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天使に取りつかれて  作者: 朋子
第2章 頭痛のする平日
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◆20 あれから

 ◆20 あれから



 結論からいうと、チェカは明の前に姿を一度も見せなかった。

 それに対し、明は落ち込みは見せてはいなかった。

 見せてはいなかった――が、つねにチェカのことを片隅においた毎日を送っていた。

 最後に会った屋上にもたびたび足を運んでいた。

 親がいない朝も、学校に行くとき必ず行ってきますと言う。

 しかし、明は泣くことも無ければ、悩み沈みため息を吐くことはなかった。

 ガチャリと玄関のドアが開かれる。明のただいまの声が家中に行き渡る。決して大声ではないのだが。

 そのままどすどすと階段に足をかけ、自分の部屋へと向かった。

 ちいさくギギギとなる。すぐにぱたんと気のぬけた音を立て、閉まるドア。

 入り口のそばで、ずり落とすかのように重たすぎる鞄を床に放る。鞄がかわいそうに傾く。

 綺麗な飴色をしたタンスの一番面積がでかい扉を開ける。その先には制服とその他もろもろ。もろもろは靴下とか中に着るインナーとか。

 慣れた手つきでリボンの結び目を解いてはずす。

 上の制服を脱ごうと前のファスナーを下ろそうとしたとき、ポップな音楽が流れ出す。だいぶこもっている音だが。

 明が手を止め、音がなる方へと体を向かわせた。

 ぐっちゃぐちゃになった布団の下から、埋もれていた携帯電話を救出。

 こもっていたときより、ずいぶんとはずんで聞こえる音が鳴り止んだ。

 折りたたまれた携帯電話をひらく。デスクトップにはメール受信を知らせるアイコンが表示されていた。

 メールの送り主は母親。内容は遅くなるから晩御飯よろしく☆というものだった。

 よくあることなので、ふーんと明は声をもらし携帯電話を閉じた。

 着替え再開。どこにもでかける気はないようで、完璧な部屋着と化した。

 ごろりとベッドへ転がる。仰向けの体勢。何を考えているのか、ぼんやりしているだけなのか。天井を見つめること数分。

 すべるようにベッドから床へと着地。そしてかわいそうな鞄から教科書とノートを何冊か取り出す。

 部屋の真ん中に置かれた机にどっさりと置く。そして座椅子に座る。

 1時間が過ぎようとしていたとき、明が終わったーと語尾の伸びた声を出した。

 両手を握ったまま、大きく伸びをする。

 ぽとりと右手から離れるシャーペン。高いところから放たれたため、ふたつほど机の上で軽い音を立て跳ねた。

 くるりと座椅子を回転させ、ベッドの方へと向いた。

 そのまま足をひきずるようにベッドまで移動。そして寝転がる。

 疲れたとぽつりつぶやく明。

 寝てしまいそうな雰囲気。

 うなり声を上げる明。

 そして勢いよく上半身を起こす。


「ごはんを作ろう!」


 壁に叫んだ。

 その勢いのまま、一階へとバタバタと降りる。別に急いでは無いのだが。

 エプロンをつけず、(別にいつもつけないのだが)台所へ向かった。

 やや大きめのなべを取り出し、トッププレート(わからんやつは調べろ)の上へと置く。

 ガスコンロではなく、IHクッキングヒーターである暗世家。

 なべを放置し、105円のぺらいまな板と玉ねぎをひっぱりだす。

 皮をむいた後、シャキシャキと耳障りがいい音を立てて切っていく。

 目が痛いのは知らないふり。

 すべて切り終わり、それを今の今まで放置していたなべへとこれまた雑に放り込む。

 油を入れて炒める。イライラするまで炒める。色が変わるまでやる。変わりすぎると見なかったことにするしかない。

 肉をレイゾー君(冷蔵庫)から取り出し、トレイからそのまま投入。最初から切られたのやつなので問題なし。

 そんでもって肉がいい感じになるまで箸を動かす。少々水を掛ける。腹が立つまで炒める。

 いい感じになったらルーの箱裏に書いてあるのを基準にしてやや少なめで水を入れる。

 ルー投入。かき混ぜる。溶かす。消えたら蓋して箱に書いてある通りにする。(なんて書いてあるか確かめに行くのが面倒なので以下略。)

 よし食べるぞってとこまでできたら牛乳を足していく。最初からドバッと入れるとハヤシライスじゃなくなる。あ、そうそう。明はハヤシライス作っていた。

 本当は牛乳じゃなくて、生クリームいれた方が結構な代物ができるけど、そんなもの常備された家ではないので普通に牛乳を味見しながら入れていく。

 そんでまた蓋をして、30分寝かす。ちなみにただいまの時間は7時少し前。

 明は手を洗い、びったびたの右手を額にあてる。

 ゆっくり手際悪くのんびりとやったせいだ。

 タイミングよく、恥を知らない腹がぐうと鳴る。ハハッと笑ってからのため息。

 ちらりと横目に見た、おいしそうなにおいを撒き散らす物体。

 10分だけ我慢することにした。

 皿とスプーンだけ用意して、なべを背にペタペタと去る。

 どすりとテーブル側に並べられた手前の椅子に座った。

 テーブルに顔をつっぷしてぼんやりしていた。

 ふと、チェカどうしてるんだろうと思った。

 ぽつりといない相手につぶやいた。


「もう……12月だよ」


 一ヶ月経っていた。

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