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五神の国―光輪の仇―  作者: 海夜音琴
5/5

入局試験〜リドル編〜

「嬢ちゃん達気にしてねーみたいだけど、一応言っとくな」


 他の人に呼ばれ、ぶつぶつと呟きつつそちらに行くアカネさんを送り出した後、ロートがぽつりと言う。


「チェーニの噂は、ほとんどがガセさ。実際のあいつは悪人ぶってるお人好しで、もし捨て猫がいたら、絶対に拾って帰るような奴なんだ」


 チェーニのことを語るロートの表情は、とても穏やかだ。それを見て、テラとリドルも思わず柔らかに微笑む。


「うちらは、噂なんかに影響受けんけん。ねっ、リディ!」


「おう! ……それにしても、ロートはチェーニのことが大事なんやなー」


 リドルがそう言うと、ロートは一瞬きょとんとしたがすぐに笑顔を浮かべた。


「まっ、親友だからな!」


 へへんと胸を張るロートはリドルと被って見え、テラは思わず吹き出す。


「何笑いよん、テー?」


「別に深い理由ないけん、気にせんとって」


 そう言いつつも、テラはぷぷっと笑っている。リドルはそれを見て、


「……変なテー」


「お二人さん、そういやぁ試験受けに来たんだよなー?」


 ここへ来た真の目的を再び言われ、テラとリドルははっと我に返る。


「そやったそやった!」


「すっかり忘れてしまっとたわー」


「じゃ、試験内容どうする? 好きなの選んで」


 そう言ってロートは、色々と何かが書いてある紙を差し出した。それを受け取り、二人は目を通す。


「試験内容って、いっぱいあるんやなー」


「そうやねー。『強さの適当な者と試合』、『怪物エネミー一体の討伐』……。んー、色々あるけど、うち適当な者と試合がいいなー」


「ほやなぁ。慣れたとはいえ、人のほうがやりやすいしな!」


 テラの意見にうんうんと同意すると、リドルはロートを見てにぱっと笑った。


「ロート、『強さの適当な者と試合』にするわ! 俺ら、その方が全力で戦えると思うし!」


「おぉ、分かった! ほいじゃ、まずはどっちからやる?」


 そのロートの問いに、二人はきょとんとする。


「どっちからって、俺ら二人で戦うで?」


「うん。うちら、戦うことに関しては二人で一つやけん」


 平然と言う二人にロートは、お笑い芸人にも負けない華麗なコケを披露した。


「おいおい、まじ? 普通、二人組で来ても試験は一人ずつ受けてもらってんだけど」


「え、そうなん!?」


「うちらそんなん聞いてないよー」


 リドルは深い緑色の目を見張り、テラは拗ねたようにぷくっと頬を膨らます。


「ねぇロート、二人でやったらいかんのー?」


「んー……。今までもそういうルールでやっきたし、ダーメ!」


 ロートが両手を使って大きな罰印を作ると、テラは口を尖らせた。


「……何なん、ケチ!」


「剥れてもダメなもんはダメー!」


「ま……まぁテー、一人ずつでもかまんくねぇ? ほら、どんだけやれるようになったかっていう、腕試しのつもりでさぁ」


 剥れたテラは写真を撮りたいほど可愛いが、試験を受けられなければ元も子もない。リドルは剥れるテラをまぁまぁと宥め、妥協案をだす。


「ほやけどぉ……」


 テラは納得出来ないようで、煮え切らない声を出した。


「テー、試験受けれんなってもかまんのか? 仇、討つんやろ?」


 そう耳元で囁くと、テラはピクリと反応した。

 くるりとロートの方へ向き直り、声高らかに宣言する。


「もう、それでかまんわい。一人ずつやってやろうやん!」


「よーし。じゃ、どっちからだ?」


 テラはちろりとリドルを見る。

 “先にやれ”という念を込めてじいぃと見つめれば、リドルは諦めたように溜め息を吐いた。


「分かった分かった。俺からやるけん、そんな目で見んといてや」


「そっちの坊っちゃんからだな。試験相手は今から見繕うから、少し時間がかかる。だからそれまでは……」


 ロートがこれからのことを告げているが、テラとリドルの耳には入っていない。

 二人はシンクロしているかのように同時に目を閉じた。息を大きく吐いて、大きく吸う。呼吸のタイミングが合っている様は、まるで双子のようだ。


(大丈夫。うちらなら絶対受かる)


