第48話 イキリボーイ如き、わたくしが手を下すまでもありませんわ
「うーしっ!んじゃ、講義の方を始めてくぞー!」
校庭のど真ん中で声を張り上げたのは、ジャージ姿の装いの刈り上げた赤髪に浅黒い肌をした三十代半ばの筋骨隆々の大男、特Aクラス担任を務めるセンコウ侯爵家の三男、ノッキンでしたわ。
フォーチュン学園は彼が所属するセンコウ侯爵家が管理しており、初日の始業式で長話をしていた理事長はセンコウ侯爵家の当主だったりしますの。
ちなみにこのノッキンは現役のAランク冒険者で、休みの日はダンジョンに一狩り行って汗を流すのが趣味らしいですわ。
「つっても今日は実技の初日だからなー。お前らが楽しめそうなモンを持ってきてやったぞー」
そう言ってノッキンが取り出したのは1枚の誓約書のようなもの。
下の方には名前を署名する欄がありますわね。
集まった生徒達はそれを見た途端、露骨にざわつき始めましたわ。
「これはデュエルの誓約書だなー。賭け事に使われる事も多いある意味業の深いシロモンだがー、使えばお互いやその周辺に被害を出さずに全力で戦い合える中々便利なやつだー」
ノッキンが取り出した誓約書、これは署名した者達の力が30分の間、あらゆる物体に対してダメージを及ぼさなくなるというアイテムですの。
例えば仮にわたくしがアレにサインしたとすれば、全力で拳を打ち込んだとしても蚊1匹◯す事ができない、お箸より重い物を持った事がないよわよわな令嬢が爆誕するわけですわね。
原作だとこの誓約書を使ってあのメガネ、もといクラストが細工をした事でリリアーゼは超絶不利な条件でシャルロット達と戦わされ、投獄される決め手となった、わたくしにとっては曰く付きの代物ですの。
「で、早速だがこれ使ってみたいやつはいるかー。別に負けたからといって成績を下げたりはしないから気楽に参加してくれたらいいぞー」
「俺がやるぜ」
そう言って意気揚々と前に出てきたのは短めの茶髪に同色の瞳、地味な茶色ベースのジャケットを身に纏う、どこか野生味のある美少年。
最後の攻略対象であるディランが、ギラギラと野心を秘めた眼差しで不敬にもこの美しいわたくしを睨みつけてきやがったのですわ。
◇
ディラン・エクシーズ(公式人気投票8位)。
攻略対象の一人でキングダム王国北部の守りを担うエクシーズ辺境伯家の跡取り息子で、乙女ゲームだと所謂騎士団長の息子枠ですわ。
まぁ実際の騎士団長はバレスチカ家のグラントお父様なので、彼は辺境の武家の息子という事になったんでしょうけど。
ディランは『ふぉーちゅん⭐︎みらくるっ!』のユーザーからは『不人気』、『イキリボーイ』、『生き恥』などとほぼ悪口にしか見えないあだ名を付けられており、大層嫌われてますわね。
実際、彼は攻略対象なのにも関わらず、自分から話しかけなければほぼ出番もセリフもないアクアルお姉様(公式人気投票7位)より人気投票結果が下なのでガチで不人気ですの。
どうして人気投票がこのような悲惨な結果となったのかといえば、この『ふぉーみら』においてわたくしことリリアーゼ・バレスチカがユーザーからの絶対的な人気に加えて、作中でも圧倒的な強さを誇り、その上で見た目は華奢な超絶美少女だった事に起因しているのですわ。
事の発端は今わたくしが直面しているこのイベント、実技の訓練でディランがわたくしに対して分不相応にも勝負を挑んできたのが始まりですの。
何故彼が戦いを挑んできたのかと言うと、武家の名門であるエクシーズ辺境伯家より、子爵家にすぎないバレスチカ家の方が世間から王国最強の一族として認識されてている事が気に食わなかったからですわね。
で、このイキリボーイに対しリリアーゼは、誓約書なしなら勝負を受けてやってもいいと言い放ち、憤慨して襲い掛かってきたディランの両手両足をバッサリ切断してダルマにしてやったのですわ。
