第57話 あなたには禁じ手を使わせてもらいますわ!
「こ、殺……は?」
リリ様から自分を殺せるのかと問われたカマセ様はオラオラだった先程までとは打って変わって呆気に取られたご様子でした。
(化粧濃いけど)両家のお嬢様である彼女にとって、『殺す』という物騒な単語は馴染みのない物だったのでしょう。
「少なくとも、あなたが馬鹿にしたシャロ様はわたくしを◯すに値するだけの力は持ち合わせていましたわ。それで噛ませ犬様、あなたはどうなんですの?……ねぇ?」
突如、リリ様から膨大な黒の魔力が放出されたのが感じ取れました。
ビリビリとした威圧感が周囲を圧迫し、まるで肌に突き刺さるようです。
現に二人の周りにいたギャラリー達はその圧に仰け反り、表情が強張っています。
「ヒ、ヒィッ!?」
至近距離でリリ様の殺気を受けた影響でしょう。
カマセ様はその場で尻餅をつき、動けなくなってしまいました。
彼女の顔は恐怖に歪み、自分を抱きしめるかのようにしてガタガタと震えています。
「どうやら答えは出たようですわね。この時点であなたとシャロ様では天と地ほどの差があるのですわ」
つまらなさそうに腰を抜かしているカマセ様を見下すリリ様。
それにしても、リリ様は私の事をライバルとして認めてくれてたんだ。
ちょっと嬉しいな……。
「まぁ、シャロ様は正直アクアルお姉様より弱いですし」
悲報。
レベルカンストした主人公、中ボスより弱かった。
「地上戦に限ればロゼ未満の実力でしかないですけれど」
悲報。
レベルカンストした主人公、状況によっては中ボスですらないサブキャラより弱かった。
「それでも目を瞑って、かつ素手で戦えばワンチャン負ける可能性がある程度にはできる子なのですわ」
はい。
どう考えてもライバル的な扱いじゃないですね私。
「わ、わ、わたくしを脅そうと言うんですの!?たかが子爵令嬢如きが!」
腰を抜かしたままのカマセ様が必死の形相でリリ様を睨み返して威嚇しました。
……こんな状況でも心が折れないのは凄いなぁ。
「男爵」
「え?」
「先程から噛ませ犬様はわたくしの事を子爵令嬢と呼んでいらっしゃいますけれど、わたくしは陛下から直々に男爵の爵位を頂いていますのよ?ただ親が偉いだけで何の爵位も持たないあなたは男爵であるわたくしに対して、少なくとも礼節を弁えた言動をすべきではなくて?」
知らなかった。
リリ様、陛下から爵位貰ってたんだ。
……アレイスター殿下とも親しそうだったし、もしかしてバレスチカ家と王家って案外仲良かったりする?
「だとしても!男爵の一人や二人、我がイーヌ侯爵家の力があれば––––」
「噛ませ犬様。それはつまりイーヌ公爵家はこのわたくし、リリアーゼ・バレスチカと戦争するという意思表明であると受け取っても宜しくて?」
「戦……争……?」
リリ様からのまさかの返しに呆然とするカマセ様。
彼女の口から出たのは個人と侯爵家が武力による衝突をするという、あまりにも現実感のない受け答えでした。
こうなってしまうのも無理はありません。
「そちらがその気ならわたくし、容赦はしませんわよ?イーヌ侯爵家の人間のみならず、領民に至るまで一人残らず◯し尽くしますわ」
ですがことリリ様に関してはそれができてしまうのです。
成り立ってしまうのです。
そんなリリ様からの脅しに真っ青になって黙ってしまったカマセ様に、一人の少女が救いの手を差し伸べました。
「ご歓談の最中、失礼します」
先程からリリ様の後ろでじっと控えていたロゼさんです。
「えっと……ここにおられる皆様に一つ申し上げておきたいのですが、アーゼちゃんは他の領地の人々を皆殺しになんてするような人じゃないです」
「ロゼ、余計な事を……」
リリ様のイメージが悪化する事を恐れたのか、ロゼさんは彼女がそんなに悪い人じゃないよアピールをしました。
だけど、ここでそんな事を言ったらせっかく凹ませたカマセ様が勢いを取り戻してしまうんじゃ……。
「ほ、ほら!見なさいな!強がるのもいい加減に––––」
「だって、アーゼちゃんは女の子に対して手は出しますけど、暴力を振るうような人じゃないですから」
「はあ?」
「イーヌ侯爵領に男性しかいないのであれば、アーゼちゃんは何の躊躇いもなく滅ぼしていたかもしれませんが、女性がいる以上、絶対にそんな事はしないです」
逆に言えば心理的にやりたくないというだけで、リリ様は侯爵領を単独で滅ぼせる力があると、一番彼女の近くにいるロゼさんが証言したのです。
これには確かな説得力を感じられました。
「ただ、アーゼちゃんはやらなくてもグラント様はそう言った事に一切の躊躇を見せない方ですし、今後バレスチカ家の者を不用意に挑発されるのはやめた方がいいかと存じます」
「……っ!?」
ズイ、と前に出たロゼさんは腰を抜かしたままのカマセ様を見下す形で真っ直ぐ視線を交えました。