(大丈夫。俺らやったら絶対受かる)


 カッと同時に目を開くと、二人は無言で拳をぶつけた。

 いよいよ、大型ギルド、ライゼ・フォルクの入局試験が始まる――。





「って何で、俺の相手がさっきの人なん!」


「し……知らねぇよ! あそこの赤鳥に聞きな!」


 試験を行う演習場に移動してきたテラとリドル、そしてギルドの何人か。

 テラは隅っこの方に立っているが、先に試験を行うリドルは演習場の中央にいる。そしてそのリドルと対峙しているのは、茜色の髪をもつアカネだ。

 用を済ませてロビーに帰ってきたアカネは、ロートに「試験」の一言だけを告げられた後に連行され、今に至る。


「ロート、何でこのオバサンなん!?」


「おばさん言うな、くそ餓鬼! あたしはまだ二十九だ!」


「……言うて、もう三十やん。三十路やん」


 テラがぽそりと呟いた声は、恐らく誰にも聞こえていないだろう。因みにテラの中では、三十からオバサンに分類される。


「それはまぁ、俺の判断で!」


「てめぇの判断なんか信じれるか! ……それよりも餓鬼、さっさとするぞ!」


 手首のリストバンドをいじりつつロートに吼え、そのままの顔でリドルを見るアカネはある意味圧巻だ。二十九には見えない綺麗な顔が台無しである。


「それじゃ、始――」


「あっ、リディ! ごめんロート、ちょお待ってくれん?」


 開始を告げようとしたロートに待ったをかけ、テラはリドルの元にトテトテと歩み寄った。


「? テー、どしたん?」


「うちおらんのやけん、ちゃんと状況見て動くんよ? あんたいっつも、『先手必勝ー!』って突っ込んでいくんやけん」


「そんくらい分かっとるわい! ま、安心して見とけって」


 片目を瞑り、リドルはテラの頭をポンポンと軽く叩く。


「も……もう、子供扱いせんとってや!」


 むう、と剥れつつ、テラはリドルの顔をじっと見た。

 柔らかく笑っているが、その面持ちはどこか真剣味を帯びている。先程までアカネ達とふざけていたとは思えないくらい、もうすぐ始まる戦いに意識を向けているのが伝わってきた。

 いつの間にリドルは、こんな表情(かお)をするようになったのだろう。


(いっつも馬鹿騒ぎしよったのに、いつの間にこんなカオ……)


「どした、テー?」


 黙り込んだテラの顔を、リドルはひょいと覗き込んだ。


「ううん、何もない。頑張って、リドル」


 何年かぶりに愛称ではなく彼の本当の名で呼ぶと、テラは駆け足で元の場所に戻る。


「ごめんロート。もうかまんよ」


 隣にいるロートを見上げると、彼は頷き宣言した。


「始め!」



      *



(久し振りにリドルって呼ばれた)


 駆けていく小さな後ろ姿を、リドルはほけーと見ていた。心臓が、有り得ないくらいに踊りまくっている。


「ごめんロート。もうかまんよ」


 後一歩でとろけそうだったリドルは、テラの冷静な声を聞きはっと我に返った。


(いかん、俺! 今はときめいとる場合やない! 試験に集中せな!)


「始め!」


 ロートの開始宣言により、演習場全体に緊張が走る。

 リドルも気を引き締め、相棒の双剣を一気に鞘から引き抜いた。反り返った刀身が、キラリと光る。

 一方のアカネは、武器らしき物を何も持っていない。


(魔法で戦うんやろか?)


 双剣を構え、相手をじっと見据える。

 アカネもリドルを見ている。しかし、両者共に見つめあったまま動かない。

 演習場の緊張感が、段々と高まっていく。どちらが先に動くのか。それはリドルにも分からない。

 風が吹き、アカネの茜色の髪を揺らした時。彼女が動いた。


「海から生まれし知恵高き誇り高き使者、“水猫(マリンキティ)”」


 アカネの口から、凛と紡がれる一つの詠唱(スクリプト)。しかしリドルにとってそれは、聞き慣れたものであった。


(水猫か。テーによう食らったわ)


 つと懐かしさに頬を緩めると、水で形作られた猫がリドルの目前に現れ、鋭い爪を出して飛びかかってくる。

 リドルは水猫がかかってくるのとほぼ同時に後ろへ飛んで躱し、そして右手の剣で一閃。

 水猫を形作る水が斬られたことで辺りに飛び散り、リドルの口元と腕を僅かに濡らした。その時チクリと小さく走った痛みは、水が冷たかったからだろうか。


(水猫は当たったらめんどいけんな。避けれて良かったわ)


 水猫(マリンキティ)はなかなか厄介な水魔法で、水猫の爪に引っ掻かれば肉が裂け血が滴るのは必至。そして厄介と言われる最大のポイントは、水猫に触れると体が凍り付くことだ。攻撃と拘束を兼ね備えた魔法、それが水猫(マリンキティ)である。


(次は、俺から行かしてもらおか!)


