第56話 陵◯RTAにしか見えないです
「すみません、アクアル先輩。看病までして頂いた上にわざわざ送って貰っちゃって」
「ふふっ、いいのよ。シャロちゃんはまだ病み上がりなんだし無理しないで」
救護室に運ばれてから約1時間後。
私はいつの間にか私の事を『シャロちゃん』呼びするようになっていたアクアル先輩にエスコートされる形で自分の教室へと向かっていました。
1時限分の講義を休んだ事もあって現在は放課中という事もあり、廊下には沢山の生徒達がたむろしています。
「それにこうしてシャロちゃんと仲良くしてるところを皆に見せつける事で外堀を埋めていく事もできるんだもの。私にとっても得しかないわ」
アクアル先輩が、冗談めかして外堀を埋めるなんて表現を使いましたが、私はこれがさきほどの講義での『やらかし』を払拭する為の行動である事に気付いていました。
現に、まるで恋人のように先輩と手を繋いで歩く私に向けられる視線は好意的とまではいかないまでも好奇的な物が多く、リリ様に無様に敗北した私を嘲笑うような悪意は感じ取れません。
外野の視点からだと私とアクアル先輩が寄りを戻した、といった感じに見えているのでしょうか。
……いつか、先輩にちゃんと恩を返せる時が来たらいいな。
そんな事を考えていたその時、廊下の途中で私達二人以上に注目を集めている集団がいました。
そこに居たのは黒髪黒目黒のドレスと黒尽くしの超絶美少女と、ロゼ色の髪と瞳のメイドの少女。
毎日顔を合わせているリリ様とロゼさんですが、今は流石にちょっと距離を置きたいな、と思った矢先、彼女達の視線の先に原作ゲームでよく見た人物がいました。
「うっ……」
つい呻き声が出てしまいます。
その人物はクルクルとドリルのように巻いた長い金髪に加えて赤青黄と異なる3色をふんだんに使ったド派手なドレスに身を包んでおり、美人ではありますがかなりキツめの化粧を施した、どう見てもリリ様よりこっちの方が悪役令嬢でしょ!と突っ込みたくなるような容姿をした美女。
原作『ふぉーちゅん⭐︎みらくるっ!』で私、というかシャルロットを敵視して虐めていた第3学年の先輩、カマセ・イーヌ様がリリ様達二人と対面していたのです。
◇
カマセ・イーヌとかいう前世の日本人目線だと酷すぎる名前のこの女性(アクアル先輩と年齢は同じ筈なんですが化粧がキツすぎて少女感がない)は親がミ・ラクル教の重鎮であるイーヌ侯爵の一人娘で、第3学年のAクラスに所属している方です。
そんな彼女がなぜ私を敵視しているかと言えば理由はごく単純な物で、神殿内でお偉いさんの娘である自分より生まれが平民で聖女候補(原作)のシャルロットがチヤホヤされているのが気に食わないとの事でした。
正直、私が原作と違い特Aクラスの首席である事や聖女候補ではなく聖女である事もありチョッカイを出してくる事もないだろうと考えていた為、カマセ様の事は全くの無警戒だったのですが……。
一体、リリ様に何の用事があるんだろう?
◇
「聞きましたわ、バレスチカ嬢。先程実戦訓練の講義で聖女を騙る忌々しい小娘、シャルロット・アンサムを叩きのめしたそうですわね。その功績に免じてこの私が手ずから褒めて差し上げに来ましたわ」
うわぁ……やっぱり私を攻撃する為にリリ様に絡みに行ったんだ。
しかも順当にというべきか、私の『やらかし』も広まっちゃってる……。
私が顔を青くしていると、隣にいるアクアル先輩がギュッと手を握って微笑んでくれました。
「大丈夫よ。アレは私が潰してもいいけれど、ここはあの子に任せましょう?」
リリ様に任せる?
正直、リリ様がカマセ様に取り込まれる事自体はあり得ないと断言できますが、彼女に任せる事で話がどう転ぶか全く分からず、私の心情は戦々恐々です。
下手したら学園中にシャルロットは攻撃しても大丈夫な人間だという風潮ができてしまうかもしれません。
とは言ってもここで私が直接出て行ったところで的にされるだけなのは明白であり、大人しく見守るほかないのですが。
「失礼ながら、先輩はどちら様ですの?」
私と同じく前世の記憶を持つリリ様は当然カマセ様の事は知っているのでしょうが、おそらくやり取りに違和感を持たせないようにする為、あえて訊ねられたのでしょう。
「あら、このわたくしの事を知らないんですの?ハッ、子爵家の娘なだけあって無学ですわね。ま、いいですわ」
あ、これもう私自身の事は心配する必要ない感じですね。
どう考えてもカマセ様の貞操とか身の安全の方を心配すべき局面です。
あのリリ様に対してこんな舐め腐った態度を取るとか、自◯RTAならぬ陵◯RTAにしか見えないです。
「イーヌ侯爵家長女、カマセ・イーヌですわ。バレスチカ嬢。あなたをわたくしの主催するお茶会に招待して差し上げますの。子爵令嬢などという大した身分でもないあなたにとって、侯爵家の長女たるわたくしのお茶会に参加を許される事はこれ以上ない栄誉でしょう?」
あの、カマセ様?
その人の所属する子爵家、原作で侯爵家どころか王家に喧嘩売ってほぼ壊滅させたヤバいところなんですがそれは。
「このわたくしが直接あのシャルロット・アンサムとかいう低レベルで卑しい身分の偽聖女などを相手にしていてはこちらの格も下がってしまいますもの。アレを甚振るのはあなた程度の下っ端で充分なのですわ」
凄い。
あまりにも凄すぎる。
あのリリ様を下っ端呼ばわりできる危篤……じゃなくて奇特な方がいただなんて。
「噛ませ犬様」
私がハラハラしながら見守る中、リリ様がようやく口を開きました。
カマセ様を噛ませ犬呼びする彼女の目はまるで、その辺の道端で珍獣でも見つけたかのように大きく見開かれています。
「カマセ・イーヌですわ。一度で人の名前を覚えられないなんて、あの平民女が首席扱いされてるだけあって、今年度の特Aクラスはよほどレベルが低いんですのね」
「これはこれは大変失礼致しましたわ、噛ませ犬様。それにしても––––」
スン、としていたリリ様の口角が釣り上がるのが見えました。
「先程からわたくしのお友達であるシャロ様の実力を相当低く見積もっていらっしゃるようですけれど、あなたはこのわたくしを◯せるだけの力をお持ちなんですの?」
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原作でこの二人が会話するシーンはないです(あったら全裸にひん剥かれて校門に磔にされるぐらいの事はされてた)。
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