第55話 私の本当の攻略対象(ヒロイン)
△△(side:シャルロット)
「……」
疲れた。
先ほど行ったデュエルでリリ様に完膚なきまでに打ちのめされ、精神的に限界まで追い詰められた私は案内された救護室にある簡素なベッドの上に、仰向けの状態で寝転がっていました。
もうしばらくの間は何もしたくない。
「せっかくこのわたくしが救護者を救護室まで案内して差し上げたというのに、出迎えの一つすらないとは礼儀がなってませんわね。ま、いいですわ」
私をベッドに寝かしつけたリリ様がめんどくさそうにボヤいています。
救護室に先生がいない事をいい事に色々触られたりするんじゃないかと思ってましたがそんな事もなく、淡々と作業をする物だから少し意外に感じました。
もう既に牙をへし折って屈辱を与えた事もあり、彼女にとって私は既に興味の対象ではなくなっていたのかもしれません。
「仕方ないからこのわたくしが手ずから人を呼んできて差し上げますわ。ロゼ、あなたは代わりの人員が来るまでシャロ様に付き添ってあげなさいな」
「分かりました、アーゼちゃん」
パタン、と扉を閉めて救護室を出ていくリリ様。
そして取り残された私とロゼさん。
もとい負けヒロイン(主人公)と勝ちヒロイン(サブキャラ)。
普段の私ならこの落差に落ち込むところですが、今はもう落ち込む気力すら湧いてこないです。
「聖女様」
リリ様が部屋を出てから2分ほど経った頃でしょうか。
意外にもロゼさんの方から私に話しかけてきました。
ロゼ色の瞳が仰向けになった私を捉えます。
「聖女様が本当にアーゼちゃんの事が好きで、アーゼちゃんもまた聖女様の事を求めるのなら、あたしはそれを止めたりはしないです。アーゼちゃんはたった一人の女に縛りつけられるような不自由な人じゃないですから」
……そっか。
ロゼさんはそういうスタンスなんだ。
確かにリリ様はロゼさんの言う通り、一人の女性で満足するような謙虚な人には見えないです。
まぁ、一番大切な相手がロゼさんだというのは絶対に変わらないでしょうけれど。
「でも、もし昨日の昼食中に聖女様がされた返答が本心なら……聖女様の事を想う方の気持ちに、少しだけでも応えてあげて欲しいです」
「あぁ……」
––––アクアル先輩。
私の事を好きだと、友達になって欲しいと言ってくれた人。
昨日の夜までは、これから彼女と過ごす学園生活を楽しみにしていた筈なのに、どうしてこんな事に。
「う、うええ……」
もう戻れない。
今日の朝に先輩を恋の対象として見てないって言った事も、リリ様に告白して勝負を挑み足を舐めるハメになった事も、全部伝わってるに違いないです。
「聖女様……」
涙が込み上げてきてとめどなく目尻から零れ落ちていきます。
たった一日で全てが終わってしまいました。
あわあわと慌てふためくロゼさんを気にする余裕もなく嗚咽を繰り返していたその時––––
バタン!
救護室のドアが勢いよく開きました。
そこに居たのは先程人を呼びにいくと言って出ていったリリ様と––––
「シャルロットちゃん!」
胸元が大きく開いた蒼のドレスにウェーブのかかった長い黒髪と黒の瞳。
私が今一番会いたくなくて、そして一番会いたかった人。
アクアル先輩はベッドの上の私を見つけた途端、すぐさま凄まじい勢いで駆け寄り、私の身体をギュッと抱きしめてくれました。
涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を、取り出した水色のハンカチで拭ってくれます。
「もう大丈夫よ。私がついてるからね」
「先輩……先輩!うえ……うえええええん!」
年甲斐もなく、まるで子供のようにみっともなく泣き続ける私。
先輩はそんな私が泣き止むまでの間、ずっと付き添って頭を撫で続けてくれました。
◇
「落ち着いた?」
「はい……。あの、アクアル先輩は大丈夫なんですか?講義があるんじゃ?」
リリ様とロゼさんは救護室までアクアル先輩を連れてきてくれた後に部屋から出て行ってしまいました。
もうとっくに放課の時間は終わっているので、アクアル先輩は講義をサボって私に付いていてくれているという事になってしまいます。
「リーリスに頼んで、体調が悪くなったから保健室で休むと次の講義の先生に伝えてもらってあるから問題ないわ。……それにしても、大変だったみたいね」
そう言ってちょっと困ったような表情を見せるアクアル先輩。
やっぱり私がやらかした事は知られてるんだ……。
「ごめんなさい。私、昨日までは誠実に先輩と向き合おうと思ってたのに、今日はなんだか急にイライラしてあんな事を……。リリ様の事は私の中で整理がついていた筈なのに」
「急にイライラした?」
情緒不安定な危ない女だと思われたのかと思ってビクビクしながらアクアル先輩の顔を伺いましたが、彼女は呆れた様子もなく、真剣に何かを考え込んでいるようでした。
「大丈夫よ。その症状なら私にも覚えがあるし、数日時間を貰えれば対策もできるわ。だからシャルロットちゃんは何も心配しなくていいんだからね?周りが何か言ってくるようなら、この私が徹底的に潰して何も言えないようにしてやるし」
私を安心させるように、にっこりと微笑みかけてくれる先輩。
なんて優しい人なんだろう。
––––でも。
「私にはアクアル先輩の優しさに応える資格なんてないんです。ファーストキスだってリリ様の……うぅ、リリ様の足に……んっ!?」
気付いたら私はアクアル先輩に唇を奪われていました。
背中に腕を回して強く抱きしめられた事で、間で先輩の大きなお胸と私のそれなりに大きい胸が潰れた感触がして、互いの心臓がドクドクと激しく鼓動を打っているのが分かります。
先輩の柔らかい、それでいて情熱的な口付けが私の荒んだ心を溶かしていきました。
「ふふっ、シャルロットちゃんのファーストキス貰っちゃったわ。私もキスは初めてだったの。お互い初体験同士ね?」
唇を離した後、頬を赤らめてうっとりした表情で私を見つめるアクアル先輩。
あぁ……。
この時私はハッキリ理解しました。
私の、私の本当の攻略対象はこの人だったんだって。
ところで『キスは初めてだった』ってどういう事なんだろう?
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原作だとお姉様はなんで攻略できないの?って声が一番大きかったキャラだったりします。
まぁ(一応)乙女ゲームだからなんですが。
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