第35話 殿方からのラブレターとか◯ぬほどいらねーのですわ
わたくしとロゼが所属する場所、特Aクラスに入室すると、教室内の視線が一斉にこちらへと集中しましたわ。
うふふ、やはりわたくしの圧倒的な美しさは否応にも下々の者達(貴族)の視線を釘付けにしてしまうのですわね。
注目は集めたものの、わたくしの美しさに恐れをなして遠巻きに見てる者が多い中、一人だけこちらに向かって接近し、話しかけてくる者がいましたわ。
「入学おめでとう、リリアーゼ嬢、ロゼ嬢。同じクラスの一員として宜しく頼む」
わたくしの前まで来て挨拶をしてきたのは淡い緑色の髪に、赤色と青色のオッドアイ、そしてその上から高価そうな眼鏡をかけた、黒の貴族服を着用したインテリ系美少年。
「ご機嫌よう、クラスト様。義妹のロゼ共々こちらこそ仲良くして頂ければ幸いですわ」
「宜しくお願い致します、クラスト様」
当主がこの国の宰相を務めるペンデュラム侯爵家、その次男。
クラスト・ペンデュラム(公式人気投票第5位)。
原作である『ふぉーみら』において3人いる攻略対象の一人であり、わたくし達バレスチカ家との関わりとしてはグレンお兄様の婚約者であり、アクアルお姉様の親友でもあるリーリスお姉様の弟君という間柄になってますわ。
ユーザーからの呼び名は噛ませメガネ、出オチメガネなど、割と散々ではあるものの、この呼び名は性格ではなくゲーム中における彼の性能に起因するものですの。
というのも実は彼、クラストはその特徴的な瞳の色から察せるように、炎属性と水属性の魔力を同時に扱える希少な存在なのですわ。
何でそんな性能になったかと言えばおそらく光属性と闇属性を除く基本属性は炎、水、風、地の4つあって、だというのに攻略対象は3人。
だから作中のプレイアブルキャラで全部賄うには誰か一人、2属性扱えるようにする必要があった訳ですわね。
これなら一人だけ2属性扱えるのだからむしろ噛ませだの出オチだのとネタ寄りどころか相当な優遇キャラのように思えますけれど、残念ながらそうは行かなかったのですわ。
まず『ふぉーみら』において炎と水、風と地はそれぞれ対立属性となっていて、対立属性に攻撃するとダメージは2倍、逆に同属性に攻撃するとダメージは半減という計算方式が取られてますの。
で、炎属性であり水属性でもあるクラストが例えば炎属性の攻撃を受けた場合、2倍×半減で等倍のダメージが通りそうな気がしますわよね?
何故か2倍のダメージが通っちゃうのですわ。
水属性で攻撃された場合も同様ですの。
さらにクラストは性能的には眼鏡をかけてる事もあって完全にインテリ路線の魔術師型、つまりHPが低いのですわ。
その上、半減もないどころか2倍弱点が二つもあるのだから……まぁ色々お察しですわね。
一応フォローしておくと、クラストは2属性使えるだけあって相手の弱点もつきやすく、魔法による全体攻撃も多いので対雑魚戦なら最強格ではありますわ。
ただボス戦、特に四天王であるグレンお兄様(炎属性)&アクアルお姉様(水属性)との戦いだと何か攻撃が飛んでくる度に瀕死になる物だから、どうしても出オチの印象が強くなってしまうだけですの。
「それにしても今年度はリリアーゼ嬢、そしてシャルロット嬢が首席か。姉君のアクアル先輩や兄君のグレン先輩と同じように、やはりバレスチカ家の血筋の者は優秀なのだな」
「お褒めに頂き光栄ですわ。でもクラスト様も筆記の方は満点だったのでしょう?なら次の定期テストではわたくしもうかうかしてられませんわね」
悔しそうに眼鏡の奥にある瞳を歪ませるクラストに対し、思ってもいない適当な社交辞令を言っておきましたわ。
原作では彼が第72回生の主席で、次席が王太子であるアレイスターだったのですから、攻略対象二人がわたくしとシャルロットに追い落とされた形になりますわね。
ちなみにこうしてわざわざ挨拶に来るぐらいなのだからわたくしとクラストはそれなりに親しい間柄にも見えるかも知れませんけれど、実は原作だとリリアーゼは彼からかなり敵視されてましたの。
というのも、彼の姉君であるリーリスお姉様がわたくしがロゼを椅子にしている所を目撃したせいで、それ以降わたくしの事を怖がるようになっていたからですわね。
