第52話 これが私の全力全開!
「【白羽】……ですの。なるほど、やはりわたくしの【黒羽】と同じく現実では空を飛ぶ魔法という扱いなのですわね」
地上10m、間合いはおそらく20mほどの距離で対峙するリリ様が感心したご様子で呟きました。
戦闘において空を飛べるというアドバンテージはそうそうひっくり返せる物ではなく、例を上げれば先程凄まじい身体能力を見せたロゼさんであっても、空を飛ぶ私相手にはそうそう手出しする事もできないでしょう。
もっとも、相手も自分と同じように空を飛べるなら条件は同じではありますが。
「さ、遠慮せずかかってきなさいな。実力を出しきれないままわたくしの足を舐める事になったら、シャロ様も無念でしょう?」
「その言葉、後悔する事になりますよ!––––【白雷】!」
呪文を唱えると光属性の魔力を球状にした聖なる雷が私の周囲に現れました。
その数は合わせて20ほど。
原作の『ふぉーちゅん⭐︎みらくるっ!』ではシャルロットが最初に覚える初歩的な魔法ではありますが、レベルがカンストした私の魔力でこれだけの数を一気に放てばリリ様とてひとたまりもない筈です!
「行きなさい!」
私の宣言と共にリリ様へ向かって殺到する【白雷】。
まばゆい輝きを放つ数多の光球はリリ様に触れた瞬間爆発し、轟音を響かせました。
「やった!」
思わずガッツポーズを取ってしまう私。
不安要素はありましたが、やっぱり積み重ねてきた修行は裏切りはしません。
私はあのリリ様に勝ったんだ……!
「勝負中に『やったか!?』は厳禁ですわよ?」
遅れて嬉しさが込み上げてきたその時、澄んだ声質の声と共に目の前の爆風の中から巨大な黒色の風の刃が飛んできました。
「うわっ!?」
慌てて背中の翼をはためかせせる事で大きくその場から回避行動を取ります。
爆風が晴れた先にいたのは身体に纏う白のオーラが全くの無傷のままのリリ様の姿でした。
「な、なんで!?私の魔法は確かに命中した筈じゃ……」
「魔法の撃ち方がなってませんわね。シャロ様ったらあれだけの数の光球を同時にわたくし目掛けて同地点に放つんですもの。わたくしに命中する瞬間、少し距離を取るだけで勝手に相殺してくれるものだから対処が楽でしたわ」
あの爆風はリリ様に命中したんじゃなくて、私の出した光球同士がぶつかって起きたって事!?
「せっかくですし、少し見本を見せてあげますわ。【黒閃】」
「……!」
黒色の魔力でできた風の刃が次々とリリ様から私へ向けて放たれていきます。
時間差で放たれる風の刃は真っ直ぐではなく緩やかな軌道を描いており、まるでじわじわと私を追い詰めるかのような動きをしていました。
「––––まずは距離を取らないと!」
同じ場所で避け続けていたらいずれ風の刃に捕まってしまいます。
私はリリ様に背を向けて全力で彼女から離れるように滑空しました。
みっともなくても最後に勝てばいいんです!
「あらあら、魔王からは逃げられないという名言を知りませんの?【黒風】」
「なっ!?」
突如、私の目の前に闇の魔力を帯びた黒色の風が巨大な渦となって現れました。
私は慌てて方向転換しますが、竜巻は私の移動方向を読んでいるかのように次々と下から噴き上げてきます。
私は集中力を切らさないよう必死になりつつも、なんとか竜巻と後ろから時折放たれる風の刃を躱し続けました。
「……ですが、もう次の攻撃の準備は出来ています!」
もちろん、私だってただ逃げていた訳ではありません。
空を飛びながら魔力を練り、次に放つ魔法の準備を整えていたんです!
私が勝利を決める為に選んだのは【浄化の光】。
【浄化の光】は名前に反してアンデッド等を成仏させるような物ではなく、貫通力の高い強力な光線を放つ魔法です。
この技は弾速も【白雷】とは比較にならないほど速いので、振り向きざまに放てばリリ様の【黒閃】を掻き消しつつ命中させられる筈!
私はタイミングを見計らいつつ、後ろを振り返って––––
「【浄化のひ––––え?」
リリ様がいない!?
混乱する最中、不意にお尻の方からゾワリとした感覚が伝わり、驚きのあまり溜めていた魔力も霧散してしまいました。
「ひああっ!!?」
背後を振り返りつつ、急いで距離を空けます。
振り返った先には空気を揉むように右の掌をわきわきと握りしめるリリ様がいました。
……え?
今私、お尻を撫で回された?
じゃなくてどうしてリリ様が後ろにいるの!?
