に翻弄されたことを悔しく思っていた。

「ミモザちゃん、英霊召喚は今後、五十パーセント以上シンクロするのは禁止だからね!おいら、逞しくなったミモザちゃんなんて嫌だから!」

トーマが、がばっとミモザを抱き締めた。

「トーマ…。でも、私…。」

ミモザが困っていると、ランスロットがトーマを引っ張って、

「そこまでにしておけ。今回はトーマに助けられたからな。ミモザも簡単に英霊召喚に頼るな。お前のシンクロは肉体に負担が大きすぎる。今だって三十パーセントの召喚でその身長だろ。うっかり、二メートル級の大女になったらどうする。」

と説教をした。ケティもほっとしたように、トーマとランスロットのやり取りを見ていた。ミモザに対して、ちょっと軽い嫉妬の気持ちも芽生えつつあった。ケティ自身はまだ、その気持ちの正体に気付いてはいなかった。

「そうだな…。これ以上、シンクロしていてはいずれお前のそのささやかな胸の膨らみも完全に無くなりそうだ。」

アレクサンダーがミモザにそう語りかけ、カチンときたミモザが頭をわしゃわしゃと掻いた。その脇で、ランスロットとトーマが

「それは、非常に切実な問題だ。」

と揃って呟いた。

「どうせ私は貧乳ですよ!悪かったわね!」

ミモザは胸を押さえて真っ赤になり、泣き怒りしていた。

「それはそうと…、おいら、さっきの戦闘でこんなもんを敵から盗んだんだけど…何だろ?」

トーマが突然、思い出したように胸元からある拳ほどの大きさの塊を開いて見せた。それは、学校でイリスが仕掛けた呪詛に似ていて何かの呪文が掘られた石に、幾重にも別の呪文が書かれた紙が巻かれていた。

「もしかしたら、虚夢は人災なのかもしれないな。」

ランスロットは呪詛の種を見つめて、そう呟いた。

「だとしたら、相当悪質ね。人間の負の魂をたらふく食らわせて集めるなんて…。」

ミモザはきゅっと服の胸元を掴んだ。拓斗もその犠牲者の一人に過ぎないのだ。

「ところで、トーマはどうやって虚夢からこんな物、取ってこれたの?」

ミモザが自然に疑問を投げかけると、トーマはにっと笑って、

「こうやって盗ったんだよ。おいらの英霊のオプションに『盗む』って得意技があってさ!」

ランスロットの胸元をすっと撫でて、手を開いて見せた。そこには小さなメモ用紙があって、

『ランスロットはすき焼きの長ネギが嫌い』

と書かれていた。ミモザとトーマ、ケティがメモを読んでランスロットをまじまじと見つめた。

「王子とか恥ずかしい呼ばれ方されていて、ランスロットは長ネギが苦手なのか!っぷっ!」

トーマに小馬鹿にされてカチンと来たランスロットは、らしくもなく赤くなりながら、

「貴様!くだらん、その能力!今すぐ封印しろ!」

と怒ってトーマの胸ぐらを掴んで揺さぶった。

こうして、チーム・クローバーは虚夢使い・イリスとの接触は事なきを得たのだった。

初の長編向けの小説に挑戦していますが、初回から何度か書いているアクションシーンの表現が難しいです。後は、物語の中で常に「起承転結」を意識しています。毎回の章ごとに山場やオチどうやって描いて行こうか悩まされる部分でもあります。

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