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第5話 焚火

 一連の作業をオベリスクは興味深そうに眺めている。

「ところでさっきからずっと何をやっているんだ? さっきもらった固いやつはうまかったが、まだ満腹には程遠い。火をつけるというならさっさとしてくれ。大体魚なんか焼かなくたって生で食べればいいではないか?」

「だめだよ。海の魚はともかく川魚は火を通したほうが絶対うまい」


 そういいながら焚火の準備ができた俺はライターを取り出す。しかしライターとてガスがなくなれば全く役に立たなくなる。俺は思い直してライターをしまうとマグネシウムでできたファイヤースターターを取り出した。マグネシウム棒はナイフなどでこすってやると火花が飛び散って、燃えやすい素材であればそれで着火ができるのだ。これはライターと違ってかなり長い期間にわたって使い続けることができる。よくできた火打石みたいなものだ。削られて落ちたマグネシウムの粉も、火花を受ければ同時に発火するので、火打石とは比べ物にならないくらい着火性能は優秀だ。


 火花を受けて先ほど作ったフェザースティックや枯葉、松ぼっくりが炎をあげる。それは次第に小枝に燃え移る。もちろんこのまま油断して放置すれば、最初は勢いのいい炎もすぐに消えてしまう。火の勢いのあるうちに太めの枝や先ほどバトニングして作った薪を投入する。そうしてここからが焚火の腕の見せ所だ。俺はポケットからスライド伸長式の火吹き棒を取り出して伸ばす。そうして大ぶりな薪にも火が燃え移るように息を吹きかけた。


 先ほどまでは興味津々そうだったオベリスクも、少し呆れた顔をしている。

「どう見ても面倒臭そうだな。そんなの火魔法を使えば一発だろう、空気だって風魔法を使えばいい」

 そんなオベリスクに向かって、俺は人差し指を横に振ってチッチッチッと言った。

「この一連の作業が焚火の醍醐味なんだよ。火を育てるんだ」

 本当はファイヤースターターから直接フェザースティックで火を起こすというのは、初心者には難しい技なので自慢したかったのだが、多分どう説明したところで伝わらないだろう。

「異世界の人間は訳が分からないな。主の世界ではみなそんなことをしているのか?」

「いや、普通の人はやらないね。火を点けるのに使う道具には、着火装置が付いていてすぐに使える。それこそ魔法みたいなもんだよ。でもそれじゃあつまらないだろう?」


 そう言って俺は予備にもう一本持ってきていた火吹き棒をオベリスクに渡した。オベリスクはそれを手に取ってマジマジとみつめたあと、両端をもって伸ばした。

「これは金属製の様だがものすごく精巧な細工だな。成程内部が空洞になっていて、これを使って息を吹きかけるというわけだな」

 そういうとオベリスクは火吹き棒の太い方を口に当てると、焚火に向かって息を吹きかけ始めた。火吹き棒の先端から出た息の当たった部分は、炎がひときわ大きく燃え上がる。その行為を何度も繰り返す。繰り返すその度に炎はどんどん燃え広がって大きくなっていく。俺はあわてて薪をくべ足した。


「なるほど、これは楽しいものだな」

 そう言って、オベリスクは更に何度も何度も息を吹いた。

「さ、もういいだろう。あんまり調子に乗って燃やしていたら、すぐに薪がなくなってしまう。やっぱりもう少し太い薪を夜までには用意しないとな……」


 俺は焚火台の上に網を乗せると、キッチンペーパーに油を含ませて網に塗る。その上に先ほどとった魚を並べた。そうして塩を上から振りかける。すぐにあたりにはおいしそうな魚の焼けるにおいが立ち込める。

「なんだかうまそうな匂いだな。確かに生で食べるよりはおいしそうだ」

「魔族というのは魚を焼いたりしないのか?」

「うむ、人族は色々と調理をするようだが、魔族では少数派だな。食事とはエネルギーを補給するためのものだという意識が強い」

「それは人生? でいいのか分からないけどもだいぶ損をしているな。生きるための行動を娯楽に変えてしまうのが、人間の凄いところだと俺は思っている」


 オベリスクは俺のしたことを真似てか、薪が燃えて少なくなると継ぎ足している。

「確かにこうやって炎を持続させるのも面白いものだな」

「うん。でもちょっと薪にするには、小枝は細くて火持ちが悪い。後でもっと太いものを探しに行こう。ま、昼飯用なら今あるヤツで十分だろう」

 そう言って俺は今度は三脚を組み立て始める。三脚はアルミ製で、三本の足は更に一本が三つのパーツを繋ぎ合わせるようになっている。全てを組み立てれば一m弱の高さになって、中央部分から鎖をぶら下げると、網に並べた魚を移動させることなく上からケトルを吊るす事が出来る。そこで調理と同時にお湯を沸かす。ケトルの中には朝入れたティーパックがそのまま入っているので、水を継ぎ足した。

「次々と色々なものが出て来るな。一体お前は異世界では何をしていたんだ?」

「俺はね……キャンパーなんだよ」

 ……どや顔の俺に対して、特にオベリスクは何のコメントもしなかった。



普通の人にはあまりなじみのない、ファイヤースターターですが百均でも売ってます。

ライターでいいじゃないかという人もいますが、実は雪山などで低温だとガスライターでは火がつかな場合もあります。ファイヤースターターは火花を散らすので、低温でも使えます。ま、マッチでもいいでしょうね。

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