動揺する私をよそにリリ様は恍惚とした笑みを浮かべ、私に語りかけてきます。
「シャロ様、おわかりですの?わたくしにお尻を撫でられたという事はこれがもし実戦だったのなら––––」
う……実戦なら殺されていたとでも言いたいんですか!
「実戦なら純潔を散らされていましたわ」
なんで!?
「あ、あぁ……」
私は少しずつ後退りして距離を取ります。
怖い。
勝てる気がしない以前に貞操が危なすぎる。
なんで私、こんな人と勝負しようだなんて思っちゃったの?
アクアル先輩、助けて……。
「さて、これ以上ないなら勝負を決めてしまいますけれど、まだ何かありますの?」
「あ、ありますよ!」
食い気味に応えました。
ここでないなんて言ったら私はクラスメイト達の前でリリ様の足を舐めるハメになる上に、その後もリリ様からナニをされるか分かった物じゃありません!
どんな手を使ってでも勝たないと!
「私は今から必殺技を使います!……リリ様、まさか魔王を名乗るあなたともあろう者が、私の必殺技を避けたりはしませんよね!」
リリ様がこの挑発にのって来なければ私の負けです。
悔しいけれど、接近戦じゃもとから勝ち目はないし、遠距離戦でも魔力操作能力はリリ様の方が上。
であれば私の勝ち筋は正面から必殺技をぶつけ合う真っ向勝負しかありません。
「構いませんわ。さ、悔いの残らぬよう全力を見せてくださいな。あなたの望み通り、パワー勝負といきましょう?」
よし!乗ってきた!
「……行きます!」
私は『聖杖ミストルティン』を上に掲げて、空に向けて全力で魔力を放出しました。
すると、放出された魔力が次第に巨大な白色の球体となって型作られていきます。
出来上がった球体は【白雷】とは比べものにならない大きさで、その直径は軽く10mを超えており、バチバチと白い火花を放っていました。
この技は原作だと敵全体に超ダメージを与えるシンプルな必殺技なのですが、現実だと弾速がさほど速くない事もあって、リリ様のように空を飛ぶ相手だとあっさり躱されて終わるのは確実。
だからこそ、こうして真っ正面から受けてもらわないと勝負の土台にすら乗れないのです。
「これが私の全力全開!」
『聖杖ミストルティン』を振り下ろし、リリ様へ向けて巨大な球体を放ちます。
「【光玉】ぁーっ!!!」
キングダム王国に住む皆から魔力を少しずつ分けてもらって完成させてそうなネーミングの魔法ですが、残念ながら100%私の魔力でできています。
とは言っても私の魔力量は原作の仲間内だとクラスト様と並んで最多。
さらに装備した『聖杖ミストルティン』の効果によって魔法威力は驚愕の1.3倍!
大ボス悪役令嬢とて受け切れる筈がありません!
対してリリ様は片手をこちらに向けて突き出しているのみ。
今度こそ勝っ––––
「【黄泉ノ門】」
「!?」
私の【光玉】が直撃する寸前、リリ様の掌から放出された膨大な黒の魔力が巨大な光球を覆い尽くし、渦となって聖なる光を切り刻んでいきました。
みるみるうちに体積が小さくなっていく【光玉】。
そして最後に残ったのは黒の残滓と、平然としているリリ様のみ。
光が、闇に呑まれたと言うの?
『ふぉーみら』では光属性は闇属性に対して1.2倍の補正が、闇属性は光属性に対して0.8倍の逆補正がかかるというのに!
「終幕ですわ」
私の必殺技を打ち消したリリ様は漆黒の翼をはためかせ一瞬で距離を詰めると、拳に装備した『竜爪』で私のお腹を打ち抜きました。
誓約書の効力で衝撃はありませんでしたが、これが実戦だったら私の身体は上半身と下半身に千切れていた事でしょう。
私の身体から霧散していく白のオーラが、勝敗を決した事を示します。
ガックリと項垂れる私。
リリ様はそんな私の耳元にその綺麗なお顔を寄せると、囁くようにこう呟きました。
「うふふ、本当のお楽しみはこれからですわよ?」
「あ、あはは……」
––––拝啓
私を快く送り出してくれた優しいお父さん、お母さん。
平民の私に期待をかけて養子にしてくれたアンサム家の皆さん。
私をお姫様のように大事にしてくれた神殿の方々。
要領の悪い私に数々の的確なアドバイスをしてくださったレイライト先輩。
そして私なんかを好きになって、想いを伝えてくれたアクアル先輩。
どうやら私の楽しい学園生活はこれまでのようです。
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大ボス戦、決着––––!
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