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英霊使い  作者: 徳永翔己
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第三章 ナグナのオキニウス大霊祭

現代日本から異世界ナグナの英霊学校に通うことになったミモザは、ランスロットにナグナのオキニウス大霊祭というお祭りに参加しようと誘われ、パートナーとして出かけます。お祭りでトーマと言う二年生と再会して…。

 ミモザがナグナの英霊学校に通い始めて半年が過ぎ、定期試験の発表が廊下の掲示板に貼り出されていた。

「見て、見て。一年の首席はまた、あのA組のランスロット様よ!」

結果発表を見に来ていたミモザとランスロットを取り囲むように女生徒の群れができていた。

「ミモザはまた、次席か。」

仏頂面でランスロットが呟いた。

「今回もまた負けちゃったか。えへ、さすがランスロットは優秀だね。」

次席でも立派な成績なのにミモザは少しも気取った態度が見られなかった。

「ねえ、あの子。またランスロット様と一緒にいるわ。誰?」

女の子の視線がミモザに向いて、

「白服ってことはあの子もA組なんだ。確か春の途中で編入してきたって子よ。」

と話題が集中し出し、ミモザがこそこそと立ち去ろうとした時、

「こいつはミモザだ。次席に名前があるだろう。」

とランスロットが彼女の肩を掴んで、他の生徒に紹介した。女の子達は騒然となってミモザは恐縮した。

「ランスロット。ちょっと、何するの。手を放して。」

ミモザは周りの視線に耐えきれず、ランスロットを振り返って助け舟を求めた。

「お前も、次席なら堂々としていろ。そんなだから馬鹿にされるんだ。ところでミモザ、ナグナのオキニウス大霊祭を知っているか?まだ、パートナーが決まっていないなら付き合え。」

また、周りの女の子が騒ぎだした。

「ナグナのオキニウス大霊祭?パートナーって何?」

ミモザは初めて聞く言葉に首を傾げた。この異世界ナグナで毎年行われる一番大きな祭りだ。

「あれだけ図書室に通っていたくせに、オキニウス大霊祭も知らないのか。このナグナを創成したとされる神の名前だ。明後日その祭りがあって、その恩恵を御霊受けに各々のパートナーを決めて魔力を高めるんだ。卒業試験でより強い英霊を宿すのに、欠かせない儀式だ。」

ミモザもようやくオキニウスの名前を思い出し、ランスロットと向き合った。

「どうしてパートナーが私なの?ランスロットなら他にもいくらでも相手がいるじゃない。」

ミモザに真顔で疑問をぶつけられ、ランスロットは唖然となった。

「お前、俺の話をまともに聞いてないのか。オキニウス大霊祭には、優秀なパートナーが不可欠だって言ってるんだ。次席のミモザ以外に誰がいる。」

ミモザはようやく納得したように相槌を打った。

「ああ!ランスロットと組めば私の魔力も上がるってことね。了解!」

ランスロットは脱力して、

「何で、こんな女が次席なんだ…。」

と小さく呟いた。

「あ!見て!ランスロット!あそこに二年編入者の名簿が貼り出されているよ。」

ミモザは成績発表の下に貼ってあった名簿を指差した。そこにはランスロットとミモザの名前が表記されていた。前々から二人が言っていた通りスキップ級で二年に進級することになったのだ。

「当然だ。じゃあ、明後日のオキニウス大霊祭のパートナーは決まりだな。」

「うん!」

ミモザとランスロットは一緒に教室に戻りながら、ナグナのオキニウス大霊祭での待合せ場所を打ち合わせていた。教室に戻るとグラハムが二人を待っていた。

「ランスロット、ミモザ。二年進級おめでとう。素晴らしい成績だったよ。今後も魔法学科については私が君達を教えることになっているから、そのつもりでいるように。」

グラハムは二年生編入の授業カリキュラム表をミモザとランスロットの二人に渡した。

「グラハム先生が一年生の担任なのに、魔法学科だけ二年生も受け持つんですか?」

ミモザが尋ねるとグラハムは、

「何、一般教科は元々他の教師が担当していただろう?場合によっては、私が三年まで君達の教育係になる。特別優秀な生徒が出た時には、特例として様々な例外が許可されるんだ。」

と答えた。ランスロットは、

「では、俺達のためにグラハム先生がわざわざ二年の魔法学科を担当するということですか?」

と尋ねた。

「まあ、正直に言ってしまえばそういうことだね。ただし、私の担当はA組専門だ。ただ、二年F組に面白い学生がいるから、たまに様子を見に行ったりしているけどね。」

グラハムは思い出し笑いをしながら、そう話した。

「二年F組…。」

二人は思わず顔を見合わせた。はっきり言ってしまえばF組は英霊学校の一番落ちこぼれや問題児の生徒達が集まったクラスだ。グラハムがそこに気になる生徒がいると言う。気になったランスロットは、

