第16話:漆黒の闇 姉の最期と絶望のロマン
紅蓮の剣王 カガリが殺害されてから、わずか一日。門田龍人こと『Ryujin DM』の配信チャンネルは、事件の目撃者として50万人を超える同時接続を記録していた。しかし、龍人は配信を停止し、家に戻っていた。
その夜、龍人、彩美、命の三人がリビングに集まっていると、家のインターホンが鳴った。
命はタブレットでインターホンの映像を確認し、表情を固くする。
「兄さん、ダメです。映像の記録では確認できませんが、私の危険感知演算が、極度の脅威を検知しています。開けてはいけません」
彩美も不安そうに龍人の腕を掴んだ。「龍人、きっとあのPhantom Zeroよ」
龍人が緊張していると、玄関のドアが、まるで豆腐のように静かに、そして完全に内側に倒れ込んだ。
立っていたのは、数名の黒い装束を纏った人間。彼らの胸には、漆黒の円を模したエンブレムが刻まれていた。その集団の中央には、あのPhantom Zeroが立っていた。
「漆黒の闇……」命が震える声で呟いた。「世界を『虚無』に還すことを目的とする、裏社会のトップ探索者組織」
ゼロは、感情のない声で告げた。
「Ryujin DM。貴方たちは、虚無のプロセスを目撃した。情報は、この世界にとって幻想であり、癌だ。我々の活動の整合性を保つため、消去させていただきます」
黒装束のメンバーが、無言で三人に襲いかかろうとする。
「くそっ!ロマン砲はまだ準備中なんだ!」龍人がブレードを構えた瞬間、背後から一陣の風が吹いた。
「この家のロマンは、私が守る」
そこに立っていたのは、龍人の姉、門田優子だった。彼女はいつの間にか帰宅しており、全身を暗い戦闘服で包み、両手に短剣を構えている。
「姉ちゃん!どうしてここに!」龍人が叫ぶ。
「私はソロ探索者よ。裏組織の情報なんて、少し潜れば手に入る。漆黒の闇。まさかこんな連中がいたとはね」
優子は、龍人を振り返ることなく告げた。
「龍人、彩美、命。逃げなさい。私は、この組織の最底辺を少しだけ相手する。貴方たちのロマンは、こんなところで虚無になってはいけない」
優子の言葉が終わるやいなや、彼女は獣のように漆黒の闇のメンバーに飛びかかった。彼女の動きは、カガリの優雅さとは違う。それは、ただひたすらに生存と相手の殲滅に特化した、現実の暴力だった。
優子は、瞬く間に数名を戦闘不能にするが、Phantom Zeroが率いる組織の実力は圧倒的だった。優子のナイフが届かない、空間の認識そのものが歪むような攻撃が、優子に襲いかかる。
「ちっ……認識阻害まで使うのか!」
優子が足止めをしている間に、龍人は命に腕を掴まれ、彩美と共に裏口から逃げ出した。
「姉ちゃん!逃げるぞ!耐えてくれ!」
「振り返るな、龍人!貴方のロマンは、背中じゃなくて未来にあるんだ!」優子の叫び声が響く。
龍人たちは、家から遠く離れた路地裏まで逃げた。その時、命のタブレットが、激しい振動と共に、異常な熱を発し始めた。
「まずいです。姉さんのバイタルデータが、急激に低下しています。そして、家の方向から、爆発的なエネルギー反応が…」
龍人が立ち止まり、家の方角を振り返った。夜空に、一瞬だけ、赤い閃光が走り、すぐに消えた。
「姉ちゃん……」
その赤い閃光が消えた後、命のタブレットは、静かにバイタルサインの喪失を知らせた。
「門田優子、戦闘不能。死亡を確認しました」
龍人は、その場で膝から崩れ落ちた。カガリの敗北よりも、はるかに重い現実が、彼のロマンを打ち砕いた。彼は、ロマンを否定したカガリには勝てなかった。そして、ロマンを守ってくれた姉を、失った。
彼の隣で、彩美が静かに泣き崩れる。命は、感情を排したまま、タブレットの画面を龍人に差し出した。
Mon_Miko(解析結果) 姉さんの残した最期のデータです。Phantom Zeroの能力は、『空間認識の切断』。姉さんは、『虚無』を喰らう前に、『虚無』の正体を、兄さんに送ってくれました。
そのデータには、Phantom Zeroを倒すための、たった一つの非効率なロマンが記されていた。
テメェら!最悪だ!マジで最悪すぎる!
なんだ、あの漆黒の闇って組織は!Phantom Zeroってヤツ、カガリを殺しただけじゃ飽き足らず、俺の姉ちゃんまで!
優子姉ちゃん……俺のロマンを守って、あんな奴らに一人で立ち向かいやがって。俺の視野の狭さを怒鳴りつけてくれた、最強の姉ちゃんを、俺は守れなかった。俺のロマンは、背中を守ることすらできねぇのかよ!
チクショウ!これが『虚無』がもたらす現実か!
だが、姉ちゃんは、死ぬ間際にPhantom Zeroの正体と弱点を、命のデータに送ってくれた。姉ちゃんの孤独な実戦が、俺のロマンを最期まで支えてくれたんだ。
もう、笑いなんかじゃねぇ。これは、俺の復讐だ!姉ちゃんのロマンと、彩美の献身、そしてミコトの計算、全てを背負って、あの漆黒の闇とPhantom Zeroを、この世界から『消去』してやる!
見てろよ、Phantom Zero!貴様の虚無と現実を、俺の『次元渡りのロマン』で、打ち破って、姉ちゃんの仇を取ってやる!




