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英霊使い  作者: 徳永翔己
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第四章 英霊使いへの道

スキップ級で英霊学校の二年生に編入した二人はグラハム先生に「F組に面白い生徒がいる」と聞かされ、魔法演習で成績優秀なA組と落ちこぼれのF組とを対戦させますが、トーマと言う変わり種の魔力を持つ新しい仲間と出会います。

 新しく二年生に編入したミモザとランスロットは二年A組に配属された。白服の二年生達がヒソヒソと二人を噂しているのが聞こえた。ランスロットは自己紹介を終えると、さっさと自分の席に着いた。ミモザも手短に挨拶を済ませると、空いている席に腰掛けた。教室は講堂になっていて、特に席は定められていなかった。ランスロットは長い机の真ん中辺りに座り、ミモザの方をじっと見ていた。ミモザも何となくランスロットの言いたいことは分かっていたが、周りの視線を考えるとそれを行動に移す気にはなれなかった。ランスロットはミモザに自分の隣に座れと眼で語っていた。他の女子の視線がランスロットに集中していなければ、それも有り難かったがただでさえスキップ級で目立っているのに編入早々問題は起こしたくなかった。


 授業が始まりランスロットはぶすっとした顔で講義を受けていた。ミモザも授業に専念して残り半年で三年生に編入する構えだった。一般教科はミモザのいた世界と同じ学科で、グラハムから聞いた話だと異世界ナグナと日本の現世に繋がっている道があり、最初は皆日本にしばらく滞在するため、一般常識として英語や数学、理科、社会と言った学科の履修が義務付けられていた。お陰で実際、現世で神隠し状態にあるミモザは元の世界に戻っても勉強に困ることはない。ただ、違うのはやはり魔法学科の講義と実践授業だった。履修する学科はミモザの世界より遥かに多い。チャイムが鳴って、ランスロットがのそのそとミモザの席にやって来た。

「おい、どうしてこっちへ来ない。一年でも一緒の席だっただろう。」

不機嫌そうな表情でそう言うと、ミモザの席の机にひょいっと座った。

「ランスロットと一緒だと、女の子達が騒ぐでしょ。」

ミモザは澄ました顔でそう答えた。図書館ではよく独自で勉強をしに行ってミモザがランスロットと会って、一緒に勉強をすることは多くなったが、教室では一年に編入した時にクラス委員長として彼がミモザの世話をしていたこともあって、何となく隣の席にいるのが当たり前になっていた。

「今更、何を言っている。」

ランスロットは納得がいかないと言った表情でミモザを見た。と、その時、二年A組のクラス委員長の少年から魔法学科の実技演習のための報告を教室の皆に伝えに来た。

「グラハム先生の魔法実技演習をF組と合同でやることになったので、皆さんは第一体育館に移動して下さい。」

これには、クラスメイトがざわめいた。A組とF組では、実力に大差がありすぎて普通合同で授業を受けることなど滅多になかった。

「グラハム先生はどうやら本気で、例のトーマ・クレイバーと俺達を勝負させる気らしいな。」

ランスロットは机から降りると、制服の上着の裾をパンパンと両手で軽く払ってしわを整えた。

「グラハム先生が興味を持つくらいだから、きっと何かあるのよ。」

ミモザはグラハムが自分をスカウトしたように、異世界ナグナでも注目している他の生徒がいるのだろうと予想していた。ミモザとランスロットは他の生徒達と一緒に第一第体育館へと移動した。


 二人が体育館に着くと、トーマが早速ミモザとランスロットを見つけて駆け寄って来た。赤茶けた髪にヘアバンドをしたトーマの後ろにはF組の生徒が怪訝な表情を浮かべ集まっていた。

「ランスロットにミモザちゃん!また会ったね。オキニウス大霊祭ではどうも~。」

ランスロットはトーマに、

「お前この間と言い、いきなり名前を呼び捨てで馴れ馴れしいぞ。その様子では、オキニウス大霊祭で魔力補給が出来なかったようだな。」

と皮肉を言った。トーマはカチンと来た様子で、

「あの後、携帯電話でちゃんと友達と合流したよ。これでも魔力補給済みなんだよ。ランスロットって貴族様なんでしょ。失礼だなあ。」

と言い返した。(分からないな。グラハム先生はこいつの何をそんなに買っているんだ?見たところ魔力量もそんなに無いようだし、ただの落ちこぼれにしか見えないが…。)ランスロットが不可解な表情を浮かべ、トーマをまじまじ見た。身長はランスロットより少し高めで、戸年は二歳上の十六歳。容姿はまあまあ良い方で、F組の女子には十人そこそこ程度に人気があるようだ。ランスロットとトーマのツーショットに女子達がヒソヒソと噂しているのが聞こえた。

「見て、見て。トーマ君がA組のランスロット様と対等に話してる。」

「トーマ君って、やっぱり大物かもね。」

ミモザはランスロットの後ろで二人のやり取りを見守っていた。そこへグラハム先生がやって来て、

「二年A組とF組の諸君。皆、集まっているかな?これから、君達にはお互いのチームに分かれて各々の魔法で戦ってもらう。なお、この体育館には特殊な魔法結界を幾重にも張り巡らしてあるから、心置きなく闘ってくれたまえ。」