なので姉君であるリーリスお姉様を心配したクラストは何とかして彼女をバレスチカ家から引き離そうとする、というのが本編の流れですの。
あ、クラストが抱える悩みとか家族(リーリスお姉様等)への想いとかはくっそどうでもいいので省略しますわよ。
で、この問題を解決する為にわたくしは学園の夏休み期間中に、婚約者であるグレンお兄様と親友であるアクアルお姉様に頼み込む事でリーリスお姉様をバレスチカ家に招待し、うまいこと接待してある程度仲良くなる事に成功しましたわ。
その甲斐あってリーリスお姉様がわたくしを怖がる事もなくなり、結果クラストがわたくしを敵視する必要もなくなったという訳ですの。
「まぁ出来る限りの事はするさ。……あぁ、そうだ。リリアーゼ嬢、君に受け取ってもらいたい物があるんだ」
そう言ってクラストが差し出してきたのは一通の手紙でしたわ。
「申し訳ありませんけれどわたくし、殿方からのラブレターとか◯ぬほどいらねーのですわ。せめて女体化してから出直してきてくださる?」
「安心して欲しい、私も君だけはゴメンだ。……この手紙は私からじゃなくて殿下から預かった物だ。婚約者がいる彼が直接手渡すところを見られるとあらぬ噂が立つからな」
クラストの言葉を受けて教室の隅の方に目をやると、パツキンのイケメンもといアレイスター殿下がわたくしに向けてウィンクしながら軽く手を振ってましたわ。
隣には燃えるように紅い長い髪と同色の瞳を持つ、鮮烈な赤をベースにしたドレスに身を包んだ美少女、殿下の婚約者に内定したスカーライト公爵家のご令嬢がこちらを睨むような視線を送ってきてますわね。
ま、面倒事はさっさと終わらせるに限るのでわたくしはその場で手紙を開き、中を確認しましたわ。
内容は––––わたくしとロゼに頼みたい事があるからホームルームが終わったら4階の空き教室まで来て欲しいと書いてありますわね。
隣に婚約者がいるというのに何考えてんですの?あのトンチキ王子は?
「頼みを聞いてくれたら君達に対して相応の礼をすると殿下は言っておられるが……個人的にはこの場で断る事を推奨しておく」
クラストが深刻な表情を浮かべながら眼鏡をクイッとしましたわ。
「あら?一体殿下は何を企んでいるのかしら?」
「すまないが内容は控えさせてくれ。人前で言えるような話じゃないんだ。ただ……殿下の頼みを聞いた君が激昂し、彼に暴力を奮う可能性を私は危惧しているとだけ」
「へぇ……それは面白いですわね」
なるほどなるほど。
今のクラストの発言で、一を聞いて千を知る超頭脳の持ち主たるわたくしは全て理解しましたわ。
どうやらあのアホ王子は前にわたくしが推測したように、わたくしのロゼを狙っているようですわね。
ならばこちらも徹底的に分からせてやる必要があるという事ですわ。
「クラスト様。殿下にお話は承りましたと伝えてくださらない?」
「あ、アーゼちゃん!暴力は絶対にダメですよ!」
「分かってますわ、ロゼ。ただちょっと殿下が子孫を残せないようにするだけですわ」
「だからダメですって!」
「……これは私も場に居合わせた方が良さそうだな」
話を終えて殿下の方へ歩みを進めるクラスト。
おそらく彼からわたくし達が呼び出しに応じる事を聞いたのでしょう殿下は蒼の瞳をキラキラと輝かせて、その場でくるくると回転して喜びの感情を大袈裟に表していましたわ。
フン、下手を打てば今日があなたの股間の命日になるかもしれないというのに呑気な物ですわね。
その後は特Aクラスの担任が来てホームルーム中にクラスメイト同士の軽い自己紹介がありましたけれど、これといったトラブルはなく解散となりましたわ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
サブキャラクター、クラスト・ペンデュラムのイメージ(AI絵)です。
活動報告にちょっとした設定が載せてます。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
もし宜しければブックマーク、評価、レビュー、ご感想、リアクション等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。




