第36話 アレイスター殿下は本当に良くできたお方ですの
今回の話を書くに当たって少しだけ9話に加筆してます。
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「やあやあ、よく来てくれたねリリアーゼ嬢、ロゼ嬢。この世界で一番尊い君達の為に、僕も力不足ながら全力でもてなさせてもらうよ!」
「……来てしまったか」
ホームルームが終わってすぐ待ち合わせ場所である4階の空き教室に行くと金髪に蒼の瞳の美少年、アレイスター殿下が諸手を挙げて歓迎の意思を示しましたわ。
隣では宰相の息子である眼鏡、じゃなくてクラストが頭を抱えてますわね。
教室の真ん中には間に机を挟んでソファーが2台セットされており、机の上には色とりどりのお菓子が並べられている事から、わたくし達が殿下のお願いを了承する前から接待の準備を終えていた事が伺えますの。
「ささ、二人とも席に着いてくれたまえ。王都シュトーの有名店で仕入れた人気商品なんだ」
そう言いながら手ずから4人分の紅茶を淹れていく殿下。
それを見て隣のロゼが小声でわたくしに囁いてきましたわ。
「凄いですね、殿下。王子様なのに紅茶の淹れ方があたしよりよっぽど上手です」
まぁ、ロゼのメイドスキルは普通によく出来るお手伝いさんレベルですものね。
殿下がここまでやれるのは驚きですけれど、それを差し引いても上級貴族に支えるメイド達とは比較になりませんの。
ですけれど––––
「失礼致しますわ、お二方」
わたくしは自分とロゼの目の前に置かれた紅茶の注がれたカップを取ると、殿下とクラストの前に置かれた物と入れ替えましたわ。
「アーゼちゃん、失礼ですよ!」
「はんっ、このぐらいの警戒は当然の事ですわ」
続いて目の前にある菓子包みに包まれた、わたくし達から取りやすい位置にあるお菓子を数点掴むと、それを殿下の目の前に置いてやりましたわ。
「殿下、話し合いの前にそれを全て食してくださる?できないのであれば無理矢理あなたの口の中に突っ込んでやる所存ですわ」
既に戦闘能力が超人の域を超えているレベルにあるわたくしとロゼにはある程度の毒耐性が備わっていますの。
ですけれど、王家の人間が所持する毒物ならその耐性を貫通してくる事だって考えられますものね。
いつの時代だって毒味役は用意した者本人に行わせるのが最善の手段なのですわ。
一方殿下はわたくしの行動に呆気に取られたかと思えば、ぶるりと身を震わせ、まるで喜びに満ちたかのような笑みを浮かべやがりましたの。
……マジでなんなんですの、こいつ?
わたくしから見ればただの雑魚だと言うのに、不思議と底が見通せなくて不気味ですわ。
「ふぅ……リリアーゼ嬢、やはり君は素晴らしいよ。自分だけでなくロゼ嬢の身を案じて王族である僕に対して毒味役を迫るその胆力、本当に尊いものだ。……では失礼ながら先に頂かせてもらうよ」
殿下は自分の目の前に置かれたお菓子の包み紙を開けると、優雅にそれを食していきましたわ。
そしてその全てが殿下の口の中に消えると、最後に彼はわたくしの物と入れ替えられた紅茶をゆっくり飲み干しましたの。
「ご馳走様。……すまないがロゼ嬢、紅茶のお代わりを頂けるかな。客である君にこんな事を頼むのは申し訳ないが、リリアーゼ嬢もその方が安心できるだろうからね」
「は、はい!未熟ながら努めさせて頂きます」
わたくしにやっすい原価のコーヒーを淹れてくれるいつもの要領で、殿下のカップに紅茶を注ぐロゼ。
その間にわたくしは自分の目の前に置かれたお菓子を取って菓子包みを剥がしましたわ。
中身は表面にチョコレートで絵柄が描かれた分厚いクッキーのような物で、割ると中には黒、白、桃、緑色と何重にも重ねられたチョコレートが練り込んでありますわね。
わたくしはそれを口の中に放り込んで咀嚼しますの。
あっ……これくっそ美味ですわ。
パクパクですの。
この瞬間、殿下との話し合いが終わってお菓子が余ったら、お土産に持ち帰る事が確定しましたわ。
わたくしが警戒を解いたのを見て安心したのか、ロゼとクラストもそれぞれクッキーを食べ始めましたわね。
特にロゼの勢いはわたくしに勝るとも劣らない物ですの。
「これすっごい美味しいですね、アーゼちゃん。殿下、ありがとうございます!」
「尊い君達二人が喜んでくれて何よりだよ」
イケメン王子様スマイルで微笑む殿下。
フン、食事に毒はなかったとはいえ、貴方が無事に帰れるかはここから次第ですわよ。
「では君達へ頼み事をする前にまずは僕の事を知ってもらうとしようか。僕は王太子としての勉学や公務の傍ら、ある趣味に没頭していてね。……いや、力の入れ具合としてはむしろこちらの方がメインと言っても過言じゃない」
そう言うと、殿下は品の良い装飾が施された収納鞄から数冊の本を取り出し、机の上に置きましたわ。
「こ、これは……!?」
「ご覧の通り、僕は一介の小説家としてこういった本を世に送り出させてもらってるんだ」
