01:今のところ、平和
「式降くん。今日の放課後、テラスでお茶会をするんだけど、一緒にどうかしら?」
「いおりーん! 今日のお昼こそっ、絶対に私たちと食べようね!」
「あの、式くん……五限目のグループ発表一緒にやらない?」
「ねえねえ、伊依くん! 今日の夜、談話室で勉強会やろうよ!」
キャアキャアと女子高生オーラを遺憾なく発揮しているお嬢様方。今日も今日とて元気なその様子に、私は嬉しさと安堵を同時に感じる。彼女たちがこうしていつも通りにしてくれている間は、きっと私にとっても平穏な日常が続くのだ。そう思うと、自然と笑みが零れるものだった。
「うん。お昼は利加香ちゃん、五限は二楷堂さん、放課後は神乃宮さんで、夜は紫苑ちゃんだね。楽しみにしてるよ」
私の机を取り囲んでいる彼女たちにそう頷くと、彼女たちは光にかざしたビー玉のようにその瞳を輝かせる。そんな女の子の喜んだ顔を見るのが大好きな私なのだけれど、ひとつ問題があるとすれば、だ。
やりすぎた。
頬を仄かに赤く染め、潤みを帯びた彼女たちの表情を見るたびに、そう思わずにはいられない。これは完璧に恋愛対象、またはそれに準ずる対象として認識されている。『女性の魅せる仕草100選』を全て暗記している私が言うのだ、間違いはないだろう。
そう内心ヒヤリとするものを感じながら、私はそそくさと席を立ち、適当な理由をつけて彼女たちから距離を置く。その際寂しそうな表情を見せられると、これまでの癖でつい口説きそうになってしまうのだが……我慢だ我慢。
心の中でため息をつきながら教室を出て、女子生徒の視線に晒される私、式降伊依。
今も昔も死亡・恋愛フラグと戦い続ける、れっきとした17歳女子です。