◆7 言葉
◆7 言葉
「いいよ」
明の口から出た言葉。
短いが、チェカが望んだ言葉であった。
明は笑って言った。投げやりのように見えてしまう態度で。
「そんならいいさ。あ、視界に入らない努力はしなくていいから。迷惑掛けずにいてくれるだけでいいから」
さきほどの態度はいずこに――。
明は軽い態度でそう言って、雑にベッドへと真横に倒れ、顔は淡い橙色のシーツにぶつかる。
足はベッドからはみ出たまま、ななめでさらにひねった、苦しそうな印象与える体勢で転がっていた。
「え? え? いいんですか? いいんですね? もう出てけとか言われても出ていきませんよ!」
彼女の突然の態度と言葉に困惑するも、チェカは嬉しそうに言った。
明は無表情のままそれを背中で受け取っていた。
「でも、急に……?」
「え、嫌なの?」
明の問いに首を左右に大きく振って否定するチェカ。
しかし、まだ捨てきれない凝りが残るチェカがでも、と接続詞を小さくつぶやくように向けた。
それに答えようと明の口が開く。
「……なんかさ。漫画と混同させて申し訳ないんだけどさ」
口を動かし、そして足を引きずるようにしてベッドへと乗せる。掛け布団をぐっと足元からひっぱり頭からかぶった。
こもった声がチェカへと届く。
息を吐いて間を空ける明。それも一瞬で、すぐに再開させる。
「とりあえず、へんなもんと関わった奴は、なんかに巻き込まれまくることになってんの。私はそれが嫌なのに。あ、漫画と一緒にするなとか言わないでね、だってあんた自体が漫画だもん」
笑った。布団の隙間からうねうねと黒い髪がでていた。
「えっと。気が変わったんですか?」
「いや。いまでも出てってほしいけど……」
うつ伏せの体勢を、チェカの方へと変えながら唸り思考を巡らせる明。ぴょこりと首から上が出る。
「けど。まあ、おもしろいかもしれないに1票。冷えた頭が考えた結果のまあどうでもいいやに7票。諦めに10票。追い出すのが面倒くさいに11票」
口を動かす明を、困惑と呆れの入り混じった表情を向けるチェカ。
それを見て微かに笑った明は、もう一言付け加えた。
「眠たいから早く寝たいに200票」
その言葉と同時に、明はまたも頭からかぶる。
チェカは早々と移り変わる状況の展開についていけず、意味もなくペタンとその場に座る込む。
静寂よ再び。
雨音はぼんやりと聞こえる程度。
目をむければ、窓の先の明かりが色を変え戻っていく様が流れた。
時も刻まずにおだやかに流れる。
落ち着くためか、チェカは深呼吸ととれる動作をした。
顔を淡い黄色のなだらかな山となった布団の塊へと向ける。
寝息は聞こえない。
言いようのない表情をまた浮かべ、チェカは強く目を閉じた。――どれくらいだろう。
目を開けた。音を立てずに立ち上がろうとするチェカ。
しかし、その動作は中断される。
いきなりガバッと起き上った明によって。
「えっと」
「お腹空いて寝れん!」
明はチェカの言葉を遮って壁に向かって怒るように小さく叫んだ。
チェカと存在なんぞ忘れたといえる態度……と思いきや、なんか食べれるの? とチェカに問うた明。
対応に戸惑うチェカだが、左右に動かした視線を明へと止まらせ、
「ううん。でも、でもね。お手伝いしていい?」
きらきらした瞳で聞いた。
「どうぞ、お好きに」
またもそっけない態度だが、チェカは気にしてなどいない。最初から。
「あの……。がんばりますね」
「何をだよ」
笑った。笑った。