取り出された本を見て驚愕するロゼ。
パッと見だと、それらの本の表紙には可愛らしい少女が数名描かれており、タイトルから察するに恋愛系の小説のようですわね。
内容は分かりませんけれど、外観から受ける印象は前世におけるライトノベルとそう変わらないクオリティに見えますわ。
「殿下があの『ユリスコン』先生だったのですか!?」
「知ってますの、ロゼ?」
「はい!前にアクアル様が貸してくださったのを読ませて頂いたのですが、すっごい面白かったですよ!」
興奮した面持ちで語るロゼ。
そう言えば前にお姉様が読んでいた恋愛物の娯楽小説(第9話参照)の著者名がロゼの言う『ユリスコン』とやらだった気がしますわね。
しかし、まさかこの場であの設定を出してくるとは思いませんでしたわ。
アレイスター・キングダム(公式人気投票第3位)。
艶のある金髪に透き通るような蒼色の瞳。
白を基調とした貴族服の上から細かい装飾の施された蒼のタキシードを羽織る、『ふぉーみら』における攻略対象の一人で作中でも屈指の超絶美少年。
王太子であり、優れた容姿に加え優秀な学業、及び実技の成績、そして誰に対しても礼儀正しい性格。
これといった非の打ち所がない超スペックなアレイスターですけれど、交流を重ねていくとあるちょっとした一面を見せてくれるようになるのですわ。
それがそう、彼が王都シュトーで有名な恋愛小説家であるという事実ですわね。
アレイスターと親しくなると、主人公であるシャルロットは彼が作家であるという秘密を打ち明けられ、本の感想を求められるようになりますの。
「まさかロゼ嬢に加えてアクアル先輩––––あの名高い生徒会長殿まで拙作を読んでくれていたとはね。いやはや、作者冥利につきるよ」
よほど嬉しかったのか、殿下はハンカチを取り出すと目元を拭う素振りを見せましたわ。
ハンカチに注目すると確かに少し濡れている事から、どうやらガチで感動しているようですわね。
「ロゼ。殿下が書いた小説とやらはどんな内容なんですの?」
残念ながら『ふぉーみら』の作中だと殿下が恋愛小説を書いているという事以外は何も情報がなかったのですわ。
というか『ユリスコン』というペンネームを使っている事すら今知ったぐらいですの。
「その……ユリスコン先生が主に書いておられるのは女性同士の恋愛を描いたラブコメディです。読んでると胸が苦しくて切なくなって、でもどこかクスッと笑える、そんな素敵な作品達なんです」
少し恥ずかしそうにはにかみながら答えてくれるロゼ。
……そう言えば作中で殿下の小説を読んだシャルロットが『リリアーゼ様のお気持ちが少しだけ理解できたような気がする』という感想を抱いてましたわね。
あれはそういう意味でしたの。
「なるほど、殿下の事情は理解しましたわ」
開示された情報を精査してわたくしの明晰な頭脳が即座に答えを導き出しましたわ。
どうやらわたくしは殿下の事を誤解していたようですわね。
彼はわたくしのロゼを狙ってなどいない。
それどころか、わたくし達の強固な味方になり得る逸材だと確信しましたの。
これは殿下への評価を大幅に上方修正せざるを得ないのですわ。
「殿下はわたくしとロゼをご自身の執筆される小説のキャラクターのモデルにしたいと仰られているのですわね?ならわたくしからの返答としては了承する、とだけ伝えさせて頂きますわ」
わたくしはなるべく友好的に見えるよう、普段なら殿方に対してはまずやらないであろう超絶美少女スマイルを殿下に送って差し上げましたわ。
原作で殿下が嫌われ者のリリアーゼと浮いているロゼに対して紳士的な態度を崩さなかった理由。
あれはそういう事でしたのね。
わたくしの持つ恋愛観を理解した上で、それを小説という媒体を用いて好意的な形で世に送り出してくれる人物。
さらに一応は中世ヨーロッパ風の世界観であるこの国において、わたくしとロゼに小説のモデルになってもらう為の許可をわざわざ取りに行くコンプライアンス意識の高さ。
実に素晴らしい!
アレイスター殿下は本当に良くできたお方ですの。
「ありがとう、リリアーゼ嬢!あぁ……今日この時まで生きてきて良かった……」
そう言ってハンカチをぐっしょりと濡らす程に号泣する殿下。
……流石にちょっと大袈裟すぎませんこと?
「殿下、この辺りにしておきましょう。リリアーゼ嬢の気分がいいうちに解散を––––」
「それではリリアーゼ嬢、ロゼ嬢!どうかこの矮小な僕に、尊い君達が接吻するところを見せてくれ!」
「……は?」
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サブキャラクター、アレイスター・キングダムのイメージ(AI絵)です。
活動報告にちょっとした設定が載せてます。
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