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天使に取りつかれて  作者: 朋子
第1章 ありえない休日
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◆13 闇夜

◆13 闇夜



 夜。

 当然のような闇が頭上に広がっている。

 ひんやりとした風が吹く。

 頬に当たり、顔を歪める。自然と地面を見ていた。

 小走りで、見慣れた物体へと近づく。

 車。

 点々と深い深い黒とは違った色に散らばる星。

 その下で、車にもたれ待っていた。

 少し経った後、ガチャという低い音が耳へと届いた。

 意味もなく、ただ無言で空を見つめていた彼女――明。

 明の目が上へとのぼり、歩いてくる2人――両親を見つける。

 さきほど鳴ったのは今ではあたりまえの遠隔操作による車のドアを開錠した時のもの。

 もたれていた体を起こし、後ろのドアを開ける。

 そして頭をぶつけないように、身をかがめて中へと入った。

 もふっと椅子へと座る。別にそこまで座り心地が良いわけではないのだが。

 なぜか奥へと座った明。すぐにはドアを閉めなかった。

 明が何も無い空を睨む。唇が動いた。

 音を立ててしまるドア。

 明は疲れたのか、ぐったりと背もたれへと体を預けた。

 数十秒経った後、再び音を立てて開かれる前のドア。

 両側が開く。左から母親。右――運転席は父親が座った。

 たわいもない、普通の家族らしい話がくり広がる。

 それを黙っておとなしく聞いてる存在がいた。



***



「だから留守番してればよかったじゃん」

 

 部屋に入るやいな、言った。ベッドへと座る。足元近くの引き出しからドライヤーを取り出す。

 濡らした髪の毛をドライヤーで乾かし始めた。

 何もないとこへ目を向けた。

 そう何もないとこ――。

 しかし明には見えていた。 

 天使と言うありえない存在が。


「寂しいじゃないですか!!」


 チェカはすねたような表情でそう返した。

 明は呆れた顔で、

 

「寂しいって……、またそれか。1人で店の上にいるのと、ここで1人でいるのと、さほど変わらないと思うけど」


 鼻で笑いながらそう言った。

 チェカがいいんです、と伸ばした言葉が、まさに子供のような口調で返ってきた。

 それにまた笑う明。


「あのさ。記憶ないんだよね。それに対してあんた……。チェカは、どう思ってるの?」


 少し迷いのある質問。ようやく遠慮を覚えたか。


「どうって……。そ、う……だね。特に何も」


 問われた存在――チェカは、唐突に問われた質問にそう回答を述べた。

 何も、何も、感じてないようだった。


「なんにも覚えてないんでしょ? 友達の事とか、家族の事とか」


「そうなるね」


 あっけらかんと言った。ただ肯定した。チェカは首を傾げる。


「…………」


 不満を無言で表す。

 苛立ちを抑えたような表情の明。鋭い目が向けられる。

 少しだけ無言になったあと、しゃべりだした。 


「私さ……チェカのこと大嫌いだったんだ」


「過去形ってことは好きなんですか?」


「いや嫌いになっただけ」


 えー、とチェカが不満そうに声を出した。

 明の持っていたドライヤーが静かになる。引出しにしまわれた。

 ため息をついた明は、肩を落とした。


「なんかイライラするんだよ。出会いが最悪ってこともあったけどね」


「あ、あれはすみませんでした」


「前に言ったけど、面倒事に巻き込まれるのごめんだし」


「迷惑はできるだけかけないつもりです」


 その言葉に思いっきりため息をついた。

 チェカはそのため息が何を意味するのか解らなかった。


「明日、学校だしもう寝るよ。おやすみ」


 話を切り上げるために、そう言った。

 天井にへばりついている電灯に目を向けた。立ち上がる。腕を伸ばした。そこには垂れさがるひも。それを軽く引っ張る。

 闇が来た。星の明かりと町の明かりが少しだけ部屋を照らした。ぼんやりする程度にしか見えない。

 明は、雑にベッドへと寝っ転がり、丸まった布団をひっぱって体の上にのせる。

 チェカは、立っているのもなんだしと思い椅子へと座った。

 今度は驚かない。

 ただ、ただ、背を向け丸まった明を見ていた。

 ――目を閉じた。

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