第10話:天才の計算と聖女の決意 敗北からの再始動
門田龍人の配信は、カガリとの敗戦後、三日間更新が止まっていた。
カガリに一瞬で敗北し、ブレードを折られた龍人は、自室で天井を見つめていた。彼のプライドの根幹である『ロマン』は、カガリの『現実』という名の刃によって、完膚なきまでにへし折られていた。
「チクショウ……ブレードが5センチ抜かれただけで、終わりかよ」
彼の配信チャンネルのコメント欄は、『龍人ロス』と『復活待機』の声で溢れていた。
モブ配信者A 龍人、生きてるか?無理せず休んでくれ
ヤンキーファンB 敗北からの復活こそが最高のロマンだ 待ってるぞ
Precision Kaito 敗北を分析し 次に繋げるのが効率だ 早く再開しなさい
その時、自室のドアがノックされた。開けると、そこには妹の門田命が立っていた。彼女はタブレットを持ち、表情一つ変えずに龍人を見上げる。
「龍人兄さん。いつまで床に転がっているつもりですか。貴方の惨めな敗北は、すでにデータとして解析が完了しています」
「うるせぇよ、ミコト。人の敗北をデータとか言うんじゃねぇ」
「敗北はデータです。感情論は無意味。カガリの紅蓮の剣閃の分析結果ですが、彼の剣は、貴方の初期装備のブレードの物質構成を瞬時に解析し、最も脆い箇所に音速に近い衝撃を与えていました。効率ではなく、もはや物理法則です」
命は、タブレットを龍人に差し出した。そこには、カガリの剣の軌道と、龍人のブレードが砕けるまでの詳細なシミュレーションが表示されていた。
「そして、貴方のロマン砲『闇属性 八卦羅斬』。あれを放つまでの3秒間の無駄な予備動作が、カガリの『即時解析』の時間を十分に与えていました。貴方のロマンは、攻撃力は高いが、致命的な遅延を抱えている」
「じゃあ、どうしろってんだよ!」
「簡単です。ロマンを捨てれば、誰でも強くなれます。ですが、貴方は**『ロマンチスト』**としてバズった。だから、ロマンは捨てさせません」
命は、画面を切り替えた。そこには、『門田龍人 最強化計画 Ver.1.0』というタイトルが表示されていた。
「貴方のロマンを維持しつつ、致命的な遅延を解消するための『非効率な効率トレーニング』を実行します」
命は、ロマンチストな設定を一切崩さずに、完璧な物理学と解剖学に基づいたメニューを提示した。
「まず、『次元渡りの龍神の予備動作』を3秒から0.5秒に短縮するための瞬間最大出力筋力トレーニング。次に、カガリの剣閃に耐えうる新素材のブレードを入手するためのスパチャ収益最大化配信戦略。そして、私が考案した『詠唱不要 脳内魔法陣展開』のためのイメージトレーニングです」
「詠唱不要って……完全に厨二病全開じゃねぇか!」
「貴方のロマンが、貴方自身の効率を高める。これが私の計算です。さあ、今すぐ開始しなさい」
命の強引さに押され、龍人はトレーニングを開始せざるを得なかった。
その日の午後、龍人がトレーニングに励んでいると、彩美が彼の元を訪れた。
「龍人、元気にしてる?」
「見ての通りだ。ミコトのヤツに、完全に『闇属性の訓練兵』扱いされてる」
彩美は、龍人の折れたブレードに触れた。
「ねえ、龍人。カガリの剣に折られちゃったこのブレード。アタシが何とかしてあげる」
「どうするってんだ。もう使い物にならねぇよ」
彩美は、真剣な眼差しで龍人を見つめた。
「アタシ、このブレードを、ただの金属バットで終わらせない。アタシが、このブレードを『聖女の力』で強化してあげる」
彩美は、自身の**『聖女のロマン』を具現化するため、ダンジョン素材の加工職人の元へ通うことを決意したのだ。彼女の目的は、龍人のロマンを現実の物理法則**に耐えうるものへと進化させることだった。
「あんたはアタシが『聖女』だって言ってくれたでしょ。なら、アタシはあんたの最強の装備を作ってみせる。だから、あんたはミコトの言う通り、0.5秒でロマン砲**を撃てるようになりなさい」
龍人は、命の計算と、彩美の決意に挟まれ、自分が一人ではないことを再認識した。折れていた心が、再び熱を帯びる。
「わかったよ、彩美。テメェが俺のロマン砲を支える最強の盾を作るなら、俺は、誰にも破られねぇ最強のロマン砲を撃てるようになってやる!」
龍人の『敗者からの成り上がり物語』が、今、本格的に再始動した。
テメェら、見たか!これが俺の『再始動』だ!
1位のカガリにボコボコにされて、さすがに心が折れかけたが、俺には最強のパーティーがいるんだよ。
妹のミコトの野郎、俺のロマンを否定するかと思いきや、まさかの『ロマン維持しつつ効率最大化』とかいう、俺も考えつかない厨二病的な最強理論を提示しやがった。あの0.5秒短縮トレーニングとか、マジでキツイが、あれこそが俺の『非効率な効率』の要になる。
そして彩美!あの女、俺の折れたブレードを見て、『聖女の力で強化してやる』だと!完全に『聖女』のロマンに目覚めやがった。これで、俺たちのパーティーは、『オタクとギャルと天才と最強の装備』という、完全に伝説級のパーティー編成になったぜ!
カガリの野郎、俺の敗北を『燃料』とか言いやがったが、その燃料に火をつけたのは、他ならぬ俺のパーティーだ。
見てろよ、紅蓮の剣王。俺のロマンは、テメェの効率と物理法則を、必ず超えていく!テメェらも、俺の血と汗とロマンのトレーニング配信から、目を離すんじゃねぇぞ!




