第53話 パン◯見えても嬉しくないです……。
勝負に負けた私はリリ様に肩を抱くようにして捕らえられ、まるで連行でもされたかのようにして地上まで引き摺り下ろされました。
どうやらもはや逃げる事すら叶わないようです。
いえ、元々私がこの学園で成さなければいけない事、バレスチカ家と王家の争いを回避して死者を出させないという目標の為にもそんな選択肢は最初から存在しないのですが。
あぁ、でもこの目標の達成は私がリリ様より強いというのが前提にあって成り立つ物でした。
だとしたら私にはもう出来る事が……。
「「「「おおおおおおおおぉっ!!!」」」」
地上に降りた私達を出迎えたのは耳を劈くような歓声と拍手でした。
先程行ったデュエル、内容としては私がリリ様に一方的に分からされただけの物でしたが、外野から見れば互いが空中を高速で駆け巡り派手な魔法を撃ち合う、一進一退の攻防のように映ったのかもしれません。
まぁ今の私にはそんな声援に応える気力もないんですけれど。
周りの熱狂も冷めぬまま、アレイスター殿下がくるくると回転するようにしながら私達の前に出てきてこう告げました。
「いやはや、素晴らしい戦いだった!Sランク冒険者同士の人智を超えた尊い一戦、このような場に立ち会えた事を心から誇りに思うよ!!……さて」
殿下は収納鞄から座り心地の良さそうな椅子と衣服をいれる用のカゴを取り出すと、それらをリリ様の前にセットしました。
「それでは契約を果たす時だ。ここで起きた如何なる問題も僕が責任を取ると再度約束しよう」
「うふふ、殿下のその欲望に忠実なところ、今回ばかりは高く評価して差し上げますわ」
椅子の上に浅く腰掛けるリリ様。
彼女は手際良く黒のブーツを脱ぐと、制服に近い形状の黒のドレス、そのスカートの中に己の両の掌を入れます。
誰かがゴクリ、と唾を呑み込んだ音が聞こえました。
リリ様は私の方を見て意地の悪そうに微笑むと、ゆっくりと掌を太腿から足下へ滑らせるようにしつつ、黒のタイツを脱いでいきます。
次第に露出されていく艶かしい、それでいて健康的で傷一つない、リリ様の長く整った綺麗なおみ足。
誰も、何も言えませんでした。
令息だけでなく、令嬢も、先生も、ここにいる誰もが彼女の虜になっていたのです。
素足となり、そのまま椅子の上で足を組むリリ様。
アレイスター殿下を除く全ての令息達が前屈みになりました。
あの生真面目なクラスト様や、己の力を高め誇示する事に熱心なディラン様でさえもです。
原作ゲームにおける女性陣は設定上はともかくとして、立ち絵のイラストを見る分には皆愛らしいデザインで誰が一番好きかは好みによるという評価に落ち着きますが、こと現実だと明確な差を感じました。
たとえばバレスチカ家の人間を例に上げるとすれば、ロゼさんの容姿は大半の人がとても可愛らしい少女だという評価を下すでしょうし、アクアル先輩は普通に生きていたのならまずお目にかかる事のできないレベルの凄い美人さんです。
ですが、リリ様と……あとバレスチカ家の生まれであるか確証は持てませんがレイライト先輩、このお二人はなんというか違うんです。
ただそこにいるだけで視線が惹き寄せられる。
目を逸らそうとしても、不思議とそれが叶わない。
それだけの、魔性としか言いようがない魅力が彼女達にはありました。
この二人はきっと、武力なんてなくてもその気になりさえすれば世界を制する事ができるのでしょう。
もっともレイライト先輩は失踪してしまいましたし、リリ様はそもそも男性にこれっぽっちも興味がないので、そんな事は起こらないでしょうが。
私はリリ様の前に跪きました。
残念ながら逃れる術はありません。
なんというか……この場の雰囲気が、私がリリ様に屈服して彼女の足を舐める事を求めている事が伝わってくるのです。
リリアーゼ・バレスチカ。
彼女は今まさに、この空間の支配者となっていました。
跪いた体勢で上を見上げると、スラッとした脚と健康的な太腿のその先に質の良い黒のショーツが見えます。
平時であればきっとそこから視線を動かせなくなっていたでしょうが、今の私にそんな余裕はありません。
おそらくこの行為を終えた後、私は自分の中の大切な物を失ってしまうであろう予感がありました。
それを分かっていながらも、逆らえない。
だって私は自分で勝負を挑んでおきながら、無様に負けたのだから。
私がリリ様の足を手に取ろうとしたその時––––
「そこまでだ!」
思わぬところから助けが入りました。
乱入してきたのはポニーテールにまとめた鮮烈な真紅の色の髪に同色の瞳、そして胸元を露出させた赤のドレスを身に纏う、激しい激情を秘めた美少女。
マーズ・スカーライト様です!
