◆2 雨音
◆2 雨音
たたきつける鈍い音が、窓の方向から聞こえる。
雨が降っていた。
雨が嫌いな明は、それだけで顔をゆがませる。
その表情を見て、
「どうかしたんですか?」
問う存在がここには居た。
しかし、明は数時間前のことを忘れており、驚いた表情で声のした方へと視線を飛ばす。
明の瞳がとらえたのは、すらっとした女性の姿であった。
その女性の顔からは年齢が特定できず、全体の雰囲気から20前後か。
だが、自分と同じ年齢と言われてもなんら違和感のない、そんな女性であった。
自分で気付かないうちに体を起こしていた明は、女性へと体を向かせる。視線は一切女性から外さずに。
ようやく、眠気から(驚きで)覚めた明は思いだした。
まだ認めたくない気持ちが残るも、認めざるをえない"ある事"を。
明は知っていた。知ってしまった。
「帰れって言わなかったか?」
眠気が飛んだからなのか、前よりも怒りを見せない明。
そんな明に笑顔を見せる女性。
温かい微笑みはこの事か。
「言われましたけど、まだ最後まで話してませんから。貴女が寝てしまったので」
「ああ、だからあれから記憶がないのか」
明が言う"あれ"
それは、今目の前にいる女がありえない存在――"天使"である証拠ととれるモノを見たことだ。
明の頭に綺麗に蘇る夜の記憶。
「なあ、"あれ"は夢なのか?」
眉を崩して、苦い物を口に入れた表情の明。
まだ信じ切れていない、信じたくないと。
女は前と変わらない笑みを向ける。
「あなたがいう"あれ"は、この姿のことですか?」
座りながらそう言って、羽根の塊を広げた。
窓から侵入した鈍すぎる光に当たり、前よりもはっきりとした形を見せてくれた。
それはまぎれもない、翼だった。
それはとても美しかった。
どこからともなくだした、純白と断言できる代物。
魅いる明の口が勝手に動く。
「きれいだね」
そう、一言。ぽつりと出した。
笑みを輝かせる女は、
「ありがとう」
と、返すだけ。
そして、
「お話があります。よろしいですか?」
前と同じ台詞を言った。
「できるだけ短く、わかりやすくね」
雨音に負けない小さくはっきりした言葉は、女へと伝わる。
「はい」
返事は短いものだった。