表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

孤児院春馬ー4ー


金色の月が夜空に浮かんでいる。

北側の隅の方に、ぽつんとあるのが、反省部屋だ。広さは十二畳ほど。


言葉通り、規則を破った者が、閉じ込められる部屋で、中は、防音にすぐれ、つまり、何をされても、外に、声はれない。


1週間や1ヶ月、食事を死なない程度に、おさえられ、中には、本気で、拷問された例もあるから、誰も、ここには、近付かない。


どことなく、陰鬱いんうつとした、嫌な空気がただよっている。内にも外にも。


れんがそっと、小さな窓から、中をのぞもうとした。


硝子ガラスで、人影しか見えないが、天井てんじょうのランプの下、

少年の息遣いきづかいを感じた。


見張り番は席をはずしているのか、今は、静かだ。


中には、鉄格子てつごうしがあり、その中で、少年が畳に座っている。


さて、と。


蓮が、院長からかすめ取った、反省部屋の鍵を出すと、なるべく静かに、入った。


渡柳わたりやなぎ はな。助けに来たよ!」


黄金色の瞳をした蓮が、項垂うなだれる華に、駆け寄った。


「ちょっと、華。ねぇ、大丈夫?」


何度か呼び掛けたが、返答は無い。


おかしい。


もしかして、薬を盛られたのだろうか。


鉄格子の隙間に手を入れて、蓮が、華の白い服を、引っ張った。


長い黒髪を下ろし、頭に、ぐるぐる包帯を巻いた華が、やっと、反応した。


「えっと、あれ、どなただ?」


かなり意識が白濁はくだくしているのか、華の菫色の瞳が、どこか、うつろいでいる。

 

「はぁ。そっか。良い様にされちゃったか、華。まったく、少しは、抵抗しなさいよ!」


蓮が、遠慮えんりょ無く、華をたたいた。


両手を酷く、はたかれて、その刺激から、ようやく華が、頭を上げた。


今、目を覚ましたかの様に、目をぱちくりさせると、蓮を、視界に入れた。


「れ、蓮! 何でここに」


「寝ぼけた事を、言ってるんじゃないわよ。貴方を救いに来たのよ。最初に言ったわよ?」


「いや、ダメだよ。蓮はオレに関わるべきでは無いんだ。見張り番が戻る前に、ここを、離れてくれ」


はっきりと、怪我人の華に、拒絶されても、

蓮は退かなかった。


「見くびらないで! 私は、家族や仲間を、見捨てたりしないわ。逃げ帰るなんて、死んでも、ごめんだわ」


もう一つの小さな鍵で、鉄格子を開けると、蓮が有無うむを言わさず、華を、外に連れ出した。


だいそれた事をしでかした。

それをよく理解はしているが、蓮の足取りは、止まらない。


ひとまず、夜も空いている、敷地内にある、銭湯。しかも女湯の脱衣所に、二人が、身を隠した。


「蓮。職員がきたら、どうするんだよ?」


すっかり正気に返った華が、一人で、どぎまぎしている。


「平気でしょ。華は女顔だし、毅然きぜんとしてたら、あまり男と、言い当てられないわよ。しかもその白いロングパーカー、男女兼用じゃん」


ちゃんと下に、ズボンをいてるよと、華が、猛抗議もうこうぎした。


「ごめんね。実のところ、これから先、どうするか、何も、考えてないの。華を反省部屋から連れ出す事に、必死だったからさ」


明かりの付いてない、脱衣所は、真っ暗だ。

月夜の光が、二人の足元を、頼りなく照らしている。


蓮の声は震えている。

不安にかられているからだ。


「ひょっとして蓮は、オレだけを、逃がそうとしていないか?」


蓮がギクリと、顔を華からそむけた。


「華、私は、アンナを助けられなかった。このまま華が、ここから出なければ、廃人はいじんにされる可能性もあるだろう。現に薬を飲まされていたんだから」


「そうだな。おそらく、食事に少量ずつ、ヤバイのも混ぜていたんだ。見張り番が、常に、監視していたから、吐く事も、許されなかった」


「奴隷制度なんてものが、無ければな。なんでこのタイミングで、華に、狙いを定めたんだ? アンナの時も疑問だったが、どうして!」


院長では無いにしろ、ドサクサにまぎれて、華を、どうにかしようとしたやからが、孤児院 春馬には、存在するのだ。


「考えている暇は無さそうだ。それじゃあ、行くとしようとしよう、蓮」


考え続ける蓮を、その手を握ると、思うがままに華が、足早あしばやに、孤児院 春馬の外に、飛び出した。


「え? は? えっ。どうやって、『抜け道』『隠し扉』を見付けたの? 華」


銭湯の女湯の奥、露天風呂には、実は、地下道がある。岩場の中に巧妙に隠されており、知るのは、アンナと、一握りだけ、だ。


当然、蓮も、知らなかった。


「宮須 アンナをあなどなかれ。いつかこうなるって、分かってたかもな。知らずに女湯に入った蓮も、なかなかどうして、勘所かんどころが良い」


にっこりと笑って見せた華は、アンナとどこか、似ていた。


つまり、華は、アンナと仲が良かったのだ。

たぶん、蓮が想像するよりも、絆は深くて。


「思い返して見れば、貴方はアンナを、お姉ちゃんとして、慕っていたものね」


華は、アンナから見れば、年下だ。

蓮が見た限り、アンナは、孤児院 春馬の子供達から、頼りにされていた。

華も、その一人だ。


感傷に浸るまでも無く、蓮と華が、王都の街並みに消えた。


あめ色、輝く月だけが、二人を照らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