第3話:100万登録者の妹と、兄の「残念なイケメン」伝説
『次元渡りの龍神』こと門田龍人は、わずか一日で視聴者数を伸ばしたことに気を良くし、さっそく次のダンジョンへと向かっていた。今日の配信は、難易度が少し上がった『岩肌の採掘場』だ。
ダンジョンに入る前に、彼は配信画面に表示されるコメント欄を覗き込む。
AyamiHime: 「(コメント欄)龍人、ちゃんと回復ポーションは持った?あと、そのブレード、錆びてない?」
視聴者A: 「ヤンキー・オタク・スラッシュ待機!」
サブスクライバーC: 「今日はどんな必殺技が生まれるのかワクワクw」
「くそっ、やっぱり『笑い』の方向で固まりつつあるのか……」
龍人が頭を抱えていると、彼のスマートフォンに着信があった。表示された名前を見て、龍人のリーゼントが微かに揺れた。
「げっ……あいつからかよ」
龍人が電話に出る。
「……おう、なんだミコト」
電話の向こうから聞こえてきたのは、冷徹で理知的な、そして少しだけ迷惑そうな少女の声だった。
『龍人兄さん。今、貴方の配信を偶然見たのですが、視聴者数が100人を超えていることに、私の演算能力が一時的にフリーズしました』
電話の主は、龍人の実の妹、門田命。龍人とは対照的に、学業・芸術・そして配信の全てにおいて、完璧すぎる天才だ。彼女は現在、プロのイラストレーターとしても活動しており、その作画配信アカウントは登録者100万人を優に超え、人気配信者ランキングのクリエイティブ部門でトップを走っている。
「なんだよ、人の配信の邪魔すんな。なんだ、羨ましいのか?俺もついに『伝説の萌芽』が始まったんだよ」
『羨ましい? いいえ。貴方の配信を見た感想は、『事故映像』です。兄さんのあの無駄な動きと、無意味に長い技名。そして、スライムに顔面ペチされるという画質の粗い動画。あれが面白いという視聴者の感性が理解できません』
「うるせえ!あれは俺の『設定』だ!お前みたいな効率と論理で固まった奴には、『ロマン』はわかんねえんだよ!」
『ロマン、ですか。兄さんのロマンが、「残念なイケメン」という新しいジャンルを開拓しているのは皮肉ですね。しかも、兄さんの画像が切り抜かれて「スライムに顔面を捧げるヤンキー」というタイトルでSNSでバズっていますよ』
龍人は、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「マジかよ……最悪だ!」
『ですが、この状況を利用しない手はありません』命は、淡々とした声で提案した。『兄さん、貴方の次に行くダンジョン、『岩肌の採掘場』の攻略データを今から送ります。ただし、条件があります』
「条件?なんだよ、ミコト」
龍人は、妹の提案が、いつも自分に多大な労力を要求することを知っていた。
『貴方が配信で稼いだスパチャの収益の50パーセントを、私の今後の「作画資料費」として提供してください。その代わり、このデータを使えば、貴方は一気に中堅ランクまで駆け上がれます。これは、「兄の伝説の裏側に、天才の妹の計算があった」という私の『裏設定』のためです』
「テメェ!オタク的な設定のつけ方だけは俺に似てやがるな!人の金で裏設定作るんじゃねえ!」
『断るなら、この攻略データは削除します。そして、貴方の配信のコメント欄に、「兄は実はアニメ全話3周以上する隠れオタクです」と書き込みましょうか』
「……くそっ!わかった!その条件、呑んでやる!さっさとデータを送れ!」
龍人は、しぶしぶと取引に応じた。命の裏設定のための「搾取」を受け入れ、彼は命から送られてきた攻略データを開いた。
『採掘場では、「岩肌のミノタウロス(ミニ)」が出現します。注意点は…』命は解説を始める。
その時、龍人の配信画面に、新しい通知が表示された。
『ユーザー:Mon_Mikoからスパチャ 100,000円』
そして、コメントが流れた。
Mon_Miko: 「(コメント欄)兄さん、これを初期投資とします。私の裏設定のための経費です。しっかり頑張ってくださいね。視聴者の皆さん、私の兄は見た目よりずっと可愛いですよ」
『Mon_Miko』、それは間違いなく、妹の命のアカウント名だ。
10万円のスパチャに、龍人の配信のコメント欄は一気に爆発炎上した。
サブスクライバーC: 「桁が違う!何この金持ち!」
視聴者A: 「おい、Mon_Mikoって、あの超人気イラストレーターじゃねえか!?」
ヤンキーファン: 「ヤンキー・オタク・スラッシュに10万スパチャ!?熱い!」
龍人は、スマホを握りしめ、配信画面に向かって怒鳴った。
「てめぇ!ミコト!人の『可愛さ』を勝手に暴露すんじゃねー!」
電話の向こうで、命が静かに笑う声が聞こえた。
『では、攻略を開始してください、可愛い兄さん。私はこれで切ります。この10万円で、兄さんの伝説の炎は一気に燃え上がるでしょう。ただし、その燃料の半分は私のものですからね』
電話が切れる。龍人は、増えた視聴者と、目の前の10万円、そして妹の冷徹な策略に、顔をひきつらせた。
「くそっ、天才はどこまでも人を狂わせる……!だが、この金と攻略データ、利用してやらねえ手はねぇ!」
龍人は、ブレードを構え直し、ダンジョンへと足を踏み入れた。彼はまだ気づいていなかった。妹が送ってきた攻略データの中に、彼の『厨二設定』を最大限に活用するための、驚くべき『非効率な効率』が隠されていることに……。
ったく、最悪だ!マジで最悪!
あのクソガキ、ミコトのヤツ、やりやがったな!人の配信に10万スパチャとか、完全に『兄をプロデュースする天才妹』って、また俺の『裏設定』を勝手にいじりやがって!しかも俺の『可愛さ』を暴露するとか、どこに俺の伝説の萌芽があるんだよ!
おかげで、視聴者数が一気に増えたのは認めよう。ミコトの100万登録者の恩恵とか、悔しすぎるが、現実だからな。これが俺の『初期バフ(初期支援)』ってことか。
しかも、あの女、攻略データと引き換えに、稼ぎの50パーセントを要求しやがった。完全に「搾取」だ。だが、あのデータ、ただの効率的な周回ルートじゃねぇ気がする。あいつが俺に渡すデータが、ただの常識的な攻略法なわけがねぇ。
この10万と、あいつのデータを使って、俺は次のダンジョン、『岩肌の採掘場』を攻略する。
笑いで伸びるだ?残念なイケメンだ?いいだろう!テメェらが笑うなら、笑わせてやるよ。だが、笑いながらも、俺の『次元渡りの龍神』の『ロマン』に、いつか震え上がるようにしてやる!
待ってろよ、ミコト。お前の天才的な計算を、俺のロマンでぶっ壊してやるからな!
そして、視聴者のお前ら!次は笑いだけじゃねぇ、俺の『伝説の力』を見せてやるぜ!




