◆23 来客
◆23 来客
12月3日 金曜日 午前2時ごろ
ふと、目を覚ましたこの部屋の主――明。
また眠りにつこうとすぐに目を閉じた。
しかし、眠れないのか明は閉じた目をまた開け身体を起こした。首を軽く回す。
ふうっと短く息を吐いた。
首だけ動かしドアの方を見つめる。
明の頭には、下に行って一口お茶を飲むか、温まったこの布団で目をつぶって自然に眠りにつくのを待つか。選択に迷っていた。
しかし、最終的に面倒という理由に一階へ行くのを諦める。
起こした頭を枕に押しつけ、布団をかぶる。息苦しくなってすぐに顔を出したのだが。
目をつぶる。ああ、明日は6時間授業だな、などと思いながら意識を落としていく。目の奥が重たくなる。
あと2分もすれば寝息を立てるだろうと思われた時、部屋中が眩しく輝いた。
それはもう腹立たしいほどに。
なんだと驚く。目を開け身体を起こす。
そして、明の頭にはひとつの記憶が叩くよう再生される。
あの日。
あいつが。
ここへ。
やってきた日のこと。
目の回る勢いでそれが駆け抜けた。
明の口元がゆがむ。自然と、顔がほころんでいた。
短いため息。
零れる息の笑い。
ああ、なんで私は――。
そんなことを思っていた時、明の耳へと降り注がれたのは、
「はぁ~い。えっと……、こんばんは、でいいのかな?」
全く聞き覚えのない声だった。
知らない声は、驚く明の顔を見たのか、クスリと笑った。
外のわずかすぎる灯りと、慣れてきた眼が、部屋の真ん中に立つ知らない声の姿を捉える。
あいつに似た、女性的なシルエットだった。
そして、明らかに違和感を発する影。
明はそれが何か判った。判ってしまった。
「天使」
判ったときにはもう口が動いていた。
なんで、と声にならない言葉をつぶやく。
知らない声はおお、と意外そうな声と嬉しそうな声が混じったそれをもらす。
「なんでわかった?」
はずんだそれ。
明はそれに答えない。
先程からなんでなんでと頭の中で響くだけ。外の声に反応する余裕などなかった。
反応してくれなかったことに、まあいいやと楽しくなさそうに言った女性は、またクスリと笑って明へと近づいた。
女性が動いたことで、我に返る明。あ、と声がこぼれた。
ふるえながらも、息を長く吐き出し心を落ち着かせる明。
目を2秒ほどつぶった後、明はこう言った。
「誰だ」
さきほどの動揺を吹き払い、短く短く威嚇する。
明らかに敵意むき出しのその声。
それに、またクスリと笑う女性。足をとめた。二人の距離はわずか。
女性が、気取ったように頭をさげる。まるでピエロみたいに。
また頭があがったとき、女性は口を開いた。
「はじめまして。どうもよろしく」
右手を差し出した。それは握手を求める行動。つられて明も右手を差し出した。
だが、するりとぬけてしまった。
両者が意外そうに驚く。なんでと。
明の右手の行き場を失くし、空に彷徨う。
それを見てなのか。女性はああ、と何か分かったかのように思わせる声を出した。
含みを見せる口元の笑み。女性は楽しそうに言った。
「あなた、誰かとリンクした?」
びくりと明が肩をゆらす。それにまたクスリと不快にさせる笑みをこぼす女性。
女性がカラカラと小さく笑いながら、やっぱりと言った。
「私の姿が見えるのに、なんで触れれないか考えたら、それが一番かなと思って」
問われていない質問に答える。
そしてくるりとその場で周り、すとんと椅子に座った。回る椅子に驚いたのか短く声をあげた。
そして、くるくる回る。何が楽しいのか解らないその行動。
しかし、明の心が軽くなった気がした。
明が、質問をぶつける。
「あなたは本当に天使? ……名前は?」
帰れとは言わなかった。
女性は椅子に足で急ブレーキをかける。
すたっと軽やかに立ちあがり、
「そうだよ。あなたの言うとおり、天使。階級はちょっと秘密。言えないわけじゃないけど、面倒事になるのは御免だからね。あと、名前も秘密。好きに呼んでよ」
自己紹介をした。すらすらと出された言葉。
明は、なんで帰れって言わなかったのか、なんであの時みたいな感じでしゃべらなかったのか、それに気づくのはまだまだ先のこと。
明がこんな時間での突然の来客にも腹を立てなかったのは、あれは夢ではなかったんだという喜びが、心のどこかにあったから。
それに気づくのは先。
意識はいつのまにか落ちてしまっていた。
次話はできるだけ早く投稿しますが、
いつになるかわかりません。




