第66話 ヒロインの危機に駆け付けてこそヒーローなんです!
「【黒羽】ッ!」
押し寄せてくる魔物を相手にいち早く動いたのはリリ様でした。
「うふふ、面白い事してくれるじゃねーですの!」
彼女は背中から黒の翼を生やすと、凄まじい速度で滑空してレイライト先輩の方へと突っ込んでいきます。
対するレイライト先輩は指をクイッと上げる動作をすると、彼女の身体がスッと上空へと持ち上がっていくのが分かりました。
レイライト先輩の足元には半透明の壁のような物があり、それは彼女が聖女時代に特に得意としていた結界魔法を応用した技術だと推測できます。
一方で私は唐突に始まった乱戦に浮き足立っていました。
あの影のような姿の魔物達、特にその中でもバレスチカ家の人々を模した姿の者達は本編で出た魔物やボス達のパワーアップ版とも言える存在であり、つまりシナリオ上のリリ様やレイライト先輩より強いのは間違いありません。
そんな相手に私達はたったの5人で––––
「怯むなッ!!!」
その時、軍服を着た凄まじい圧迫感を放つ偉丈夫、グラント子爵が雄叫びを上げるかのような声量で叫びました。
「我らバレスチカ家一門を前に、あの程度のゴミ共など相手になる筈もないッ!」
彼のバレスチカ家一門という言葉で、そう言えば私も名誉バレスチカとかいうあんまり有り難くない称号を貰っていた事を思い出します。
「シャルロットは己の身を守る事を第一に考えよ!ロゼはシャルロットの護衛!奴らは我とグレン、アクアルで殲滅する!負傷した際は各自の物質で回復せよ!では散開!!!」
「分かったよ!」「分かったわ!」「了解致しました!」「わ、分かりました!」
その場から私とロゼさんを残してグラント子爵、グレン先輩、アクアル先輩の三人が魔物達の中でも特に強力であろう、本編ボスを模した者達に向けて突っ込んで行きました。
……私もやれる事をやらないと!
「ロゼさん、今から身体能力を上げる魔法を使います!……【強化】!」
ロゼさんの肩に手を置いて魔法をかけます。
本来なら他の4人(リリ様は拒否しそうな気もしますが)にも掛けたかったのですが、生憎既に彼らは各々の戦いに出向いてしまったのでそれも叶いません。
「ありがとうございます、シャルロット様。では行ってきます!」
こうして私達にとって最後の戦いの火蓋が切られたのでした。
◇
戦いが始まって数分。
元々高い精度の対内魔法(身体強化)を使いこなす上に私の【強化】を受けたロゼさんは戦場を凄まじい速度で駆け回り、黒の短刀とミスリル製の短刀の二刀流で私達に向かってくる魔物達を殲滅してくれています。
……が、ここで一つの問題が発生しました。
「……ロゼさんの動きが早すぎて援護できないです」
縦横無尽に駆け巡るロゼさんの動きが早すぎて、フレンドリーファイアになりそうで私は攻撃魔法を放てなくなっていました。
仕方がないのでグラント子爵から指示されたように、自分に【障壁】を張って身を守る事を優先していますが、露骨に役に立てなくなった事に申し訳なさを感じます。
戦況は……かなり荒れていました。
上空ではリリ様とレイライト先輩の二人が、あなた達出る作品を間違えてるのでは?と言った様相で超高速で飛翔しつつ肉弾戦を交えた魔法戦を行っていました。
そして地上。
まずは私達のリーダーとも言えるグラント子爵は本編では使っていなかった武器、【幻竜王シャーク・ドレイク】がドロップする幻竜王の牙を素材にした大剣(本編シナリオだとディラン様の最強武器です)を構え、たった一人で【四天王グラントの影】、【四天王グレンの影】、【四天王アクアルの影】の3体を抑えていました。
そしてその跡取りとなるグレン先輩は真紅の刀身のレイピア(おそらく【溶岩魔人】のドロップ品を素材にした武器)を手に凄まじい熱量を誇る炎属性の魔法を中心に据えて、結界魔法を操る【聖王レイライトの影】と戦っています。
最後にアクアル先輩はこれもまた真紅の刀身の薙刀を手に、【魔王リリアーゼの影】とやりあっていました。
これ以外にも多くの強化された魔物達で溢れかえっているので状況は混沌としていますが、グラント子爵は中ボス強化形態の3体を、グレン先輩とアクアル先輩はそれぞれラスボスと大ボスの強化形態を相手にしているにも関わらずちゃんと戦えているようなので、そこからレベルカンストした彼らのスペックの高さが窺えます。
ですが一つ気になる事が––––
「……一体足りない」
エンドコンテンツ『アビススパイラル』のネームドボスはレイライト先輩を含むバレスチカ家に名を連ねる者達の強化形態6体。
だけど前線に出ているグラント子爵達が相手にしているネームドは全部で5体です。
もう一体は何処に……。
「シャルロット様、危ない!」
キィンッ!!!
「っ!?」
突如私の真上で高い金属音が鳴り響いたかと思えば、そのすぐ側で何者かとロゼさんが激しい斬り合いをしているのが見えました。
あのシルエットは……【四天王(補欠)ロゼ・バレスチカの影】です!
きっと魔物達の群れに紛れて私達の隙を窺っていたんだ……!
エンドコンテンツである『アビススパイラル』のラスボスは本編シナリオとは違い、【聖王レイライトの影】ではありません。
【聖王レイライトの影】と同等のステータスを持つ【魔王リリアーゼの影】に加え、その従者である【四天王(補欠)ロゼ・バレスチカの影】のコンビが最後の相手となるのです。
流石にコンビで出てくるだけあってロゼ・バレスチカの影のステータスは他の四天王の影達よりは低くなっているものの、本来アレはパーティで戦うべき相手です。
そしてそれと戦っているロゼさんはレベルがカンストしているとはいえ、他のバレスチカ家の人達と違って中ボスじゃない(というかプレイアブルですらない)。
単独でロゼ・バレスチカの影に勝てるかは微妙なところです。
私が何とかしな––––ッ!?
ロゼ・バレスチカの影に向けて魔法を放とうとしたその時、背後から強烈な殺気を叩きつけられた私は反射的に後ろを振り返りました。
すると、そこには『アビススパイラル』のラスボス、【魔王リリアーゼの影】が私の方を見て嘲笑うかのようにニヤついていたのです。
どうしてアクアル先輩と戦ってる筈のアレがここに……!
まさか、先輩が負けてしまったの!?
口元をいやらしく歪めながら歩みを進める【魔王リリアーゼの影】を前に私の心臓はバクバクと高鳴っていました。
どう考えても私の勝てる相手じゃない。
きっと私の張った【障壁】なんて容易く突き破られてしまうに違いありません。
迫りくる危機を前にギュッと目を瞑った私は、不意に周りの温度が急激に下がっていくのを感じました。
恐る恐る目を開けるとそこには私と【魔王リリアーゼの影】の接触を阻むかのように、巨大な氷の壁が反り立っていたのです。
「勝手にいなくなってんじゃないわよ。あなたの相手はこの私よ」
吐き出す息すら白くなる極寒の最中。
「シャロちゃんに手出しはさせないわ」
身につけている蒼のドレスはところどころ破れ、頬から血を流しつつも、燃えるように真っ赤な刀身の薙刀を構えるその少女は、氷のような美しさを携えていました。
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本編クリアは4人パーティでレベル50ぐらいで『アビススパイラル』クリアはレベル70ぐらいが目安です。
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