◆19 問い
◆19 問い
鍵を取り出す。軽い音。重い扉。
その先には見慣れた玄関。
靴をぬぐ。くつしたのまま上がる。
かすれた音をたて、すべるように廊下を進みリビングへとたどり着く。
この家で一番の働きものであるレイゾー君(冷蔵庫のことです。夏は特に人気者。つねに活動中の超働きものの電化製品)からお茶を取り出し、近くの自分用のコップに注いだ。
冷えた麦茶を喉に通す。
そして、自分の中の違和感に気付いた。
はんば乱暴にコップを置いた。
どたどたとうるさい音を立て2階へと、自分の部屋へと、身を向かわせた。
扉の先は、見慣れた部屋。背負っていた重いかばんをほおる。
制服から部屋着へとかえるのをわすれ、長い校則に則ったスカートをひるがえし、1階へと飛ぶように下りた。
捜す。捜す。捜す。
捜した。
いなかった。
迷ったものの、親がいないことを良い事に大声を上げた。
「チェカ!!」
叫ぶように、求めるように。
声は返ってこなかった。
「嘘だろ」
困惑した顔を消すのを忘れ、まだなお声を荒げ叫ぶ。
叫ぶ。
外の音が耳へと届く。
それは明が望んだものではなかった。
落ちつかない足をまた2階へと向かわせる。
当然いなかった。
崩れ、手をつく。
動揺してる自分に叱るような舌打ち。
重いため息。
「最初のほうがひどかっただろ」
はきすてた。
制服のまま、床に転がる。
そのまま寝てしまった。
そのまま、すぐに、意識はおちた。
***
母親の驚いた声で目を覚ます。
廊下に足を少しだし、倒れたように眠っていたのだから驚くのに無理はない。
ごまかすように、笑ってその場をすごす明。
頭の奥にチェカの存在を思いながら。
母親がその場を去る。明は首をふりながら立ち上がる。寝起きの重たい体を引きずるように。
チェカ、と呼んだ。
なんですか? の声は聞こえなかった。
ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき乱す。
母親にさきほど制服について指摘されたことを思い出し、着替えようとする。
ぱたんとしまる扉。
もう一度呼んだ。
着替え終えると同時にベッドへと倒れた。
聞こえるのは一定した寝息だけ。
***
「チェカさん。おひさしぶりです」
「ん」
「さらに無口になりましたね」
「…………。えっと」
「知ってるよ。からかっただけ」
「……」
「ひさしぶり」
「うん」
ひさしぶりと返す言葉は小さくかすれ、届く。
羽根を広げた者と羽根を広げない者。
2つの目は怯え、2つの目はわらっていた。
「今から時間あるよね? 一緒に来て」
羽根もなしにふわりと舞う。
それを後ろからたよりなくついて行った。
どこに行くのかは分かっていた。
両者の良く知る場。
とても静かなところ。
出会いの場所であった。
高く高く。太陽の光に屈しず高く高く。
そして消えた。
いつのまにか消えた。
2つの存在は今、とても静かなところにいた。
そこは、出会いの場所。
両者がよく知っている、とても綺麗なところ。
ふわりとふわりと地に足をつく。
ふわりとふわりと地に足をつく。
「さて……、あれはなに?」
わらう。問いかけ。
目をそらす彼女に、笑う。
「人間。それは見れば判る」
相槌なのか、わずかに首を縦に動かす彼女。
「お前とリンクしたことも判った」
またも縦に振る。
「で、だ。もう一度聞く。あれなに?」
あれが指す者。彼女には解っていた。知っていた。
「解りません」
彼女はしぼりだすようにそれを言った。




