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英霊使い  作者: 徳永翔己
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第七章 チーム・クローバー

「英霊学校」の卒業試験をクリアして、一人前の「英霊使い」になったミモザやランスロット、トーマ、ケティは、異世界ナグナからチーム・クローバーを結成し、日本へと派遣されて拠点を移た。それぞれ国籍を取って更科高等学校へ進級する。いよいよ、本格的に虚夢退治が始まりミモザ達が虚夢を狩る。日本でのチーム・クローバーの本格始動開始!

 異世界ナグナから日本に来た『英霊使い』達は、まず国内で生活するために戸籍を取りに世界各国に飛んでいた。基本的に異世界ナグナと日本の入り口は一ヶ月に二度しか開かない。勿論、ナグナとの入り口は世界各国にあるが、最も多く使われるのは黄泉の入り口があるとされる日本という小さな国だった。虚夢が最も多く出現することでナグナでも有名な国だった。

ランスロット・サーゼクスはイギリス国籍を取り、日本に留学しに来たことにして割り当てられた地区にマンションに移り住んだ。トーマ・クレイバーは名前から日系イタリア人として日本国籍を取った。ランスロットと同じ地区内に小さなアパートを借りて移り住んだ。ケティ・ブランシェはアメリカからの留学生として日本の高校に通うことになり、女の子が一人暮らしでも安全なセキュリティ環境の整ったマンションに引っ越した。ミモザは二年ぶりに自宅の前に立った。両親が離婚で揉めていたため、今は自分がどちらの名字で呼ばれるのかも分からない。拓斗の本当の死因も両親は何も知らないのだ。ミモザは緊張しながら、自宅のインターホンを鳴らした。

「どちら様ですか?」

インターホンの向こうから、懐かしい母の声がした。

吉住奏都よしずみかなとです。ただいま帰りました。」

慌てて、玄関のドアを開けて母親が外へ飛び出して来た。

奏都かなと!今までどこに行っていたの。警察にも捜索届けを出して大変だったのよ!?」

母親は身長や髪の毛の伸びた奏都をぎゅっと抱きしめた。

「ちょっと遠くの学校に通っていたの。卒業したからこっちの高校に通うことにして、もう学校も受験したところだよ。お母さん。」

ミモザは静かにそう答えた。

「学校?一人で勝手にそんなことを決めて、水臭いわね。どこの高校に通うの。勉強は大丈夫なの?」

心配そうに尋ねる母親に、ミモザは更級さらしな高等学園の合格通知を持っていた鞄から取り出して見せた。

「この春から、更級さらしな学園高等学校の二年生だよ。大学までエスカレーターだから、そのまま進学するつもり。お金なら自分で働いて何とかするから心配しないで。」

母親は合格通知を見て驚いた。更級さらしな高等学園は地元では名の知れた有名な進学校だった。

「あら、いやだ。中学の時はそんなに勉強してなかったのに、お父さんにも教えてあげなきゃ。今日はお祝いよ!早く家に入りなさい。奏都かなとの部屋と拓斗の部屋はそのままにしてあるわ。」

ミモザはとりあえず家の中に入った。中はきちんと掃除されていて、ミモザと拓斗がいた頃よりも綺麗な環境になっていた。

「お母さん、お父さんとは離婚したんじゃないの?」

ミモザは気になっていたことを思い切って尋ねてみた。母親は少し間があったが、

「拓斗が死んで、奏都まで消えた後にお母さん達はもう一度よく話し合って、離婚はしなかったわ。」

と答えた。

「じゃあ、私の苗字は変わらないの?」

ミモザの問いに、

「そうよ。」

と母親は優しく微笑んだ。拓斗が生きていれば、こんな両親の姿を見せてあげられたのに…。ミモザは大荷物を置きに、自分の部屋へと向かった。部屋の中はきちんと掃除されていて、いつでも使えるようになっていた。

「ありがとう、お母さん。」

いがみ合っていた時には、煩わしいだけの両親だったがミモザは初めて両親の愛情を感じていた。その日、会社から帰宅した父親も成長したミモザを見て無事を喜んだ。両親は久しぶりの帰省で疲れているだろうと、夜九時にはミモザを部屋で休ませた。家族が寝静まった頃、ミモザは部屋の二階の窓から、ひらりと舞い降りた。いよいよ今日から『英霊使い』としての仕事が始まる。一度、ランスロットのマンションに集合することになっていたので、携帯電話の端末ナビを見ながら指定の場所へと向かった。


