第40話 お尻だけでなくレスバもよわよわなのですわ
「無様ですわねぇ、マーズ様」
「なんだと!?」
わたくしの挑発にあっさり釣られるチョロいマーズ。
ですけれど、口答えさせる気など微塵もありませんわよ?
「貴女なんてロゼからしたらもはや過去の人間なのですわよ?言ってしまえば彼女にとって何の痕跡も残す事の出来ない、居てもいなくても変わらない人間ですの」
「そ、そんな事は……」
ロゼに拒絶された上に容赦なくわたくしに責め立てられたマーズは、その真紅の瞳に涙を浮かべて半泣きになってますわね。
うふふ、その泣き顔、実に嗜虐心を刺激されますわ!
「……あぁ、ですがもしかしたら貴女もわたくしのおかずのバリエーションとして採用できなくもない程度の器量はあるかもしれませんわね。宜しければわたくしが致す時に使って差し上げてもいいんですのよ?」
「……致す、だと?それに使うとはどういう意味だ!」
あら?思ったより察しが悪いですわね。
それともこういった事には初心なのかしら?
まぁ公爵家の箱入り娘ですものね。
こういう初心な娘に教え込んでいくのもまた乙な物ですけれど、マーズを使うと言った際にロゼがわたくしの腕にギュッとしがみついて『イヤだイヤだ』アピールをしている事ですし、ここらで切り上げてトドメを刺してしまいましょうか。
「さぁ?ご自分でお考えなさっては?そんな事よりマーズ様、わたくしとロゼの仲は王族であり貴女の婚約者でもあるアレイスター殿下公認なんですのよ。ですからただの公爵令嬢で爵位すら持たない貴女如きが認めようが認めまいが、何の意味もございませんの」
「な……に……?」
明らかに狼狽してますわね。
先程の空き教室でした殿下との茶番、無駄に疲れただけだと思ってましたけどまさかこんなところで活きてくるとは思いませんでしたわ。
「アレイスター殿下曰く、わたくしとロゼは『真実の愛』で『世界の真理』だそうですわ」
「う、嘘だっ!だって殿下は私がロゼの事を相談したら、『リリアーゼ嬢とロゼ嬢の事は僕に任せてくれ!絶対にロゼ嬢を悪いようにはしない』って、そう言ってくれたもんっ!殿下が私に嘘を吐く筈がない!……うぅ、ぐすっ……」
「……」
まさかの婚約者に裏切られる形になってついにグズりだすマーズ。
とうとう口調まで変わってしまった彼女をわたくしは冷めた目で見てましたわ。
……なんというか、流石に哀れになってきましたわね。
わたくしの趣味の一つである、『泣かせた令嬢の涙を舐める』事すらやる気が起きないほどに萎えてしまいましたの。
あぁ、何が哀れかってマーズがロゼに拒絶された事でも、お尻だけでなくレスバもよわよわな事でもなく、将来彼女があのアホ王子と結ばれるという事実に心底同情したのですわ。
アホ王子にとっては決してマーズに嘘を吐いた訳でもないというのが余計にタチが悪いですの。
……そう言えば、マーズがアホ王子の婚約者に内定したという事はわたくしだけでなくシャルロットもアホの婚約者候補を辞退したという事になりますわね。
わたくしと同じ【転生者】でもある彼女は一体どの攻略対象を狙っている事やら。
グダグダになり始めたところで一人、この状況に乱入してくる奇特な人物がいましたわ。
「騒がしいわね」
介入してきたのはウェーブのかかった長い黒髪に切れ長の黒の瞳、胸元を大きく開けた蒼のドレスに身を包む、お胸の大きな美少女。
わたくし達にとってはお馴染みのアクアルお姉様ですわね。
相変わらずエッッッな女ですわ。
耳をすませば周りから『アクアル様〜!』『生徒会長様よ!』と黄色い声が飛んでくる辺り、凄まじい人気ですの。
これは彼女の親友であるリーリスお姉様から聞いた情報なのですけれど、アクアルお姉様は学内で男女問わず恋人募集中と公言してからはひっきりなしに告白されるようになったそうで、噂では第3学年の三分の一の生徒(リーリスお姉様含む)が彼女に想いを伝えた事があるそうですわ。
わたくしもいずれは数多のご令嬢から言い寄られまくって、最終的には女体風呂とかやってみたいですわね。
乱入してきたお姉様はわたくしの前に出るとハンカチを取り出し、『失礼するわ』と一言断ってからマーズの頬に触れると、涙を拭って差し上げてましたわ。
「入学おめでとう、マーズ・スカーライト公爵令嬢。私は生徒会長のアクアル・バレスチカよ。どうやら私の妹達が迷惑をかけてしまったみたいね。お詫び申し上げるわ」
「生徒会長……殿?」
こちらの非礼を詫びるという形を取りながらも、わたくしだけでなくロゼも自分の姉妹であるとアピールするお姉様。
ロゼとマーズの組み合わせを見て即座に察したとするならば、中々に大した物ですの。
「具合が悪いようだし、貴女がよければ救護室まで案内するけど、どうする?」
「……いえ、御心配には及びません生徒会長殿。私は部屋に戻ります」
流石に三年の先輩、それも生徒会長であるお姉様には尊大な態度が取れないのか、マーズはすごすごとこの場を去っていきましたわ。
単純にこの場に残り続けるのが辛かっただけかもしれませんけれど。
お姉様はマーズの姿が階段の向こうに消えたのを確認すると、ギャラリーの令嬢達に向けて声をあげましたわ。
「みんな、お騒がせして悪かったわね。この子達、リリアーゼとロゼは私の大事な家族なの。特にこっちのリリアーゼは誤解される事も多い子だけど、言われてるほど悪質ではないから……こっそり見守っててもらえると助かるわ」
「「「「はぁ〜い!」」」」
あっという間にこの場を収めてしまいましたわね。
お姉様が大事な家族と公言した事もあってか、ギャラリーのご令嬢達からわたくしへと向けられる視線もどことなく好意的になったように感じますし、正直学内での彼女の人気をちょっと舐めてましたわ。
シャルロット周りの事でお姉様と同盟を組んだ自分の慧眼を褒めてやりたいぐらいですの。
……にしてもお姉様、『言われてるほど悪質ではない』ってもう少し言い様があったんじゃありませんこと?
「二人とも、ついてきて」
マーズとのトラブルが一件落着した後、わたくし達はそのままお姉様のお部屋にお呼ばれする事になりましたわ。
◇
3階にあるお姉様のお部屋は第1学年であるわたくしやロゼの物とそう変わらない物でしたわ。
8畳程度のそう広くはない空間にベッドや机、本棚が置かれており、カーテンや床マットはお姉様の好きな暗めの蒼色で纏められてますの。
ゴミや埃は落ちてない事から普段からキッチリお掃除はされてるようですわね。
本棚には教科書以外には恋愛物の娯楽小説、中には『ユリスコン』著作の物も沢山入ってますけれど、作者がどうであれ生み出された作品に罪はないからとやかくは言いませんわ。
お茶とお菓子でも振る舞って頂けるのかと思ってベッドの上に腰掛けて待ってましたけれど、お姉様は憤怒の表情を浮かべてわたくしに近づくと––––
「リリアーゼ。よくもやってくれたわね?」
生意気にもわたくしの美しい顔、その両頬を抓ってきやがったのですわ!
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リリアーゼはボロクソに言ってますが、殿下は趣味と言動さえ理解してあげれば、めちゃくちゃ優良物件です。
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