「その面白い生徒と言うのは、いったい誰ですか?」

と尋ねた。グラハムは笑うのをやめると、

「トーマ・クレイバー。少し珍しいタイプの魔法使いだ。君達と違って体術系の得意な子でね。ある意味注目している。」

と、手にしていた携帯端末を操作して学生証の写真を二人に見せた。

「あれ、この人。私が編入したばかりの時に図書館でぶつかった…。」

ミモザは、あの赤茶けた髪の活発な少年を思い出した。

「あの時の、あいつか。」

ランスロットは渋い顔付きで呟いた。

「機会があれば、是非一度二年F組との合同授業を企画しているから、楽しみにしておいで。」

グラハムは愉快そうに携帯端末を背広の胸ポケットにしまうと、チャイムの音を聞いて授業を始めた。


 翌日、校門前で落ち合う約束をしていたミモザとランスロットは、合流すると早速オキニウス大霊祭が行われる街の大広場に向かった。食べ物、おもちゃなどの様々な屋台が立ち並び、街はたいそう賑わっていた。色とりどりのイルミネーションに飾られた木々や街の建物が美しく輝いていた。

「わあ!凄い人だね。仮装している人達もいてハロウィンみたい!」

ミモザは街の往来をランスロットと歩きながら、歓声をあげた。燕尾服を着て、初めて私服姿のランスロットを見たミモザは改めて名門貴族の出身なのだと感じた。女生徒達がランスロットを『王子』と呼ぶのもきちんとした身なりから何となく頷ける。ミモザはグラハムからの援助と学園からの奨学金で日々の生活をやり繰りしていた。服装もランスロットに比べれば普段着というか、ベージュのジャケットに白のニットとレギンスを履いた質素な身なりだった。

「年に一度のオキニウス大霊祭だって言うのに、お前その格好で出る気か?」

ランスロットがミモザをまじまじと見てそう言った。

「仕方ないでしょ。私はこんなパーティーみたいなお祭りに参加するのは初めてなんだから、皆みたいなドレスなんて持ってないの!」

ミモザが恥ずかしそうに答えると、ランスロットはくるりと向きをかえて、

「じゃあ、ついて来い。俺が祭りの衣装を買ってやる。」

とブティックのある方向へと歩いて行った。

「いいよ、そんなの。ランスロットに悪いよ!」

ミモザはランスロットの後を追いかけて遠慮していたが、ランスロットは気にした様子もなく女性向けの高そうなブティックの店に入った。

「お前がよくても俺が良くない。必要経費だ、気にするな。第一、その格好で俺と並んでいたら浮きまくりだろう。」

きちんと王子様風に正装したランスロットの横に立っているミモザの姿をブティックの鏡の前で見て、彼女も反論の余地はなかった。ランスロットは店の女性店員にミモザの衣装を持って来るよう頼んで、ミモザに似合うドレスを見立てた。清楚な白を基調とした、金色の刺繍とレースをあしらったドレスを選ぶと、ランスロットが店員にカードを渡しててきぱきと支払いを済ませた。

「お買い上げ、有難うございました。お客様の彼女さんによくお似合いですよ。」

と店員が営業スマイルでそう言うと、ランスロットとミモザは赤くなった。

「違います!ただのクラスメイトです!」

ミモザが否定すると、ランスロットも、

「こいつは、ただの連れだ。」

と言って、二人で店を後にした。大広場に戻ったミモザとランスロットは、ちょうど音楽隊が曲を奏で始めてダンスタイムに差し掛かったところだった。

「どうやらダンスには間に合ったようだな。ミモザ、手を。」

ランスロットは丁寧にお辞儀をしてみせると、右手をミモザに差し出した。

「ランスロット。私、ダンスなんて踊ったことないよ。」

戸惑っているミモザにランスロットは強引に彼女の手を引いて、ステップを踏んだ。

「任せろ。ちゃんとエスコートしてやる。俺の動きに合わせていろ。」

二人は人込みに紛れ、軽やかにダンスを楽しんだ。最初はあたふたしていたミモザもランスロットのエスコートでだんだんとダンスにも慣れて、時にはくるくると回ってみせた。

「あれ?あんた達、白服の一年生じゃん。こんな所で再会するなんて、奇遇だねえ。」

そこには、いつぞや顔を合わせた赤髪にヘアバンドを付けた明るい緑色の瞳のトーマがいた。どうやら向こうもランスロットが首席でミモザが次席であることから、噂で二人のことを知っているらしかった。先日、グラハムから聞いた二年F組の気になる学生、その人だった。彼も祭りに合わせて正装していたが、実にラフな着こなしであった。

