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天使に取りつかれて  作者: 朋子
第1章 ありえない休日
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◆1 自称天使

◆1 自称天使



 時計の針が2時を示す。

 動物の鳴き声や車の音が部屋の中へとかすかに届く。

 窓へと視線だけ動かしたこの部屋の主は、また、深い眠りへ沈もうと瞼を閉じる。しかし、すぐに眠りにつくことはなかった。正確には、眠りにつくことができなった。

 突然、部屋に不愉快な光が飛び散る。

 そのせいでおぼれかけた意識が浮き上がるように戻る。

 光を瞼の上に感じ、眉をひそめる。

 何事かと、ゆっくりと持ちあげた瞼の先が見たものは、"人間"だった。

 しかし、事態に寝起きの脳は付いていけなかった。

 さして驚きもせず、さきほどと同じく瞼を閉じようとする。

 だが、


「寝ないでくださいよ!」


 という高く澄んだ泣き言のような声に、この部屋の主、暗世(くらせ) (あかり)はむりやり覚醒させられる。

 のっそりという言葉が合うような動きで体を起こした明。

 口から出たのは、


「消えろ」


 感情をふりかけたものだった。


「ひ、ひどい。いきなりそんな……」


 真夜中にいきなり不法侵入と呼ばれる行為をした、女と思わしき者は、ふるわせた声色でこぼすように言った。

 しかし、そんなもの明には効かなかった。


「ひどいのはどっちだよ」


 半分しかない瞳を向け、フンと乾いた笑いで見下した態度で言い放つ。


「警察呼ばないでやるから、おとなしく帰れ。な?」


 叫び声もあげず、おびえる様子もない明。

 しかし、口から出たのは冷静な明ならば呆れているだろうものだった。


「警察! え、ちょ、え、やめてくださいね! ホント」


 警察という単語に慌てる女に対し、


「ああ、だから静かに帰れ」


 怒りを滲ませた言葉を淡々と吐き出す明。

 これでおとなしく帰ると思っていた明。しかしそれを裏切る女の返答。

 それはきっぱりとしたものだった。

 できません、とただ一言返した女はにこりと微笑んだ。他意がないそれ。

 明がさらに眉をひそめた。


「お話があります。よろしいですか?」


 夜中の2時に押し掛けた、なんとも非常識な女はそう言った。

 よろしいかと問うてはいるが、拒否を選択させない言いようだった。

 話をする気満々の女の態度に明は怒りをあらわにする。

 一度自身を落ち着けるために息をはいた。それでも冷静という言葉はない。

 

「ふざけるなよ。今……何時だと思ってる!」


 怒鳴り声に変わる明。

 その態度に女は困惑を見せる。

 しかし明の怒りのボルテージを上昇させただけだった。

 ギシリと歯を合わせる。


「いいか、よく聞け」


 息をすった。

 後ろからよく分からない気を放出させる明。

 それを女はぽかんとした表情で変わらず立っていた。



「なんで出てけって言ったのに出でかないのさ。あ? なにがよろしいですか、だ。あほか。こっちは眠いんですけど。話なら後にしてくれ」


 なぜか警察を呼ばず、また会いましょうととれることを明は言った。

 息をはく。

 ふとんを右手でつかみ自分の方へとひっぱる。

 言葉がないこと数十秒。

 女がわれに返り少し考えた後、


「わかりました。話はあとにします」


 素直に女は言葉を受け入れ――――その場に座りこんだ。

 ぐしゃりと自分の長い髪を掴み、目を伏せた明。


「出てけよ」

 

 言葉を勢いよくぶん投げる。


「話をするまで出ていきません」


 言葉で跳ね返す女。


「よし、分かった。分かったよ。もういいさ。ああ、いいよ。話せよさっさと。手短に話せ。1分で話せ。そんで終わったら帰れ。すぐ帰れ。さっさと帰れ」


 やけになったのか、似た言葉を繰り返す明。

 言いながら体の態勢を少々変え、窓を背もたれにする。もちろん寒くないように布団を体にかける。

 明の目は眠そうなまま、するどくにらんでいた。


「い、1分ですか!? え、えっと……」


 女は目の前にいる明の態度よりも、明が言った1分という言葉に反応する。そして1分というただの例えに従おうとする。


「えーと、ですね。何から話そう。えっと。えっと」


 瞳をキョロキョロさせながら、考え出す女。そうしている間にも時は進み、流れているというのに。

 その姿にイラついたのか、バンッと大きな音を立てる明。明の真後ろにある壁を叩いた音。

 鈍く、そして大きく響いたその音に、忙しい瞳は明へと止まる。


「一番大事な事を言えばいいだろう」


 鋭い声とともに、口からまったくもって弱々しくないため息を吐き出す。


「大事なこと……」


 そうつぶやいてから、答えを見つけ瞳を輝かせながら次に女が言ったのは、


「実は私は、天使なんです」


 大分ぶっとんだ台詞であった。


「ふざけるのもいいかげんにしろよ」


 冗談としか受け取りようがない女の言葉に、よし、蹴っ飛ばして窓から追い出そうなどと心の中でつぶやく。ここが2階だということも忘れて。

 蹴っ飛ばすために明は立ち上がろうとする。

 だが、この部屋の新たな来客によってそれは阻止された。

 足音に気付かなかっために、いきなりギギと小さな音を出して開いたドアに明は驚き、そちらへと顔を向ける。

 そこには、肉親である父親の姿が在った。

 彼は寝間着と呼ばれる布に包まれた恰好で、


「どうした? 1人で大声なんか出して」


 そう言った。

 その言葉に明は眉をひそめる。

 ひきつったような笑みと言葉にならない乾いた声を口からはきだす。


「何言ってんのさ、1人とか……。ここにもう1人いるじゃん」


 さきほどとはうってかわり、何かに怯えるように、震えた声で明はそう言った。

 しかし、その返事は信じれないものだった。


「はぁ? 寝ぼけてるのか? おまえ1人しかいないじゃないか。変な事を言ってないで早く寝なさい」


 彼は諭すように、何がおかしいのかというような態度でそう言ってこの部屋を出て行った。

 耳に痛いほど響く階段を下る音。

 明の頭に直接響くかのような心臓の音。うるさいそれを落ち着かせようと自分になにか言おうとする。

 しかし、そのまえに前から声がかかる。


「信じました?」


 その声に我に返り、声がした方へと視線を向ける。

 そこで見たものは人間ではなかった。

 暗闇でも判る大きな翼を背に広げた、正に天使の姿であった。

 とても綺麗だった。奇麗だった。


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