 リドルはふっと息を吐くと、呪文を唱えた。


「我の燃ゆる魂今ここに具現化せよ、“宿り火(インハビットフレイム) ”」


 唱え終わるや否や、右手に持つ剣が焔に包まれる。轟々と燃え盛る剣を、リドルはアカネの左肩をを目掛けて――投げた。

 縦に回転しながら、火剣と化したリドルの相棒はアカネに向かって飛んでいく。

 あと少しでアカネの肩を切りつける所まで飛んでいった時、ギリギリまで剣を引き付けたアカネは最小限の動きでそれを躱した。目標(ターゲット)を失った剣は、虚しく後方へと飛んでいく。


(避けられるんは想定内っていうか、思惑通り。俺が何の考えもなく、相棒の片方を投げたとか思うなよ)


 左手の剣を右手に持ち替え、リドルはアカネが剣を避けたと同時に次の詠唱(スクリプト)を紡いだ。


「赦し請う者を無に返還する穢れなき焔、“聖火(イノセンスロジー)”」


 顔面程の球状になった白い焔がリドルの前に出現し、そして剣を避けたばかりのアカネに向かって飛んでいく。リドルも、それを追うように走った。

 アカネの遥か後方で先程投げた剣が、ブーメランのように弧を描きこちらに戻ってきている。まだ火を纏って回転している剣は、リドルの抜群のコントロールによってアカネの足首を切るように低い位置を飛んでいた。


(火球を避け、迫ってくる俺を見据えたところに背後からの剣が足を切る。突然の衝撃に驚いとるその隙に、首元に剣を突き付ける。よし! これで絶対行ける!)


 脳内で勝利までの流れを立てたリドルは、思わず口許が綻んだ。一人でも充分、周りを見て動くことが出来ている。


「混沌を吹き飛ばす神の風、“黄金風(ノーブルブラスト)”」


 淡々と呪文を紡いだアカネの背後から、突風が吹き付けた。リドルの前を飛んでいた白き焔の玉はあっさりと、あさっての方向へと吹き飛ばされる。


(風魔法も使うんか、オバサン。まぁそれよりも、ステップその一、オッケー!)


 にっと笑ったリドルは剣を逆手に持ち、そのままアカネに向かって行く。

 アカネはそんなリドルを無表情に見つめていたが、ふっと視線を下に向けた。


(多分、足切ったな! ステップ二、クリア!)


 リドルは益々笑みを浮かべると、剣を振り上げる。足の怪我に気を取られているのか、下を向いているアカネの首にそれを――。


(よしっ、もろた!)



     カキンッ!



「なっ……!?」


 リドルが渾身の一撃を放つと、金属のぶつかりあう音が響いた。

 リドルの刃とアカネの首の間には、何故か鈍色に光る刀身がある。アカネは、武器を持っていなかったはずだ。


(どっから剣を……)


