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天使に取りつかれて  作者: 朋子
第2章 頭痛のする平日
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◆18 邪気

◆18 邪気



 風が強かった。

 轟々と音を立てて吹き荒れていた。

 そんな中、屋上に2つの人影。どちらも女性。

 ひとつは制服に身を包み、ひとりはカジュアルな服に身を包んでいた。

 明とチェカ。

 なびく髪の毛を自由に舞いさせ、明は時計の文字盤下の壁へと座りもたれていた。明の膝の上には、まだ手をつけずに広げられた小さな弁当箱。

 チェカは雰囲気で自主的に正座をしている状態だった。

 BGMかのように、風はただ吹いていた。


「ねえ、いつもで黙っている気?」


 無言状態を破る声。怒りを滲ませたそれにチェカが肩を少しびくつかせた。

 まっすぐと、睨まないその瞳がチェカの迷う顔を捉える。


「邪気ってさ。なんだっけ……。その……、悪魔とかにまとわりついてるなんかだったよね」


 思い出すように、壁にもたれたまま明が聞いた。

 ゆっくりとうなずくチェカ。


「なんで私にその邪気とやらがまとわりついたかお教え願いますか? 天使様」


 若干怯え戸惑いを見せるチェカに対し、何か含みを入れそう言った明。

 明は吐き捨てるようにためいきをついた。


「あと、なんで勝手についてきて、いまさら消えたのかもね」


 チェカは視線を小さく下に下げたまま、瞳をキョロキョロしていた。

 口は結ばれたまま。

 

「しゃべれって」


 身をよじらせ言った。

 少しだけ風がやんだ。高い音が吹く。


「しゃべれよ」


 もう一度言った。

 チェカはなにか迷ったように顔を上げた。4つの目が合った。


「……よく、ここがわかったね」


 話の切り口としてそんなこと言った。

 困ったような笑いを浮かべながら。


「こっちは全部の休み時間つぶして探したけどね」


 嫌味をたっぷりとぬりこんだ言葉。


「……、えっとここでかな?」


 なにか望む様におそるおそる言った。


「まずいの?」


 眉をひそめる。


「いや……。その、もしかしたら人が来るかもしれないし……その時間とかも」


「時間稼ぎしてまで嘘つくんなくていいから」


 冷たい目で明は言った。


「いや、そういうわけじゃ」


「はい、どうぞ」


 追いつめるような口調で明は言った。


「……」


 詰まるように言葉を失うチェカ。

 しかし、長く深く息をはいたあと、つばをのみこんだのか喉を鳴らす。

 そして、口を開いた。


「なにか伝えとけばよかったですね。その時はうまく頭がまわらなかったので一言残すのを忘れていました。なぜ、はなれた――」


「ちょっと待って」


 明が長々と重く唇を動かしていたチェカを肩手とともに止めた。


「そのしゃべり方やめて」


 目を見開いた後、困ったように苦笑したようなくしゃりとした顔で笑った。

 またも唇を動き始めるチェカ。


「突然明の元を離れたのは、邪気に当たらないようにするため。天使には毒だから」


 冷えた目でチェカは言った。

 明はそう、と短く言った。


「なんで邪気が明にまとわりついたのはわかんない。今は消えてるし、心配はしなくていいよ。なんで勝手に消えたのは知らないけど」


 ぽつぽつと言った。


「ふーん。わかった」


 明が言った。そして、広げていた弁当に手をつけ始めた。

 チェカはそれを見て、気分が悪そうにふらふらと浮き始めた。


「先に……帰ってますね」


 チェカが背中を見せて言った。

 小さく明が相槌をうった。

 小さくなる背中。


「勝手についてきたくせに」


 ためいきまじりの文句を言った。

 チェカは逃げるように飛んで消えた。

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