 ランスロットが新しく住むことになったマンションは三部屋あり、広々としていた。ミモザ達の会合にはもってこいの環境だった。

「ミモザ、遅かったな。新しい住みかは決まったのか?」

ランスロットが、荷解きの終わっていない荷物を片付けながらミモザの座る席を用意した。

「うん。ランスロット達は転入の手続きは済んだの?」

ミモザは案内された場所に座ると、先に来ていたトーマ、ケティ達の方を見た。

「おいらは問題ないよ。元々、こっちの人間と顔立ちは近いし、日本国籍を取った方が近場で楽だったからな。」

トーマは新しい環境にわくわくした様子でそう言った。

「でも、トーマならこっちでも漢字を当てて使える名前だし、格好良いと思うよ。」

ミモザはトーマにそう言った。

「本当に?ミモザちゃんは名前どうするの?そう言えば名字、聞いたことないよね。」

トーマはふいにそう尋ねた。

「私はこっちで、吉住奏都よしずみかなとって名前で活動する。私の呼び方はあだ名ってことで今まで通りミモザでいいよ。」

ミモザは笑顔でそう答えた。

「俺はそのまま本名が使えそうだから、イギリスからの留学生ってことにした。ミモザは何で、まるきり名前を変えたんだ?」

ランスロットの問いにミモザは苦笑した。吉住奏都と言う名前がミモザの本名であることは、ミモザとグラハム先生しか知らない。

「私は高等部の三年生でアメリカからの留学生ってことにしたわ。名前はそのままで大丈夫そうよ。でも、残念ね。こっちの学校にスキップ級があれば、ランスロットもミモザも大学部の一年生に編入できたはずなのに。」

ケティも一通り手続きを終えたようだった。ランスロットは、

「まあ、学校の件は少々不満はあるが仕方ない。一番、骨が折れたのはトーマを更級学園の高等部の三年生に編入させることだったけどな。」

ランスロットは深いため息をつきながらそう言った。

「ギリギリでも合格できたからいいじゃん!ランスロットは細かいことに拘り過ぎなんだよ。」

けらけらとトーマは笑って答えた。

「まあいい。それより今日からチーム・クローバーの虚夢退治本番だ。皆、覚悟はできているな。」

ランスロットは三人の顔を見回した。今まで勉強して来たのはエリート職である『英霊使い』になるためだ。当然、虚夢との戦いの覚悟はできていた。ミモザは胸に手を当てて拓斗の魂に問いかけていた。

(今日から、いよいよ虚夢退治が始まるよ。拓斗たくとの魂の半分は必ず取り返して成仏させてあげるから、待っていて。)

そんなミモザの様子を見てアレクサンダーは、彼女だけに聞こえるように囁いた。

「お前の本当の名は奏都かなとだな?」

ミモザははっとしてアレクサンダーの意識に語りかけた。

「何?アレクサンダー。貴方、まさか私の意識を読めるの?」

アレクサンダーは落ち着いた低い声で、

「いや、時々勝手にお前の感情が流れ込んで来るだけだ。ミモザの名が本名ではないため、縛りが緩かったのだろう。」

とだけ答えた。ミモザの様子がおかしいことに気付いてランスロットがお茶を差し出して、

「どうした、ミモザ。顔色が悪いぞ。」

と話しかけた。ミモザは慌てて平静を装った。

「ううん、何でもない。そろそろ虚夢が活動し出す時間だよ。皆、行こう。」

そう言って、四人で外に出た。それぞれの英霊の力を使って、ミモザやランスロット達はビルの屋上へと飛んだ。虚夢は巨大な闇だ。上から見渡した方が虚夢を探知し易かった。

「ミモザ。遠隔透視魔法で虚夢と居所を突き止められるか?」

ランスロットがミモザに尋ねた。

「虚夢は人の不幸につけ込んで来る。より負のエネルギーを出している人間を探すのも一つの手だよ。」

ミモザは屋上の先端に立って耳を済ませた。ミモザの胸元が青白く光って、間もなく二匹の虚夢が現れた。虚夢は真っ直ぐミモザに向かって襲いかかって来た。ミモザは身をひるがえすと、

「アレクサンダー!剣を!」

と叫んで、光の剣を握ると一気に虚夢へと斬りかかった。虚夢は大きくうねりながら大地を轟くような悲鳴をあげた。身体を引き裂かれた虚夢から無数の魂が飛び出し、天へと昇って行った。

「獲物を独り占めとは感心しないな。行くぞ、ガラハット!」

ランスロットが、もう一匹の虚夢に光の剣で斬りかかった。トーマは両手に投影魔術で剣を召喚すると、同じく虚夢に襲いかかった。

「フランシス・ドレーク!行くぜ!」

ランスロットの攻撃の後に、トーマが止めを刺した。

「おい、お前。勝手に人の獲物を横取りするな!」

ランスロットが手柄をトーマに持って行かれ、文句を言った。ケティはそれを呆気にとられて見ていた。英霊使いという職業は十分理解していたつもりだったが、実際に生で見た虚夢は禍々しく教科書の写真と違って巨大だった。ミモザは冷めた表情で消滅していく虚夢を見つめていた。やはり、拓斗たくとの魂に虚夢が引き寄せられて来るようだが、目的の虚夢ではなかった。すると、もう一体別の虚夢が襲って来た。ミモザに襲いかかろうとした虚夢はアレクサンダーの霊気に気圧され、途中で無防備なケティに向かって魂を食らおうとした。