「お前、トーマだったな。一人でこんなところに来て何をしている。」

ランスロットがトーマに尋ねると、

「一人じゃないよ。二年F組の友達と一緒に来たんだけど、この人の多さでしょ。途中ではぐれちゃって。良かったら、おいらにもパートナー貸してくれない?」

と悪びれた様子もなく、笑顔でそう答えた。

「誰が貸すか。」

ランスロットは真顔で言った。

「何、何?君、一年で首席のランスロットでしょ。そっちの彼女は次席のミモザちゃん。二人ってやっぱり付き合ってるの?」

ミモザとランスロットは口をそろえて、

「付き合ってなんかいない!」

と否定した。トーマはにまにまと笑いながら、

「だったら、いいじゃん。一曲くらい付き合ってよ。おいらパートナー決まってないんだ。」

人懐っこくミモザの方を向いた。ランスロットはミモザをちらっと見ると、

「ミモザ、向こうへ行こう。」

とトーマから遠ざけようとした。ミモザはランスロットに手を引かれて、街の大広場にあるオキニウスの石像の方へ歩いて行った。トーマは残念そうに二人を見送りながら、はぐれた友達を探しに行った。盛大に花火が打ち上げられると空にオーロラが現れ、ミモザは初めて見るオキニウス大霊祭にすっかり夢中になっていた。ふと、辺りを見回すと夫婦らしき人達やカップルが多いことに気付いて、ミモザがランスロットに尋ねた。

「何だか、こうして見ると周りの人達、カップルばっかりだね。オキニウス大霊祭って男女ペアじゃなきゃいけない意味でもあるの?」

ミモザの問いにランスロットは、

「ああ、夫婦で来ている人も多いだろうな。オキニウス大霊祭では魔力補給の効果の他に、子宝に恵まれるって言い伝えもあるからな。」

と淡々と答えた。

「ふうん…。それで男女カップルが多いんだ。赤ちゃんかあ…。」

ミモザがいちゃいちゃしている周りの夫婦らしき人達を見て、感心したようにしみじみと言った。

「言っておくが、俺がミモザを誘ったのはその手の意味じゃないからな。あくまで魔力補給が目的だ。」

ランスロットは少し赤くなって、そう弁解した。

「念を押さなくても、わかってるよ。」

ミモザはくすくすと笑いながらランスロットの顔を見た。

「あと、素敵なドレスをプレゼントしてくれて有難う。ランスロットは意外と面倒見良いよね。」

ミモザはドレスが気に入ったようにくるりと回った。ランスロットはそんなミモザを見つめながら空を見上げた。オーロラがだんだんと大きくなって、虹色に輝いていた。

「そろそろ時間だ。お互いの魔力を循環させるぞ、ミモザ。」

その言葉にミモザも頷いて、二人はお互いに向き合って相手の手をとった。

「うん。魔力を高めて、お互い一番強い英霊を召喚しようね。」

周りの人達もお互いのパートナーと手を取り合って、次第に身体が光り出した。ランスロットはミモザと天空の竜脈から流れ込んで来る魔力を感じながら、ある違和感を覚えた。(ミモザの魔力量…、間違いなく首席クラスだ。だが、微かに別の人間の魔力を感じる。波動は似ているが…どういうことだ。)ミモザには誰にも言えない秘密があった。異世界ナグナの人間ではないこと、体内に弟・拓斗たくとの魂の半分を宿していること。ミモザはランスロットの魔力を感じ取って、嘘偽りのない清廉なその魔力に憧れすら抱いた。オキニウス大霊祭は佳境を迎え終わりの時が近付いていた。ミモザとランスロットの魔力も無事に高まり、最高潮に達した。高揚した身体にランスロットはふいにミモザを抱き締めた。

「また、来年も一緒に来よう。それまで成績落とすなよ。」

ミモザはじたばたしながらランスロットの腕を振りほどけずにいると、

「う、うん。」

と小さく頷いた。出会った頃に比べ、ランスロットの背は急激に伸びて今ではずっと目線が高くなっていた。ミモザは男の子の成長の早さを間近に感じながら、オキニウスの石像の前でしばらく抱き合っていた。二人とも、まだこれからの人生を大きく左右する相手だと知らず、ただ純粋に好意を抱いていただけだった。

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