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天使に取りつかれて  作者: 朋子
第2章 頭痛のする平日
23/27

◆22 屋上

 ◆22 屋上



 12月2日 木曜日 晴れ。

 明は学生らしく制服に身を包み、長い時間を勉強にいそしんで過ごしていた。

 聴きなれた授業終了を知らせるチャイムが耳へと届く。

 教師が今日はそこまでと言う。あとは宿題となる。余計なことをと明が心の中でため息をついた。

 丹野(クラスの総務)の号令でばらばらとクラスメイトが散る。

 ほとんどの人間が教室の後ろに並ばれたロッカーへと向かった。

 今日も変わらない、いつもの学校生活が終わった。

 クラス担任である西が、チャイムが鳴ってずいぶんしてから教室に入ってくる。職員室からもここは遠いのである。

 帰りの会(クラス単位の集会。明日の連絡などする時間)を終えればおしまい。掃除のある者は、鞄を適当なところに置いて自分の担当のところを掃除する。なければ別のクラスの友人を待つために廊下で溜まったり、友人と意味もなく学校に残りしゃべったりする者もいる。部活のある者はそこへ行くし、委員会のある者も自分のすべきことをする。

 明は委員会に入ってなければ、部活にも入ってない。掃除も今週はない日だったので、掃除のある沙耶と、部活のある由奈にじゃあねと手を振りながら言って教室を出た。しかし、向かったのは下駄箱ではなく――屋上であった。

 あの日、別れた場所。

 テスト週間に入ってから一度も来なかった場所。

 自分よりでかいフェンスが周りを囲むこの場所。

 明はこの場所が好きだった。

 重たい鞄を、重たすぎる扉のそばに置いた。

 弱い風が、明の長い髪をなでる。

 足を進め、フェンスに指を絡める。

 運動場側のフェンス先に見えるミニチュアのような人影。

 あちらこちらへ動く人影はサッカー部と野球部のもの。

 でかい校舎に似合う運動場の周りには緑が。

 学校の敷地から目をはずせば、形色さまざまな建物。何度も利用したことのあるスーパーマーケット。小さいころよく遊んだ広い公園。自分の家も見つける。

 少し首を横にひねった。そこは、チェカが飛び去った方向。


「あんだけ寂しい寂しい言ってたくせに」


 明はひとり言の多い人間ではない。これは、チェカがいなくなってから目立ち始めた。

 だれかに言い訳するためか。

 自分に言い聞かせるためか。


「帰ってくるのか? いや、べつにいいけどさ」


 本音を打ち消す。

 フェンスを背にする。ぎしりと鳴った。

 上を見上げる。まるで映画のワンシーンのように、明はそこに存在した。

 空は青く青くきれいだった。雲ひとつない、一色がただ広がる天を見つめる。

 なんでかなとつぶやいた。


「帰ってきてほしいような、ほしくないような」


 ため息をつきながら言った。


「まあいいよ。もし……、もし帰ってくるなら……」


 フェンスから背中を離す。

 扉へと歩き進み、置かれた鞄をよいしょと背負う。

 重たすぎる扉を力いっぱい手前に引く。

 人間ひとりが入れる隙間が開くと、扉から手を離しそこに身をすべりこませる。

 閉まるとばたんとうるさく鳴るので、閉まる前に鞄で抑える。そしてゆっくりゆっくり扉を背で閉めていく。それでもガタンと鳴った。


「夜中はやめろよ」


 思い出したように言葉を続けた。

 やや強い風が吹き始めた誰もいない屋上。


「みーつけた」


 声がした。


次話の投稿はなるべく早くしますがいつになるかわかりません。

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