◆22 屋上
◆22 屋上
12月2日 木曜日 晴れ。
明は学生らしく制服に身を包み、長い時間を勉強にいそしんで過ごしていた。
聴きなれた授業終了を知らせるチャイムが耳へと届く。
教師が今日はそこまでと言う。あとは宿題となる。余計なことをと明が心の中でため息をついた。
丹野(クラスの総務)の号令でばらばらとクラスメイトが散る。
ほとんどの人間が教室の後ろに並ばれたロッカーへと向かった。
今日も変わらない、いつもの学校生活が終わった。
クラス担任である西が、チャイムが鳴ってずいぶんしてから教室に入ってくる。職員室からもここは遠いのである。
帰りの会(クラス単位の集会。明日の連絡などする時間)を終えればおしまい。掃除のある者は、鞄を適当なところに置いて自分の担当のところを掃除する。なければ別のクラスの友人を待つために廊下で溜まったり、友人と意味もなく学校に残りしゃべったりする者もいる。部活のある者はそこへ行くし、委員会のある者も自分のすべきことをする。
明は委員会に入ってなければ、部活にも入ってない。掃除も今週はない日だったので、掃除のある沙耶と、部活のある由奈にじゃあねと手を振りながら言って教室を出た。しかし、向かったのは下駄箱ではなく――屋上であった。
あの日、別れた場所。
テスト週間に入ってから一度も来なかった場所。
自分よりでかいフェンスが周りを囲むこの場所。
明はこの場所が好きだった。
重たい鞄を、重たすぎる扉のそばに置いた。
弱い風が、明の長い髪をなでる。
足を進め、フェンスに指を絡める。
運動場側のフェンス先に見えるミニチュアのような人影。
あちらこちらへ動く人影はサッカー部と野球部のもの。
でかい校舎に似合う運動場の周りには緑が。
学校の敷地から目をはずせば、形色さまざまな建物。何度も利用したことのあるスーパーマーケット。小さいころよく遊んだ広い公園。自分の家も見つける。
少し首を横にひねった。そこは、チェカが飛び去った方向。
「あんだけ寂しい寂しい言ってたくせに」
明はひとり言の多い人間ではない。これは、チェカがいなくなってから目立ち始めた。
だれかに言い訳するためか。
自分に言い聞かせるためか。
「帰ってくるのか? いや、べつにいいけどさ」
本音を打ち消す。
フェンスを背にする。ぎしりと鳴った。
上を見上げる。まるで映画のワンシーンのように、明はそこに存在した。
空は青く青くきれいだった。雲ひとつない、一色がただ広がる天を見つめる。
なんでかなとつぶやいた。
「帰ってきてほしいような、ほしくないような」
ため息をつきながら言った。
「まあいいよ。もし……、もし帰ってくるなら……」
フェンスから背中を離す。
扉へと歩き進み、置かれた鞄をよいしょと背負う。
重たすぎる扉を力いっぱい手前に引く。
人間ひとりが入れる隙間が開くと、扉から手を離しそこに身をすべりこませる。
閉まるとばたんとうるさく鳴るので、閉まる前に鞄で抑える。そしてゆっくりゆっくり扉を背で閉めていく。それでもガタンと鳴った。
「夜中はやめろよ」
思い出したように言葉を続けた。
やや強い風が吹き始めた誰もいない屋上。
「みーつけた」
声がした。
次話の投稿はなるべく早くしますがいつになるかわかりません。