と、さらりと言うと五人一組のチーム名簿を読み上げた。ミモザとランスロットは同じチームで、二年で一緒のクラスになったケティと言う少女がグラハムに意見した。

「グラハム先生。この二人は二年に編入したばかりで、経験からして私達のチームが不利だと思うんですけど。」

肩にかかる程の長さの金髪に、菫色の切れ長の瞳をした勝気な表情のケティは、ミモザとランスロットがえこ贔屓されているように思えてならなかった。グラハムは気にした様子もなく微笑むと、

「二人の実力は私が保証しよう。まあ、実際に卒業後までこのチームで闘う訳では無いから、もっと気楽にやりたまえ。」

と手を叩いて、それぞれのチームに分かれて並ばせた。一クラス四十五人ほどで九チームに分かれ、それぞれF組とA組で魔法演習を開始した。当然、トーマ達のチームはミモザ、ランスロット、ケティを含むA組の生徒で闘うことになった。最初から予想していた通り、魔力量からしてF組の敗北が続き絶望的に思えて来た頃、ミモザ達のチームが最後にトーマをリーダーとするチームと戦闘を開始した。

「A組のリーダーはランスロット・サーゼクス。F組のリーダーはトーマ・クレイバー。両者とも、戦闘開始!」

グラハムの合図で、ミモザ達はランスロットの背後に構えると、風、水、炎、土などの魔法で援護をした。ランスロットは光魔法で剣を生み出しトーマに斬りかかった。トーマは運動神経だけはずば抜けて良いようで、紙一重でランスロットの攻撃を巧く交わしていた。

「ミモザ!お前も攻撃に加われ。こいつ、結構手強いぞ。接近戦に注意しろ。」

ランスロットは攻撃の手を緩めず、ミモザに攻撃魔法を指示した。

「了解、ランスロット。」

ミモザは瞳を閉じると、意識を集中してF組の五人に向かって炎の攻撃魔法を仕掛けた。凄まじい爆風が起こり、トーマ以外のF組チームは床に足を着いた。F組のチームはA組に比べ、決定的に防御力自体が足りないのだ。ミモザとランスロットの魔力に驚いたのは、対戦していたトーマだけでなくA組のケティ達も同じだった。ついこの間まで一年生だったミモザとランスロットの魔力キャパは二年生を遥かに上回っていた。背後で既にボロボロの仲間達を見て、トーマの周囲に異変が起こった。

「F組だからって、舐んじゃねえ!」

ランスロットはトーマに頭突きを食らって、体勢を崩した。

「ランスロット、下がって!攻撃が来るよ!」

慌ててミモザがトーマに向かってありったけの攻撃魔法をぶつけた。ケティが慌てて防御魔法で防いだが、トーマはそれをランスロットの攻撃ごと跳ね飛ばしてA組チームに一撃を加えた。一瞬だけであったが、トーマはランスロットとミモザの魔力キャパを超えたのだ。魔力を使い切ったトーマは力尽きてランスロットの前で膝をついた。ミモザの攻撃魔法とケティの防御魔法で幾らかダメージは半減出来たが、ランスロットも頭突きで鼻血を押さえていた。

「へっ、一発は食らわしてやったぜ。王子様。」

トーマはランスロットに悪態をついて強がってみせた。

「両者、そこまで!」

グラハムのストップがかかり戦闘は互角とされた。(今のが、こいつの隠し種か!何て奴だ。攻撃でダメージを受けた後に、仲間を守るため魔力を一瞬だけ爆発的に高めやがった。)ランスロットは治癒魔法で鼻血を押さえると、

「お前の実力は認めてやる。この俺に頭突きで魔力を破るとは、なかなか度胸が据わった男だ。」

とトーマに賛辞を贈った。トーマは傷だらけの身体でにんまりと笑って、その場に倒れた。

「驚いた。よく魔力切れで動けなくなるまで戦えたよね。」

ミモザも呆れたように、トーマの攻撃で付いた制服の汚れを掃って呟いた。

「どうだい?トーマ・クレイバー君の能力は、なかなか面白いだろう。彼は仲間が傷ついたことによって感情が高ぶると、今みたいに普段はガス欠状態の魔力を一気に高めて爆発させる性質があるようだ。」

グラハムは愉快そうにミモザとランスロットの所まで歩み寄って、疲労で突っ伏しているトーマを見た。

「ええ、実際驚きましたよ。殆どろくな魔法が使えないくせに、これだけの魔力…。グラハム先生は初めからトーマの魔力の性質に気付いていたんですか。」

ランスロットは制服の汚れを掃ってグラハムに尋ねた。

「ああ、私も知ったのはつい最近でね。二年F組の学生が三年B組の生徒に絡まれていた所を偶然通りかかって、今のように上級生を倒したのを見た時は、実に驚いたよ。」

グラハムは魔法演習の目的を無事見届けたことに満足して微笑んだ。

「今期は面白い逸材が多くて私も嬉しいよ。三年生の卒業試験で、君達がどんな英霊を引き当てて来るのか楽しみだ。」

ミモザとランスロットはぶっ倒れたままのトーマを見て何となく不安を感じた。この、でたらめな魔法使いのトーマが一体どんな英霊と契約すると言うのか…。一方、ケティは魔法演習でミモザやランスロットとの実力の違いに打ちひしがれていた。同じA組だと言うのに、首席と次席と言うだけで、こうも実力差が生じるのか解せなかった。

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