◆21 いつのまにかの12月
◆21 いつのまにかの12月
むしゃりむしゃりとやけ食いのような勢いで、食べていた。一応噛んではいた。
お茶で終了し、リモコンに手を伸ばし取る。
適当に見ていく。とくになし。
時間のつぶせるバラエティ番組を見ることにした。10分で飽きてしまった。
あまりテレビを見ないので、見た番組の高いテンションについていけなかっただけである。
お風呂に入ろうとするが、まだお腹がふくれて間もないので入る気がしなかった。
もう少しあとにしようとひとり言を言ってそのまま廊下へと出て階段を上る。
自分の部屋のドアを開け、電気点ける。
ベッドに転がることはせず、座椅子に抱きつくように座った。
背もたれの上にあごをのせる。すぐに嫌になってはずすが。
一ヶ月経ったことに、さきほど気付いた。あまりにもいなさ過ぎてもうなんだか頭から消えかけていた今日この頃。
「そうか……一ヶ月か。長かったようで短かった気もするな」
しみじみと過去を思い出しながら言った。
「テストがなー。学生最大の敵だもんな。あんまり余裕無かったし」
でかいひとり言をぶつぶつと続ける明。
その言葉どおり、学生らしくテストに振り回される日々を過ごしていた。
最初はチェカのことを、どこ行ったとむかついていたが、テスト週間に入れば、ときどきどこ行ったんだろうな思う日々が続いていた。そこに心配という二文字はなかった。
「おっかしいなー。出て行ってほしかったのにさ。まあ、あんな感じに別れていなくなったらほとんどが気にするだろうけどさ」
言い訳を椅子に語る。
明は眉を不満そうにゆがめる。
明の心はひとつの感情が包んでいた。
《寂しさ》
実は、人とコミュニケーションをとるのが苦手な明。
友人はいる。その2人は、女子特有の友達つくりで出来上がったもの。決して明から友人をつくったわけではない。
仲が悪いわけではない。どちらかといえば良い。でも、とっても良いわけでもない。
休日に遊んだこともなければ、メールアドレスも知らない、そんな感じだった。
それでも昼食は一緒に食べるし、なにかと一緒にいるし、よく話す。もちろん学校内。
そんなものだった。
だから、知らなかった。ひとりっ子であるがゆえ、両親もよく出かけるため留守番を小さいころから体験してたがゆえ、ひとりでいることが多かった。決して孤独が好きなわけではないのだが。
寂しいという感情がこんなものだということを知らなかった。
しーんとした家に暗闇を見て寂しいと感じたことがないわけではない。しかし、それは知識からこれは寂しいって感情だなと当てはめただけ。本物の寂しさがこんなにもポッカリと心に穴が開いたようなものだとは知らなかったのだ。
「次のテストも頑張らないとなー」
ごまかしに聞こえてしまう言葉。
誰も聞いていなかった。
それでもしゃべり続ける。
「あれって夢だったのかな?」
これはいなくなって2日後ぐらいに思いついた結論である。
しかし、そうなると本物の記憶が欠落していることになる。最悪これも夢となってしまう。
明は、落書き怪獣が鬼役の、見つかったら最後で殺されるという恐ろしいレベルの次元を超えているかくれんぼを中学生にもなってやったが(もちろん夢の中で)、夢だと夢の中で気付いた(明晰夢っていうらしい)夢は見たことがなかった。今まで生きてきて、ぶっとんだ夢を見ても夢だと気付いたことは一度も無い。起きて、ああ夢かと思うのがいつも。よって夢説を排除。
あまり不自然にならないよう、由奈と沙耶に屋上へあの日行ったかと聞いたが、肯定してくれた。
「きれいだったな。羽根」
明は目を閉じる。
瞼の上には、あの鳥肌が立つような息を呑ませる純白の翼が蘇る。
「また会えるのかい?」
誰も聞いていなかった。




