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第1話 蒼い瞳

 朝目覚めるともう陽はだいぶ上がっているのだろう。テントの布越しに光が入り薄っすらと明るくなっている。腕時計で時間を確認するとまだ6時を少し過ぎたくらいだった。


 俺は寝袋から上半身だけを出すと、インナーテントの開口部についたジッパーを開けて、テントの外に首から先だけを出す。出口の前にはフライと呼ばれるテントの外側の布が覆いかぶさっていて外は見えない。フライのジッパーもあけると、その切れ間から外が見えた。木々はぼんやりと白い朝もやの中にシルエットを浮かべている。フライの隙間から流れ込んで来た外の空気が顔を刺す。幾分か冷え込んでいるようだ。もう春も終わりに近い季節だとは言っても、山の朝はやはり肌寒い。テントはインナーとフライの二層構造なので、この寒さでも内部に起きた結露はほんのわずかだ。


 少し大げさかなとも思いながら、薄手のダウンを羽織って寝袋から下半身も出した。テントの出入口を全開にして、その中にはお尻だけを入れて座る。足元は靴を履かずにサンダルをつっかけただけだ。フライも巻き上げて上で留め、横に置いてあったケトルに水を注ぎ足すとバーナーの火をつけた。ガスバーナーの火はシュゴーっと音を立てて燃え盛る。朝もやで外はよく見えないが、どこからか鳥のさえずりが聞こえて来る。うん、良い朝だ。


 昨晩はそれほど大げさに飲まなかったので、朝だというのに珍しく急を要する尿意は感じない。沸いたお湯で、小ぶりのチタンカップにドリップコーヒーを入れた。この朝の一杯がたまらなく旨い。ここのキャンプ場にはオートサイトなどという気の利いたエリアはなくて、代わりに昔ながらのフリースペースと、特に整備をしていない森の中に自由にテントを張っていい場所が用意されている。森の中の方は大きなテントを張るスペースは確保できないし、物好きなソロキャンパーぐらいしか選ぶ人はいない。昨日も見渡したところ見える範囲では俺一人しかテントを張っている人間はいなかった。但し宿泊費は格段に安い設定なので、俺はこのエリアに好んでテントを張っている。


 荷物はテントの中に入れてあるが、テントの前には組み立て式の、座り心地のいい椅子が逆さまにして置いてある。逆さまにしてあるのは座面への夜露防止のためだ。風に飛ばされないように、テントを張っているガイロープにカラビナで固定してあるが、それを外して本来の置き方に戻す。そこに座って朝もやに包まれた森を眺めながら、淹れたてのコーヒーを啜る。


 コーヒーを半分ほど飲んだところで、不意に尿意に襲われた。起きがけが大丈夫だったのは、膀胱が目覚めていなかっただけかもしれない。飲みかけのコーヒーを、椅子の傍らに置いたミニテーブルの上に置いて、俺はトイレへの方へと歩き始めた。しかししばらく進んでから違和感に気が付く。トイレへの道が分からないのだ。いや、道らしきものがどこにも見あたらない。いかに整備されていない森の中とは言っても、管理棟やトイレに続く経路はある程度踏み固められていて、獣道の様にはなっている。それがどこにも見当たらないのだ。


 どうせ付近には誰もいないだろうと、少々行儀が悪いが小便は森に放出する事にした。放尿には程よい茂みに向かって小用を足す。そうしてそこでようやく気が付いた。


『植生が違う……』


 そう、生えている木の種類が見慣れた物とは全く違うのだ。広葉樹らしきものがメインなのはいいとして、どれもが樹形が大きい。そうして何より森林密度が濃いのだ。更に杉やヒノキなどの針葉樹は全く見当たらない。朝もやが晴れなくても分かるくらいに、それは違和感があった。小用を済ませた俺はあわててテントまで戻った。下手をすればそれすら適わない位に迷う可能性を感じたからだ。


 幸運にも迷う事無くテントの所へは帰り着く事ができた。しかし先ほど俺が座っていた椅子には別の何者かが腰かけていた。それは一人の少女だった。歳の頃は7、8歳ぐらいだろうか? 厚手の布一枚をひもで結んだような粗末な服を着ている。キャンプ場なのだから、どこかの家族連れで一人だけ迷ったのだろうか? 普通ならそう思うだけかもしれないが、少々違和感があった。服装もそうだが、その少女の頭には二本の角が生えていたのだ。そうして彼女はテントに近づく俺の存在に気が付くとこちらを見た。目が合ったところで、その少女の見た事のない瞳の色に一瞬見とれてしまった。それは何色と表現したらいいのだろうか? 深い蒼というのが一番しっくりくるかもしれない。それはとても深くて美しい色だった。


テントには一枚だけのシングル構造の物もありますが、インナーとフライの二層構造のものが殆どです。

シングルの方が軽いんですが、結露が凄まじいです。

キャンプ時は椅子を持っていく人が多いと思いますが、タープを張っている場合はその下に入れておけば夜露が凌げます。これは椅子だけではなくてなんでもそうです。

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