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天使に取りつかれて  作者: 朋子
第1章 ありえない休日
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◆9 一驚

◆9 一驚



 長針が3を指す。


「あーあ、お昼御飯食べ損ねたし。あー、うん。いいや別に」


 ぶつぶつとひとり言を重ねる明。


「お風呂入らないと……」


 明は枕へそう言って、腕の力で体を起こす。

 猫背で壁とにらめっこすること5秒ほど。

 眠気でぼーっとする頭をゆらし、覚まさす。

 はみでた片足を床に下ろし、そのままひっぱるようにもう一方の足を床につける。

 チェカの脇を通りドアの方へ、のそのそと歩く明。

 チェカはドアノブに手をかけた明に聞く。


「どこ行くの?」


「風呂」


 即答。

 かすれこすれた小さな音が立つ。

 開いたドアの隙間に体を滑り込ませる。


「えっと入浴場のことだよね」

 

 半分廊下へと体が出た状態で、明は視線を上にやって考える。

 考えた結果、


「たぶん」


 きちんと閉まらないドア。ギギッと小さくなる。

 明は階段を転げ落ちるようにおりた。

 最後の最後で踏み間違え、体勢を崩して、ようやく目が覚めるのは何秒後か。

 右手で手すりを思いっきり掴む明に、大丈夫? と真横から声がかかる。

 そこで本当の意味で目が覚めた明。

 今度は明の驚きの悲鳴。

 前のめりの体勢を支え、床とごっつんこすることを防いだ右手を手すりを思わず放してしまった明。

 べちゃりと明が床へと着地。

 さっきより慌てたチェカの声が明の耳へ届く。

 顔を守るために反射的に動いた腕の痛さを、思いっきり吐いた深いため息で抑え込む。

 またも腕立て伏せの要領で腕を伸ばし体を起こす。


「なにその珍芸」


 チェカは壁から顔を出していた。



***



「それ今度やったら怒るから」


「ハイ……」


 ドライヤーのうるさい音の中で会話が進む。


「なぜ普通にでてこない、てかどうやったんだよ」


 その光景を眉をひそめ思い出しながら、呆れた口調で言った。


「声のした方へ行っただけなんです。決して驚かすつもりは……」


 びくついた声で、ややうつむきながら話した。

 反省しているのは明にも分かっていた。


「もういいから」


 明はため息を添えて言った。

 

「ハイ……」


 どよーんとした空気を背負ったチェカ。

 そんなチェカをまるで無視し、


「てか天使ってごはん食べるの?」


 唐突に聞いた。

 チェカが一瞬瞳を逸らした。

 そして、うまく言葉がでないのか口をパクパクさせる。

 ひとつ深呼吸してから、


「い、いえ。その……りょ、料理ができないことでわかっていただけたかと思いますが、天使はどんな命でも奪うことを許されないので、食物も口に、いれ、入れるというか食べるという行為がダメで……」


 素直に答える。

 青ざめてはいないが、青ざめたように見えてしまうしゃべり方。

 怯えとは違うものだったが、おどおどとした調子でしゃべる。


「なんでそんな事知らなかったんだよ」


 ぽいっと言葉を放った。


「だって、その……」


 言葉につまるチェカ。


「あ、記憶喪失の影響?」


 明は思いついた言葉をストレートに言った。 


「あ、いや、えっと、そ、そうですよ。そう」


「おかしいだろ。本に書いてあったんじゃないの?」


 冷たい目をして切り返す。

 明はわざと聞いたのか。


「そうですけどー」


 言い訳する子供のように、口をちょっと尖らせ、黙った。

 うつむいたチェカから視線をはずし、キッチンへと足を運ぶ明。

 そして一言。


「お皿だして」


「え、あの……」


 戸惑いの声が明の背中へ向けられる。

 手は空をさまよい、目は落ち着かない。またも口をパクパクさせる。

 明に言わせて見れば、間抜け面。

 明は首だけひねり、目を後ろへとやった。そして――。


「冗談だ。1人で静かに食べるからどっか行け」


 鼻で笑い、言った。

 明の手が蚊を追い払うように動く。

 チェカが壁に消えた。

 今度は驚かなかった明。

 額に手をやり、やるなって言ったのに、と天井に言った。

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