「大丈夫か!ケティ。ぼーっとするなよ。虚夢は魔力の高い人間を狙うって習っただろ!」

トーマがケティを庇って、二本刀で虚夢を切り裂いた。

「私を庇ったの?どうして…。」

決して仲の良い二人では無かったが、トーマはけろっとした様子で笑って、

「おいらは仲間を選んで助けるようなケチな真似はしねーよ。」

と言った。ケティはその笑顔に思わずどきっとした。模擬戦ではケティの方が安定して優秀だったが、トーマは明らかに実戦に強いタイプだった。ミモザはトーマの闘いを見て、

「トーマと英霊のフランシス・ドレークとの相性が良いみたいだね。接近戦、格好良かったよ。」

と笑顔で褒めると、トーマは、

「本当?俺の英霊、格好良い?!」

と嬉しそうにミモザに問いかけた。

「うん。トーマが仲間で頼もしいよ。」

ミモザはそう答え、ランスロットはぶすっとした顔でその様子を見ていた。大抵の教師や英霊学校の仲間達に、海賊の英雄なんてと呆れられたが、ミモザだけは差別しなかった。トーマはランスロットの方へ歩み寄って、

「おいら、ミモザちゃんのこと本気で狙うからな。」

と宣戦布告をした。ランスロットは不機嫌そうに顔をしかめて、

「何の話だ。俺は別にミモザのことなんか…。」

と、困ったように口ごもっていた。ケティは体勢を立て直すとトーマに、

「トーマ、助けてくれて有難う。」

と、頬を赤く染めながらお礼を言った。

「おう!気にすんな。初めての実戦だったし、最初はビビったって仕方ねえよ。俺達だって虚夢に食われたら死ぬんだし。」

トーマは初めての活躍に、興奮した様子でケティに答えた。

「しかし、何で虚夢はミモザにばかり集中して襲って来るんだ?まるで、何かに引き寄せられているような…。」

ランスロットはミモザを見て、そう言った。ミモザはにっこり笑って誤魔化した。虚夢が狙っているのは、ミモザの中にある拓斗の魂の半分だった。

「行こう、皆。もう、ここには虚夢の気配はないよ。別の場所に移動しよう。」

「そうだな。チーム・クローバーの本格始動だ。締まって行こう。その前にチームのリーダーを決めておくか。」

ミモザに同意して、ランスロットがそう言った。

「はいはい!おいらがリーダーやる!」

トーマが立候補すると、ケティとランスロットが呆れた顔をして、

「一番の落ちこぼれが、向いてるわけないだろう。無茶言うな。」

と、ランスロットが言った。

「ランスロットがリーダーで良いんじゃないの?クラス委員長とか、実技試験でもリーダーだったでしょ。」

ミモザがそう言うと、ランスロットはミモザをじっと見た。

「ミモザはリーダーをやりたくないのか?今日の実戦でも、お前が一番先頭をきって虚夢を倒しただろう?」

その言葉にミモザはきょとんとして、

「私はリーダーとか向いてないよ。それに、ランスロットの家が一番会合に向いているし。」

と、答えた。

「お前がそれでいいなら、別に俺も異論はないが…。ケティとトーマはどうだ?」

ランスロットは他の二人にも尋ねた。

「私はミモザとランスロットの意見に賛成よ。」

ケティがそう言うと、トーマは拗ねた顔付きで、

「何かムカつくけど、ランスロットが首席だしリーダーでいいよ。いろいろ気に食わないけど!」

と答えた。

「じゃあ、チーム・クローバーのリーダーはランスロットってことで決定だね。」

ミモザはぽんっと手を合わせて、ランスロットに微笑んだ。こうしてランスロットがチーム・クローバーのリーダーとなった。

「ところで、何でおいら達のチーム名が『クローバー』なの?植物の名前じゃなくて、もっと他に格好良い名前あるじゃん。」

トーマがふと呟くとミモザが、

「この日本では『四葉のクローバー』は幸福を呼ぶお守りみたいなものなの。だから、先生が『クローバー』にしたんじゃないかな?」

と、説明した。ランスロットはそんなミモザを見て、

「ミモザは日本のこと、詳しいんだな。普通は三枚の葉だが、四葉になると幸福を呼ぶお守りか。なるほど、俺達四人でこの世界に幸福をもたらすと言うわけか。そこまで期待されているなら、期待に応えるしかあるまい。」

と笑って言った。そうして、虚夢退治の初日が終了した。

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