戦士として終了どころか命の危機に晒されたディランでしたけれど、彼はここで聖女の力に目覚めたシャルロットの魔法で両手両足を生やしてもらい、彼女と縁ができるというのがイベントの流れですの。
どうでもいいですけれど、新しく生えてきたせいで千切れた手足はそのままなのがちょっとグロいですわね。
その後、シャルロットに救われた事で彼女に忠誠を誓ったディランは傲慢な己を恥じて心を入れ替え、いつの日かリリアーゼを超える為に真摯に修行に取り組むようになるという、話に聞く分には中々人気になりそうな要素を揃えたキャラクターではありましたわ。
ただ残念な事にリリアーゼは超絶無敵最強令嬢であり、彼は才能があるだけの凡人。
いくら修行したところでディランが単独でリリアーゼに勝つ事なんて不可能ですの。
で、ディランがユーザーから叩かれる最たる理由がリリアーゼ断罪の際の彼の言動ですわね。
本編中に公爵令嬢のマーズがリリアーゼにぶち◯された事や、その他にリリアーゼに嫌がらせをした令息がぶち◯されたり、令嬢がぶち◯された罪を裁く為にシャルロット達が策を練るシーンがありますの。
それでメガネが学園で開催されるパーティの参加受付の際に、リリアーゼにだけデュエルの誓約書にサインをさせて無力化させるというくっそ狡い手を考えついた訳ですけど、リリアーゼを超えるべく修行をしていたディランはメガネの策を咎める事もなく、むしろノリノリだったのですわ。
この時点でおいおい、と言いたくなりますけど、おそらく修行した自分とそれでもなお遥か彼方にいるリリアーゼとの力の差を本能的に感じ取っていたのでしょうね。
そして当日のパーティ中にリリアーゼは罪を暴かれて、誓約書によって相手にダメージを与えられない状況でシャルロット達と戦った事でボコられ取り押さえられる事になるのですけれど、その際ディランが放ったセリフがこれですの。
『あの時の借りは返したぜ(キリッ)』
見た目は超絶美少女であるリリアーゼを狡い手を使って弱体化させ、4人がかり(うち3人は殿方)でボコって勝ち誇るという武芸者とは思えないディランの言動は動画サイトで拡散され、笑えるぐらいに叩かれてましたわね。
ちなみに策を考えたメガネは姉であるリーリスお姉様の為、戦闘に参加したシャルロットとアホ王子はあくまで学園で起きた問題を解決する目的でこの作戦を決行した為さほど叩かれてはおらず、結果リリアーゼを超える為に修行していたディラン一人にヘイトが集中したという背景がありますわ。
ひとまず原作でのディランの情報はこんなところですの。
今はイベントに対処する時ですわ。
◇
「なぁセンセー、戦う相手は俺が指名してもいいのか?」
前に出たディランは自分が負ける事など考えてもいないのでしょう。
得意げに講師であるノッキンに話を振りましたわ。
「おう、いいぞー。もちろん相手が了承した場合に限るけどなー」
「へへっ、サンキュ。んじゃ、俺の相手は……」
くっそ無礼にもわたくしの事を指差してきやがりました取るに足らないお雑魚さん。
フン、あなたへの対処などとっくに手を打っていましてよ?
「出てこいよ、バレスチカ嬢!俺とお前、どっちがこの学園で一番強いのか決着を着けようぜ!」
イキリボーイから指名されたわたくしですけれど、ガン無視を決め込んでやりましたわ。
代わりに前に出て行ったのはわたくしの隣にいた人物。
ディランと対面した少女は短いメイド服のスカートを摘み、優雅にカーテシーを決めて彼に挨拶しましたわ。
「ご指名を承りました、ロゼ・バレスチカです。まだまだ未熟者ですが僭越ながらお相手を務めさせて頂きますね、ディラン様」
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サブキャラクター、ディラン・エクシーズのイメージ(AI絵)です。
活動報告にちょっとした設定が載せてます。
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