第72話 媚薬でちょっとおかしくなってるだけなんだからね!
「んう……」
朝の日差しと、ひんやりとした人肌の体温で自然に意識が覚醒する。
目を開けるとそこにはレイの宿敵、リリアーゼが羽毛布団だけの一糸纏わぬ姿で微笑んでいた。
「おはようですわ。昨日はお楽しみでしたわね?」
『にちゃあ』っとしたいやらしい笑みを浮かべるリリアーゼ。
相変わらず腹が立つぐらい顔がいい。
「楽しんでたのはあなたとメイドちゃ––––ロゼだけでしょ?昨日レイがちょっとおかしかったのは全部媚薬のせいだもん」
プイッとリリアーゼから顔を背けた。
リリアーゼ曰く感度3000倍の媚薬も時間が経って効力が薄れたのか、昨日のように心臓がドクドクするほどではなかったけれど、それでも目を合わせていると胸がむず痒くなって頬が熱くなってくる。
それに首から下に視線をやれば、リリアーゼの無駄に綺麗でスタイルのいい裸体が目に入ってしまう訳で、何故だかいけない事をしてるような気分になって落ち着かなかった。
悪い事してるのはリリアーゼの方なのに。
「うふふ、そういう事にしておきましょうか」
そう言いながらリリアーゼは自分の隣で幸せそうな顔でまだ寝ているロゼの髪を撫でる。
昨日、レイが目を覚ました時はレイが真ん中に押し込まれて拘束されていたのだけれど、途中でリリアーゼが『やっぱその位置譲れなのですわ!両手に花ならぬ両手にメスはわたくしにこそ相応しいのですわ!』と意味の分からない事を言い出して自分が真ん中に陣取ったという経緯がある。
リリアーゼとロゼ、この二人に挟まれているとレイの心と身体が保たないから、口には出さないけれど助かった。
「あなたが『初めて』にもかかわらず、わたくしに抱きついてアンアン喘いで乱れっぱなしだったのも全部媚薬のせいですの。わたくしはちゃあんと分かってますわ」
「〜〜ッ!?」
この女––––!
「それにしてもレイライト。あなたが本当に『初めて』だったとは流石のわたくしも予想外でしたの。てっきり汚い汚っさんにヤられまくってるとばかり」
「……うるさい」
正直、聖女の修行と称したミ・ラクル教の枢機卿達との思い出したくもない行為の数々はいわばチキンレースのような物だったと思う。
あいつらの要求する行動がレイの許容範囲を超えたらあいつらが命を落とす、そんな馬鹿げたゲーム。
それで枢機卿はレイの純潔を奪おうとしたから死ぬ事になったし、残った奴らもあとから全員グラントに殺された。
「わたくしに捧げる為にずっと純潔を守り抜いてきたのですわね?偉いですわ」
「あ……」
リリアーゼに頬を撫でられた。
不覚にもリリアーゼらしくないその優しげな表情から、レイはママに抱きしめてもらった時の感覚を思い出してしまう。
……こうして考えてみると、純潔をリリアーゼに奪われたのはかえって良か––––マシだったのかもしれない。
今更気付いたけど、レイはリリアーゼとおんなじで男の子より女の子の方が好きみたい。
パパよりママの方が好きだし、グレンお兄ちゃんよりアクアルお姉ちゃんの方が好き。
そしてリリアーゼは性格は最悪だけど顔とスタイルだけはいいし、ロゼもベッドの上だと獣みたいで怖いところはあるけれど見た目はレイの好みだ。
––––だけど、この主張だけは譲れない。
「何があなたの為に取っておいた、よ。媚薬を使ってレイを穢した卑怯者のくせに」
レイはリリアーゼに負けたんじゃない。
媚薬を飲まされて無理矢理気持ちよくさせられただけだもん。
「そのくっころチックな態度もわたくしの好みではあるのですけれど。レイライト、あなたには妹としての自覚が足りてないようですわね。生意気ですわ」
「はぁ?」
レイの事を妹だとか生意気だとか、いきなり何言ってるの、この女。
「賭けの約束は覚えているでしょう?レイライト、あなたはわたくしと決闘して無様に負けたのだから、これからはわたくしの妹となるのですわ。わたくしが上で、あなたが下ですの。早速言ってみなさいな。リリアーゼお姉様と」
意地の悪い笑みでレイにマウントを取って理不尽な要求をしてくるリリアーゼ。
こいつ、本当に性格が悪い。
「あなたなんかお姉ちゃんじゃない!……大体、昨日レイの身体を好きにしたくせに何言ってるの?もう義理は充分に果たしたわ」
「あらあら、嫌なら仕方ないですわ。無理強いはよくありませんもの。……ですけれど、それならわたくしもつい口が滑ってマリアお母様に、あなたが魔物をわたくし達にけしかけてきた事を漏らしてしまうかもしれませんわね?」
「なっ!?」
こいつ、ママに告げ口するつもりなの!?
「うふふ、まぁ普段はリリアーゼでいいですわ。あなたを脅した事がお母様に知られるのはわたくしにとっても不都合ですもの。それに、今ならまだ媚薬の効き目がある程度残っている事でしょうし、多少変な事を言ったとしてもあなたに落ち度はありませんわ。……さ、どうするんですの?」
「くっ……」
レイがされたら困る事を的確についてくる。
しかも媚薬が効いているから仕方ないという、逃げ道まで用意して。
なんて……なんて卑劣な女なの!
「……お姉ちゃん」
「あー?声が小さくてよく聞こえませんでしたわ」
こんな至近距離で聞こえてない訳ないでしょ!
「お姉ちゃん!リリアーゼお姉ちゃん!!これでいいでしょ!?言っておくけど、レイがこんな事を言うのは媚薬でちょっとおかしくなってるだけなんだからね!媚薬の効果が切れさえすれば、こんな事は絶対に言わないんだから!」
顔から火が出るほど恥ずかしくて悔しい。
なんでレイがリリアーゼなんかをお姉ちゃん呼びしなくちゃいけないの!?
「んふぅ。リリアーゼお姉ちゃん、いい響きですわぁ。正直お姉様呼びより好みかもしれませんの。……ところで」
満足気に微笑んだリリアーゼが、無駄に綺麗な顔をレイの耳元に寄せてそっと囁いた。
「あなたの言い分ですとわたくしが2度にわたって毒、もとい感度3000倍の媚薬を口移しで飲ませたとの事ですけれど、なぁんで治癒魔法を使えるあなたに媚薬が効いて、同じくそれを口に含んだ、治癒魔法の使えないわたくしには媚薬の効力が現れなかったんでしょうねぇ?」
「……え?」
数秒経ってその言葉の意味を理解して。
ある結論にたどり着いたレイは真っ赤になった顔を隠す為に、そのまま布団の中に潜り込んだ。
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人生楽しそう。
この物語も終わりが近づいてきました。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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