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天使に取りつかれて  作者: 朋子
第2章 頭痛のする平日
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◆16 2年4組

◆16 2年4組



 マジ帰れよ、と心の中でつぶやきながら、明は自分の机と向かう。

 明の呟きが届いたかのように、チェカはしゃべり続ける。


「やーだね。帰らないもんね。それより学校ってどんなところなの? 勉強するとこってあったけどさ、あんまり詳しく書いてなかったから教えてよ! ね、ね」

 

 移動した明の背中を追い掛けながら、チェカは口を動かすことを止めない。

 誰もいない。

 正確には他の人には誰もいないように見える空間をにらめつける明。

 が、


「どうしたんですか? 何もないところをにらんで……。ま、まさか。霊が見えるとか……」

 

 オカルトマニアであるもう1人の友人――沙耶に怪しまれてしまった。


「霊じゃなくて天使ですよー」

 

 後ろで聞こえもしないのに訂正する天使。


「いや、耳元で蚊がうるさかったら」

 

 ベタな方法で、ごまかす明。

 微妙顔にひきつっているのは言うまでもない。


「そう……。残念です……」

 

 本気で残念がる沙耶。

 何度も変わった子だな、と明は思いながら鞄を後ろへとしまいに行こうとする。

 沙耶らしいな、と表情に出さず笑いをひとつ。


「あ。もしかしてこの人も明の友達さん!」

 

 またしても、叫び声に似た声を後ろから上げるチャカ。

 そうでしょ? とでも言いたげな表情で隣へとやってくる。

 しかし、もう無視しようと決め込んだ明。

 一方通行の会話がまた始まった。


「あれ~? 10月なのに蚊?」

 

 なぜそこに疑問を持ったと言わせることを由奈が言った。

 もしこれが漫画だと背景に"ギクッ"と書かれてるだろう。

 明の後ろではそんな心臓に悪い会話が繰り広げられようとしていた。

 しかし、


「由奈さん。今日から11月ですよ」


「あ、そっか」


 明のごまかしに関してはそれだけで終了した。

 ほっと胸を下ろしながら、ロッカーに鞄を入れた。

 


 由奈と沙那は中学生になって知り合い友人になった。

 コミュニケーションをとるのが苦手な明には珍しいぐらい、仲のいい友人である。


「席に着いたほうがいいよ。そろそろ先生来るだろうし」

 

 そう言われて、自分の席へと戻る。

 数秒後。


「席に着け」

 

 と、聞きなれた声が明の耳に入る。

 2年4組=明のクラス、の担当教師である、西亮(にしりょう)のものの声。

 明の目に、やや太った男性の姿が入る。もちろんこの人が西亮先生である。


「出席とるぞ」


 そう言って男子から名前を読み上げられていく。

 しかし、その声は明の耳まできちんと届いてなかった。

 単純に聞こえないだけなのだが。

 さきほどから、チェカが自己主張するかのように叫びまくっているから。


「ねぇねぇねぇ! あの明の友達のこととか色々教えて! 少しくらい教えてくれたっていいじゃんかー。聞いてますか? おーい」

 

 さっきからこの叫び声のエンドレスだ。

 口を開けないこの状況を察せないチェカは明の怒りを増していくだけ。

 2桁目へと確実に突入しただろうと思わせた頃、繰り返されていた叫び声が止まった。

 疲れたののだろう。今度はすねたように呻り始める。付け足すと苛立たしいこのうえにない音。

 9割シャットアウトされていた外の音が急に明の耳へと届く。


「暗世」


 明の名字が呼ばれる。

 自分の世界に入りきっていた明が、いきなり呼ばれたことに動揺する。


「え! あ、はい」

 

 そして、それが声に出てしまった。


「どうした? もう居眠りか」

 

 その言葉でクスクスと教室にいるクラスメイトが笑う。

 恥ずかしさよりも苛立ちが増す。もちろん上乗せされて。

 ようやくチェカが明の様子に気付く。

 しかし、その顔は何も分かっておらず、さらに苛立たせるだけだった。

 ぎりっと音が鳴りそうなほど握られた左手。

 怒りで殴りたくなる衝動を押させつけることに必死な明の耳に、場に合わない声がまたしても届く。


「どっもーー。おっはようございまーす!! また遅刻しちゃいましたー。でもニッシー、これでも超スピードで走ってきたんだよ? だから許してね」

 

 やたらとテンションが高い男がそう言って教室に入ってくる。

 その変な声に怒りがもっていかれる。

 毎度のことなので、明どころかクラスメイト全員がそちらに目線を向けるも、だれも驚きやしない。


「高瀬。あのな、こうも毎回毎回遅刻されるといいかげん俺の理性も崩れるんだが? あと、何度も言うが俺の名前は西であってニッシーではない」

 

 怒りのオーラが漂う担任。

 だが、高瀬と呼ばれた男はそんなもの知らんとでも言うように、


「いいじゃないですか、フレンドリーで。ていうか、理性が崩れるってナニ? 俺、襲われちゃうの?? コワーーイ」

 

 と、ふざけた声。

 当然、さっきの私に向けた笑いの倍以上の笑いが教室内で起こる。

 くだらない、と短いため息を吐き目線を外す。

 バンッと教壇机を叩いた音が教室中に広がる。顔を真っ赤にした西。

 さっきまでの笑いがピタリと止まる。

 読書でもしてろ、と吐き捨てて教室を出て行く。

 そんな様子を見送ったクラスメイトたちは、西を話題に色々言いたい放題である。もちろん小声。

 要らない付け足しかもしれないが、西は嫌われている。

 またもため息をつく。

 さすがになにもないとこを見つめて過ごすのはどうかと考え、明の手は1冊の本を取った。

 しおりを挟んだページを開く。

 その時、チェカの短い感動詞の声。

 しかし、さきほどの声とは異なり、どこか怯えた声のものだった。

 つい目線をそちらへとやってしまう。しかし、すぐに本へと変えた。

 チェカが少し言葉をつまらせた後、言葉を選ぶように言った。


「ものすごい量の邪気が漂っているんです。なにか……なにかありましたか?」


 明の表情が曇った。

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