彼女の視線を受けたカマセ様はその圧に負けて小さな悲鳴を漏らします。
「もちろん、アーゼちゃんの友人である聖女様に対してもです。……分かりましたか?」
ロゼさんの忠告、もとい脅しを受けたカマセ様は口をパクパクと開いた後、数秒後にコクンと頷いて啜り泣き始めました。
沸き立っていた場にちょっと嫌な感じの静寂が訪れます。
「興が削がれましたわね。ロゼ、行きますわよ」
「はい、アーゼちゃん」
二人が歩み出すとまるで滝が割れたかのようにギャラリーが道を開けました。
彼女達はたった数分の僅かな時間で、実際に暴力を振るう事もなく口論だけで、子爵令嬢(男爵)と侯爵令嬢の間に圧倒的な力の差がある事を学園中に知らしめたのです。
この人達なら……。
「場合によっては後でカマセ嬢に釘を刺しておく事も考えていたんだけど、その必要もなさそうね。私達も行きましょう、シャロちゃん」
「アクアル先輩」
私の手を引いて教室に向かおうとした先輩を呼び止めました。
さっきのリリ様とカマセ様のやり取りを見て思った事。
原作では自分に対して嫌がらせをしてきた令嬢に対しては百合乱暴(控えめな表現)、令息に対しては〇人とやりたい放題やっていた彼女ですが、現実での行いを見る限りでは暴力に頼りすぎる事もなく、またそれほど他の生徒達から嫌われている訳でもないように見えました。
もしかしたら、私の力が及ばなかったとしても、バレスチカ家と王家が戦わずにすむ方法が、誰も死なせずにすむそんな方法があるかもしれません。
「私に、バレスチカ家の方々と話す機会を頂けませんか?」
◇◇
△△(side:リリアーゼ)
シャルロットとのデュエルを終えて1ヶ月。
あれから色んな事がありましたわ。
マーズがロゼに謝罪して和解したり、ディランがロゼに告って振られたり(股間を潰そうかと思いましたけれど、わたくしとロゼの仲を応援すると言ったので踏みとどまりましたわ)、ユリスコン(アレイスター殿下)が新作の百合小説を刊行したり、メガネ(クラスト)が眼鏡を新調したりと色々ですの。
なんか、ロゼ絡みの事以外はどうでもいい物ばかりですわね。
とりあえず、一番の大きな出来事は休みの日にシャルロットがアクアルお姉様に連れられて、グラントお父様を始めとするバレスチカ家の面々と顔合わせをした事でしたわ。
その際に彼女の持っている情報とこちらの情報を擦り合わせた事で、わたくしが前世の記憶を持っている事なども家族に知られる事になりましたけれど、まぁ些細な事ですの。
とにかく、結論だけ言ってしまえばわたくし達バレスチカ家の人間とシャルロットは協力体制を結び、これから起こる危機へ共に対処する事を約束したのですわ。
ちなみにシャルロットはお姉様の恋人になった事でお父様から名誉バレスチカの称号を送られていましたけど、案の定と言うべきか微妙な表情をしてましたわね。
気持ちは分かりますわ。
わたくしからすれば名誉バレスチカの称号なんて、オ◯ーナを買う権利と同程度の価値しかありませんもの。
ま、そんな事はどうでもいいのですわ。
今日のわたくしは勝負をかけに来ましたのよ。
現在、わたくしは授業中に抜け出して学園の屋上にいますの。
そして数メートル先には真っ白な長い髪をしたホワイトロリータの衣装に身を包む少女が背を向けてたそがれてますわ。
煙となんやらは高いところが好きってやつですわね。
ちなみに少女はわたくしの存在にまだ気付いていませんわ。
……大体、おかしいと思ってましたのよ。
原作の『ふぉーみら』で横暴なリリアーゼはモブ生徒共から嫌われ嫌がらせをされて、それを完膚なきまでに叩き潰した事が原因で投獄されるハメになったのですけれど、普通はたとえ気に入らなかったとしてもSランク冒険者という圧倒的な武力の肩書を持つ相手に嫌がらせをする無謀な者なんていないでしょう?
前世の日本で例えるのなら、ヤンチャな子供達が3m超えの飢えたヒグマ相手に石を投げつけて遊んでいるような物ですわ。
だとすれば、このような常時ならあり得ない行動に至るには必ず理由があるに違いありませんの。
たとえばそう、感情を怒りの方向に誘導されるとかですわね。
さて……考察はこの辺りでいいでしょう。
まだ未遂とはいえわたくしは原作で自身とロゼが死ぬ原因となった者に容赦するつもりなんてさらさらありませんことよ?
レイライト。
あなたには百合乱暴を使わせてもらいますわ!
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この物語もそろそろ終盤に入った頃です。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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