ギルド
「スゲー……」
「本当やなあ……。うちこんなん初めて見たんやけど」
背中に短槍を携えた少女と、腰の左右に鞘を携えた少年が大きな建物の前で立ち尽くしていた。
この建物は世界最大といわれる大型ギルド、ライゼ・フォルク。五大国――賢の国、巧の国、魔の国、武の国、和の国――の間の中立地域にあり、厳しい入局試験に合格した様々な種族の者達が在籍する場所である。
「よっし! 早速入局試験受けに行こで!」
意気込む少年を、少女は冷静に止める。
「リディ、待ちぃや。もう夜遅いんよ? 試験は明日にして今日はもう寝ようや」
ふわあ、と大きな欠伸をする少女。リディと呼ばれた少年、リドルは、少し考え「せやな!」と明るく言い放ち、自分達の泊まる宿へと歩き出した。その後ろを、眠そうに目を擦る少女テラがゆっくりと着いていく。
宿に入ると、テラはツインテールに結った琥珀色の髪をほどいた。腰に届くウェーブのかかった髪が、ふんわりと広がる。それと同時に、それが露になった。
先程髪を結っていた部分に、ちょうど二本の小さな角がある。この角から、彼女が魔法に長けた魔族であることが分かる。
テラは何故か角があるのを嫌い、いつもそれを隠すように長い髪をツインテールにしていた。彼女が髪を下ろして外に出るのを、今日まで十五年間、幼馴染みをしているリドルは一度も見たことがない。
リドルはふと、自分の角――リドルも魔族なのだ――に触れた。
リドルの角は相当小さい。普段は藍色の髪の毛に埋もれて見えず、それでいて先端は鋭利で思いっきり触ると自身の手が傷付いてしまう。
リドルは別段、自分の角が嫌いではなかった。
「何でテーは、角が嫌なん?」
鏡の前で髪を梳くテラに、リドルが二つあるベッドの片方に座って朗らかに問う。
「何か目立つやん、この角」
鏡ごしにぷくっと頬を膨らませるテラは、リドルの深い緑色の瞳には可愛らしく映った。
「ほやけどギルドには色んな種族がおるって聞くし、あんま目立たんのじゃね?」
「例えばどんなんがおるん」
「んっと、確か経理・勧誘課の奴が鳥人っていう少数民族やったと……」
「ふーん。でもうちはこの角が嫌いや」
ぷいっと立ち上がると、テラは入口からみて左側にあるベッド――リドルが座っていないほう――に横になった。
「もう角はかまんけん、寝ようや。うち眠くて堪らんのよ」
「せやなー。おやすみ」
リドルが明かりを消す。
(入局試験はいよいよ明日か……。ギルドに入るためにがむしゃらにやってきたこの一年間、無駄には出来ん。ギルドに入る目的は色々あるけど、何よりテーのために、俺は頑張らないかん)
リドルは決意したように一人頷くと、先程から聞こえるテラの安らかな寝息を子守唄に、眠りに落ちた。