「……餓鬼、現役冒険者を舐めてもらっちゃ困るな」


「えっ……っぐふ!」


 アカネの低い呟きに攻撃を受け止められ呆然としていたリドルは我に返ったが、遅かった。アカネはリドルの腹に、素早く蹴りを放つ。

 文字通り、リドルは蹴り飛ばされ五メートル程吹っ飛んだ。しかし上手く受け身を取り、腹を押さえながらも素早く立ち上がる。

 腹が妙にチクチクと痛むのは、彼女の蹴りをもろに食らったからなのか。


「ケホッ……オバサン、馬鹿力やなぁ」


「オバサンじゃねぇ! それよりもほら、来いよ」


 アカネはニタリと笑い、リドルの攻撃を受け止めた、見覚えのある刃の反り返った剣を構える。


「ちょお、その前に一つ。俺の剣、後ろから来よるって気付いとったん?」


 アカネが握っている剣は、火は消えているが間違いなくリドルが投げた剣だ。火を纏って回転し、しかも後ろから飛んできていた剣をどう掴んだのか。


「だから、現役冒険者を舐めんな。後ろの気配ぐらい、背中に目が付いてるかのように分かんだよ。そんな中で、剣をキャッチしお前の攻撃を防ぐぐらい、朝飯前だっつーの」


「ふーん。オバサン、やるやん」


「だからオバサン言うな、くそ餓鬼が!」


「オバサンこそ、餓鬼って言わんとってほしい、なぁ!」


 言い終わるや否や、リドルはアカネとの距離を一気に詰めて斬りかかる。しかしそれは、アカネの持つ剣にうまい具合に往なされた。

 リドルはめげずに次の攻撃――左下から右上に、剣を斜めに振り上げるようにしてアカネを斬る。だが、アカネは後ろに飛んでそれを避けた。

 斬りかかっては往なされ、斬りかかっては躱される。アカネは決して、リドルに対して攻撃をしない。自分に斬りかかってくる剣を、ただひたすらに往なし、躱している。

 リドルが攻め、アカネが防ぐ。そんな攻防が何分となく続いた頃。


(何か、変な感じがする……?)


 リドルは、体に異変を感じていた。アカネと剣を交わらせる度に体の至るところがチクチクと痛み、何故か右腕と口が動かしにくい。


(剣右腕で持っとるけん攻撃の質が落ちてきたし、かと言って魔法を使おうにも口が動かんくて呪文が唱えれん。この状況、どう打破しよか……)


 頭でどうするかを考えつつ、リドルは重たい右手を無理矢理動かし剣を振るう。しかしアカネは涼しい顔で、その刃を弾いた。交わった剣が、火花を散らす。

 その時また、右腕にチクリと痛みが走った。


(この痛みも、一体何なんやろか。何か、キモいなぁ……)


 しかし、痛む箇所を確認するほどの余裕はこれっぽちもない。リドルが思うに、自分が少しでも隙を見せたらアカネはそこを突いてくるはずである。


(ほやけん、腕がもつまでは剣を振らな……!)


 剣を握る手にぎゅっと力を込めると、アカネに叩きつけるように上から振り落とした。しかしそれは、アカネが持つ相棒の片割れがしっかりと受け止める。

 左腕と両足が、チクリと痛んだ。


(くっ……。いかん、もう限界かもしれん)


 顔が痛みに歪む。脂汗が浮き出ているのが、自分でも分かった。そしてリドルは上手く動かないその口で、到頭呼んでしまった。


「て……テー!」


 自分が敵と接近戦をしている時、いつもその周りをすばしっこく動いている相棒(パートナー)の名を。しかし叫んでから、テラはいないのだと気が付く。


(そうや、これは俺の戦い。テーはおらんのやった)


 はっと我に返るまでに出来た、僅かな隙。その一瞬の隙を、アカネは見逃さなかった。

 受け止めている剣を押し返し、そして呪文を唱える。


「混沌を吹き飛ばす神の風、“黄金風(ノーブルブラスト)”」


 再び、アカネの背後から突風が吹き付けた。それはリドルを確実に捉え、吹き飛ばす。

 空に放り出されたリドルは、体全身にあの痛みを感じていた。一体この痛みは、何なのか。

 自分が落下しているのを感じる。実際に、目は迫り来る地面を映していた。


(うっ……体、痺れとるみたいに動かん)


 リドルは受け身を取ろうと体を動かしたが、しかし体は言うことを聞いてくれず、それは叶わなかった。顔面から、地面に叩き付けられる。


「あ……う……」


(……こんな、倒れとる場合やない。今は、試験中や。立たんと、終わってしまう!)


 気持ちは既に起き上がり、剣を構えている。だがしかし体は、指一本も動かない。まるで麻痺しているかのように、体は動くことを拒んでいる。


「ロート。勝負は付いただろ」


 全てが終わったこと告げるかのような、アカネの静かな声。それに少し遅れて、ロートが言葉を発する。


「あ、あぁ。えーっと、勝者はアカネさーん!」


 今ここに、リドル・ローウェルの入局試験が終わった。結果は否、だ。


「リディ!」


 愛しき、相棒(パートナー)の声がする。しかしリドルは、そちらを見ることが出来ない。体が動かないのもあるが、それ以上にテラに合わす顔がないのだ。


「あぁリディ、ボロボロやん! “癒しの泉(ヒールスプリング)”」


 テラはリドルの側に駆け寄ると、早口に癒しの魔法省略バージョンを唱えた。省略バージョンは主に、戦闘中に使われる。フルバージョンよりも癒しの性能は落ちるが、その分速く出来るからだ。