原作でも己の市場価値が地に落ちる事を厭わずリリ様の罪を訴えた程の強い正義感を持つ彼女はこの場を見過ごす事ができなかったのです。
「ノッキン先生、何故先程からリリアーゼ嬢によるこのような愚行を止めないのですか!こんな物、もはや虐めと変わらないではないですか!」
「あ、あぁ。だけどこのデュエルはもはや俺の管轄じゃないしなー」
そう言ってノッキン先生は困った様子でアレイスター殿下の方を見やりました。
実際のところ、王族である彼が責任を取ると言った以上、ノッキン先生にできる事はもうないのでしょう。
マーズ様はすぐさま殿下の方に視線をやると、彼を怒りの形相で睨みつけました。
「殿下、すぐにこの茶番を中止してください!これは貴方の婚約者であり、将来の臣下でもある私からの忠言です!」
「マーズ嬢、それはできないよ。リリアーゼ嬢とシャルロット嬢は己の誇りを賭けて正々堂々と戦い、そしてリリアーゼ嬢が勝ったんだ。リリアーゼ嬢には報酬を受け取る権利があるし、シャルロット嬢は対価を支払う義務がある」
「そんな言い分が許される筈がないでしょう!このまま聖女殿を貶めるような行為を続けるのならば、私は現スカーライト公爵であるブラッドお兄様伝いに貴方の行いを陛下に訴えます!そうなれば王太子である貴方とて、ただでは済まないのですよ!」
「構わないよ」
「なっ!?」
殿下からの迷いのない返事に驚愕するマーズ様。
これには私も驚きました。
殿下は自分の地位が脅かされる事が怖くないんですか!?
「賭けが執行されるまでがデュエルだ!僕は立会人として、リリアーゼ嬢とシャルロット嬢の尊い営みを最後まで見届ける!!その後でなら、廃嫡されたって僕は構わない!!!」
胸を張り、己の地位を捨てる覚悟があると高らかに宣言する殿下。
……一体どんな執念が彼をそこまで突き動かしていると言うの?
「……殿下。たとえ貴方の覚悟が決まっていようが、私はそれに関係なく聖女殿を守ります。聖女殿、早くここから––––」
「さっきから聞いてれば都合のいい事をベラベラと」
私に手を差し伸べようとしたマーズ様のセリフを遮る者がいました。
その言葉は私の目の前にいるリリ様から発せられたものではありません。
彼女は椅子の肘掛けに肘をついて、興味深そうにこちらを観察するばかりでした。
公爵令嬢という高い地位を持つマーズ様に異を唱えた人物に一斉に視線が集まりましたが、彼女は気圧された様子もなく言葉を続けます。
「マーズ様。貴女がこのデュエルに口を挟む権利なんて一片足りともないんですよ」
そこにいたのはロゼ色の髪と瞳をした、丈の短いスカートのメイド服に身を包む可愛らしい少女。
リリ様の恋人であるロゼさんが、マーズ様の真紅の瞳を真っ直ぐに見据えていたのです。
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……見えた!
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