第9話 姉なのにメスガキムーブかましてんじゃねーですわよ
わたくしを出迎えたアクアルお姉様はあろう事かベッドの上にうつ伏せで寝転んだ状態で娯楽小説を読んでやがりましたわ。
この女、完全に舐めくさってやがりますわね。
「お暇なお姉様の為に世界で一番美しい貴女の妹が最高級の娯楽の提案をして差し上げに来ましたわ」
「悪いけど私、暇を潰すのに忙しいの。寝言は寝てから言って」
ふうぅううぅっ。
落ち着くのですわ、リリアーゼ・バレスチカ。
原作(18禁版含む)をプレイしたユーザーからはクレイジーレズなどという心ない渾名で呼ばれていたこのわたくしですけれど、劇中で行なった悪行はどれも乙女ゲーの悪役令嬢の範疇でギリギリ収まると思ってますの。
ちょっとばかし気に食わない対応をされた程度で怒りに身を任せ、百合乱暴(控えめな表現)するなんてのは淑女の行いから掛け離れた物ですわ。
わたくしは陵◯エロゲーの竿役?などではありませんことよ。
ここは冷静に、挑発に乗らずにお姉様を説き伏せるのですわ。
「フォーチュン学園の入試には実践訓練もあるでしょう?ですからわたくし、ダンジョンに行ってロゼを鍛えようと思いますの。行って戻っての繰り返しじゃ効率も悪いですし、しばらく泊まりがけで」
「そう。行ってらっしゃい」
「圧倒的超絶最強なわたくし一人ならこれぐらい楽勝ですけれど、ろくに実戦をこなしてないロゼを連れてだと流石にリスクがあると言わざるを得ませんの。誰かお暇な人がロゼを守ってくれればわたくしも安心できるのですわ」
「知ってるかしら?私は今春休みなの。課題は初日で全部終わらせたから、後は残された時間を全力で休むのに忙しいのよ」
「貴女の可愛い妹二人を助けると思って、手伝ってくださらないかしらお姉様?」
「ロゼはともかくあなたの可愛いところなんてその顔面ぐらいしかないと思うけど」
「人は見た目が9割という格言もありますわ。可愛さ90点と考えれば合格と言っても差し支えないのではなくて?」
「残りの1割が壊滅しすぎてるせいで0を通り越してマイナスになってるわね。総評するとあなたの可愛さとやらは合計してせいぜい70……いえ、60点が妥当と言ったところかしらね」
……わたくし、良く耐えましたわよね?
よくよく見ればお姉様はさっきから脚をはしたなくパタパタとされてるせいで、蒼を基調としたドレスからちらちらと艶かしい太腿が見え隠れしてますし、うつ伏せになった事で潰れた大きなお胸もセクシーで、なんだか誘われてるような気がしてきましたわ。
ここまで見事なメスガキムーブをかましてくるのならば、こちらも乗らねば無作法という物ですわよね?
わたくしの口角が釣り上がった直後––––
お姉様は読んでいた娯楽小説をパタンと閉じ、自身の胸の辺りで勢いよくベッドを押すように手を付くと、その反動で飛び上がりクルリと回転してわたくしの目の前に着地しましたわ。
曲芸の練習ですかしら?
「……怒らないのね。いつものあなたなら襲いかかってきてもおかしくないと思ってたんだけど」
怒ってましたわ!
なんだったら今からその弛んだ身体に分からせてやろうかと思ってましたわ!
「昨日の夜ぐらいからかしら。ロゼを椅子にするのを止めて、グレン兄さんに彼女をバレスチカ家の養女にするよう掛け合って、その上自ら勉学の世話まで始めて。あなたが一人の女に尽くさせるんじゃなく尽くすだなんて……頭でも打ったの?」
わたくしの美しい顔をじろじろと不躾に見つめてくるお姉様。
わたくしより身長が5cmほど高くて無駄に胸も大きいせいか、見下されてるようでちょっとイラッとしますわね。
「随分とわたくしの事を良く見ていますのね。ひょっとしてお姉様、わたくしに気でもあるんですの?」
「あるわ」
あるんですの!?
「あなたとロゼ、その関係性には凄く興味があるの。……もし私の頼みを聞いてくれるなら春休みだけと言わず、夏休みもあなた達の予定に付き合ってあげてもいいわ」
そういってお姉様はわたくしの手を取り、ギュッと握ってきましたの。
一方、わたくしはいつになくグイグイ来るお姉様に若干気圧されてましたわ。
べ、別にアクアルお姉様如きにビビってる訳じゃありませんことよ!
◇
用事を済ませ、お姉様の部屋から出たわたくしは一人溜め息をついて、廊下を歩きながら先程のやり取りを思い返していましたわ。
まずお姉様からのされた頼みについてですけれど、それはわたくし達が学園に入学してから自分が卒業するまでの間、運命の相手を探す手伝いをして欲しいというえらいロマンチックな代物でしたわ。
詳しく聞いてみると、なんでもわたくしとロゼのように互いが強烈な執着心で結ばれた、そんなパートナーが欲しいとの事。
一体、彼女の目には何が見えているのやら。
わたくしとロゼは恋人などではありませんし、執着心もわたくしからロゼへの一方的な物。
そもそもロゼはわたくしの事なんて大嫌いでしょうに。
自分の事をおもちゃのように好き勝手して弄んできた女など、一体どうやって好きになれと?
仮にわたくしがロゼの立場だったら既に50回はわたくし自身をぶち◯してるところですわ。
……言ってて悲しくなってきましたわね。
思考を戻しますわ。
アクアル・バレスチカ(公式人気投票第7位)。
彼女は原作である『ふぉーみら』において大ボスであるリリアーゼとの最終決戦前にシャルロット達が戦う、所謂中ボス的な立ち位置のキャラですの。
ただ、彼女は同じ立場であるグレンお兄様やグラントお父様とは違い、フォーチュン学園の生徒である事もあって、物語が佳境に入る前なら交流を持つ事が可能なキャラクターでしたわ。
第3学年首席、兼生徒会長。
原作だと生徒達からは『恋多き生徒会長』なんて呼ばれてましたわね。
学園内ではリリアーゼに手籠にされたという噂(事実)が流れていたアクアルですけれど、彼女はそれを特に否定もせず、むしろ男性であろうとも女性であろうとも、自分に好意があるなら伝えに来い(恋人募集中)と豪語する、中々に肝の座った人物でしたわ。
で、主人公であるシャルロットがアクアルに話しかけた際、選んだ選択肢次第では1日だけ彼女とデートする事ができるのですけど、それが何故かCGが複数枚用意される程に力が入ったイベントだったのが印象的でしたわね。
ちなみにそのイベントを消化していた場合、アクアルとの決戦時、彼女の死に際に『もう一度、デートしたかったわね』と言い残して事切れるシーンが追加されたりしますの。
悪趣味ですわね。
さて、ここまで思い返して一つ頭に浮かんだ推測があるのですけれど、もしかしたらアクアルお姉様の言う運命の相手って––––
……考えすぎですわね!
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メインキャラクター、アクアル・バレスチカのイメージ(AI絵)です。
活動報告にちょっとした設定が載せてます。
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