 水玉がリドルを包み、そして弾ける。癒し、完了だ。


「……ありがとう、テー」


 体が動くことを確かめながら、リドルはうつ伏せの状態から上半身だけ起こす。そして気まずいながらもテラを見ると、彼女はうるうるとした瞳でリドルを見ていた。


「リディ……。よう、動けとったよ? お疲れさん」


「テー……。ありがとう」


 ふんわりと微笑むテラを見て、リドルもはにかむように笑った。


「おい、餓鬼」


 リドルとテラが座り込んだまま作ったほんわかとしたムードを、ぶち破るようにアカネがやって来る。


「オバサン……」


「だからオバサンじゃねぇ! それより、ほら。お前のだ」


 そう言って差し出されるのは、リドルの双剣の片割れ。リドルはそれを立ち上がって受け取ると、鞘に収めた。


「ありがとう」


「おう。……餓鬼にしては、よく動けていたと思う。一つアドバイスするなら、もう少し敵を見た方がいいな。お前、あたしが何の使い手だと思ってた?」


「魔法」


 即答すると、アカネは大きく溜め息を吐いた。


「んなわけねぇだろ。あんくらいの魔法しか使えないのに魔法を武器にしてたら、あたしはとっくの昔に死んでるっつーの! そっちの餓鬼は気付いてたか?」


「魔法ではないなぁ、とは」


「え、テー気付いとったん?」


 さらりと答えたテラにリドルは目を見開く。


「うん。やって最初に使うた水猫、うちやったら一匹やなくて四方に出すもん」


「わざとって場合やったら?」


「んー、それ言われたら分からんけど……。でも、うちは何となく魔法やないなぁって思っとった」


「そっちの餓鬼の言う通り、あたしは魔法の使い手じゃない。……餓鬼、戦ってる時、チクチク痛むの感じてたか?」


「感じとった!」


 リドルは何度も首を縦に振る。


「それが、あたしの武器だ」


 アカネはにっと笑うと、右手首に付けているリストバンドを外した。丁度リストバンドがあった手首には小さなケースが巻き付けられており、その中には――。


「……針?」


 鈍く光る細長い針が、幾つも並んでいる。


「そう。あたしは“針使いの”さ」


「えっ、針使い!?」


 針を武器に使う人を見るのは初めてだ。リドルとテラは、目を真ん丸にして驚く。


「お前が感じてたチクチクする痛みは、針が刺さってた証拠だ。最後の方、体動かなくなったろ?」


 事実なので、こくりと頷く。


「あれは、針に塗ってた痺れ薬のせいさ」


「……体が動かんなって、麻痺しとるみたい(・・・)って思いよったけど、みたいやなくて本当に麻痺しとったんや」


 どうりで、段々と体が動かなくなるはずである。


「痛みを感じたその瞬間にちゃんと確かめてたら、お前に勝機があったかもな。ま、気付かれないように針を投げるのがあたしのスタイルなんだけど」


「やけん、もっと敵を見ろっていうことか」


 自分では周りを見て動けていると思ったが、それは甘かったようだ。


「そういうこと。あぁ後、これはあたしの勘違いかもしれねぇけど」


「?」


「本当に、よく動けてたと思う。でも何か、ぎこちなさっていうか……そんなのを、感じたんだ」


「あぁ、それは多分――」


 リドルは薄く笑うと、テラの肩に腕を回した。


「相棒がおらんかったけんや」


「うちら、戦闘だけは二人で一つやもんねー……って、この腕邪魔なんやけど?」


「……だから、ピンチの時に呼んだのか」


「そーゆーこと!」


 リドルはアカネに向かって、満面の笑み付きのピースをする。因みに腕は、テラの肩に回したままだ。


「ちょお、何気にシカト? ピースなんかせずに、腕どけてや」


「ええやん、ちょっとくらい」


「はっ、意味分からん。とにかく、はよどけて!」


 何やらギャーギャーと煩いが、リドル・ローウェルの試験は幕を閉じた……。



      パチン!



「いってー! 何なん、平手打ちとかひどいやろ!」


「自業自得や!」



三十以上の皆様、申し訳ありません……m(__)m

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