第30話 殿方との婚約なんて真っ平ごめんですわ!
「わたくしがアレイスター殿下の婚約者に?」
陛下からご提案された内容を聞いた感想としては納得半分、驚き半分、と言ったところでしたわ。
納得についてはまずそもそもの前提として、原作の『ふぉーみら』においてリリアーゼは3人いるアレイスター殿下の婚約者候補の1人でしたものね。
だからわたくしと陛下が顔合わせをした以上、向こうからそう言った話を持ちかけてくる事は予想できてはいましたけれど。
「陛下。お尋ねしたい事があるのですわ」
「うむ、もちろん構わぬよ。急にこのような事を言われたところで気持ちの整理がつかぬだろうからな」
「では遠慮なく。陛下はわたくしを殿下の婚約者にしたいんですの?婚約者候補ではなく?」
わたくしが疑問をぶつけると、陛下はカッと目を見開きましたわ。
どうやらクリティカルだったようですわね。
「バレスチカ家の子息子女は皆優秀だと聞いてはいるが、流石に驚いたぞ。確かに元々リリアーゼ嬢にはアレイスターの婚約者候補としての打診をする予定だった」
ちなみに婚約者候補はリリアーゼを除くと主人公で聖女候補のシャルロットと公爵令嬢の2名。
これだけ見れば乙女ゲーらしくもあるのですけれど、リリアーゼは知っての通り男性に興味がなく、公爵令嬢は後に婚約云々とは全くの別件……というかロゼ関係でリリアーゼに絡んだ結果、百合乱暴(控えめな表現)されて純潔を失った事により婚約者候補を辞退するという、殆ど死に設定みたいな物だったりしますわ。
「近年は聖女殿が失踪された事もあって何かと他国から突かれる事が多くてな。言ってしまえば国の防衛力を高める必要があるのだ。そして余は国防の観点においてバレスチカ家の武力を高く評価しておる。加えて今回リリアーゼ嬢が成した『最果ての回廊』10階層以降のボス撃破という功績だ。バレスチカ家が王家に忠誠を誓っていないというデメリットを差し引いたとしても関係性を深めておきたい」
なるほど。
つまりわたくしが前世の記憶を取り戻した事によって原作とは違う行動(ダンジョンでの修行)をとった結果、未来が変化したわけですわね。
「して如何だろうか、リリアーゼ嬢。其方の嗜好は理解しておるし、世継ぎを産んでくれさえすれば、好きなだけ女を囲っても構わぬと倅のアレイスターも申しておる。加えてこの話を受けるのならグラントを伯爵に陞爵する事を約束しよう。グラント、お前にとっても悪い話ではなかろう?」
「それはリリアーゼが決める話だ。我に説得させようとするな、アーサーよ」
あ、お父様は陛下と普通にタメ口なんですのね。
まぁそれはさておきわたくしの答えは決まってますわ。
「せっかくのご提案ですけれど、お断りさせて頂きますわ」
「……やはり男と肌を重ねる必要があるという事に少なからず抵抗があるのか?」
「それも全くないとは言いませんけれど、別にわたくし、殿方が苦手とかそういう事はございませんことよ?」
原作では婚約者と婚約者候補という違いはあれど、リリアーゼはその立場を受け入れてましたわ。
おそらく王太子であるアーサー殿下と結ばれれば、すなわち国の頂点に立てるとそう考えたのでしょうね。
––––ですけれど。
「わたくしが婚約をお断りする理由、それはひとえに『愛』ですの」
「愛、とな?」
正確には愛なのですけれど。
「陛下は自身が殿方と婚約しているにも関わらず、『本当は君の事が一番好きなんだ』などとほざく者の発言を信用する女性がいると思いまして?」
というかただでさえロゼからわたくしへの好感度など0に等しいというのに、男性の婚約者なんて作ったら完全に終わりですの。
「ふむ、妻が4人いる余としては耳の痛い話だがなるほどな……あいわかった!この話は白紙に戻そう。倅とは学友として仲良くしてくれれば幸いだ」
「もちろんですわ。アレイスター殿下とはご学友として是非色々お話をお聞きしたいと思ってますの」
実際アレイスターは3人いる攻略対象の中で唯一リリアーゼに対して紳士的な態度を崩さなかった殿方ですものね。
シャルロットや攻略対象達と友好関係を結ぶ橋渡し役としては悪くありませんの。
この後は陛下と軽い雑談をして、面談は終わりとなりましたわ。
◇
執務室を出ると目の前には悪夢が広がっておりましたわ。
ロゼ色の髪と瞳を持つ丈の短いスカートのメイド服に身を包む美少女が、見目麗しい金髪蒼眼の美少年と和やかな雰囲気の中談笑する、そんな光景。
––––って、わたくしのロゼがパツキンのイケメンに言い寄られてるじゃねぇですの!?
「アーゼちゃん、ご当主様、お疲れ様です」
部屋から出てきたわたくしとお父様を出迎えるロゼ。
彼女の表情は特に強張ってはおらず、声音も変わっていない事から傍にいるイケメンから無理矢理迫られている訳ではないようですけれど、それはそれで由々しき事態ですの。
わたくしはすぐさまロゼとイケメンの間に身を滑り込ませましたわ。
「君がリリアーゼ嬢だね?噂はかねがね聞いてるよ。お会いできて本当に光栄だ」
一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐに笑顔に戻りわたくしに手を差し出して握手を求めてくるイケメン。
対してわたくしはその手をパチンと叩いてやりましたわ。
「アーゼちゃん!?この方は––––」
顔を真っ青にするロゼですけれど、目の前の殿方が誰かなんて既に分かってますの。
「アレイスター王太子殿下ですわね?わたくしのロゼに言い寄るなんて、そんなに早く◯にたいんですの?」
艶のある金髪に透き通るような蒼色の瞳。
白を基調とした貴族服の上から細かい装飾の施された蒼のタキシードを羽織った、わたくしより10cmほど身長の高い超絶美少年。
王太子アレイスター・キングダム。
アレイスター殿下は圧倒的に格上の戦闘力をもつこのわたくしの殺気を受けたにも関わらず怯える事もなく、それどころかぶるりと身を震わせて、恍惚とした笑みを浮かべやがりましたわ。
「あぁ、やはり君は……いや、君達は本当に素晴らしいよ」
「は?」
……この男、もしかしたらわたくしの原作知識にある人物像と違ってだいぶやべーやつかもしれませんの。
「殿下、申し訳ございません!アーゼちゃんは悪い子––––かもしれないけどそれだけじゃないんです!」
「いや、いいんだロゼ嬢。彼女は今のままが一番素敵なんだ」
???
何を言ってますの?この腐れトンチキは?
「どうやら僕は歓迎されていないようだし、今日のところはお暇させてもらうとしよう。有意義な時間をありがとうロゼ嬢。それでは2人とも、今度は学園で会おう!」
そう言って殿下は飛び切りのスマイルを浮かべると、軽快なスキップを刻みながら去っていきましたわ。
––––マジでなんだったんですの?
「ロゼ、あのナンパ男に何をされましたの?なんなら今からでもぶち◯しに行きますけれど」
わたくしの中で殿下がリリアーゼに優しかったのは、実はロゼ狙いだったのでは?という疑惑すら芽生えてきたのですけれど。
もしこの推測が正しかったとしたら……ここで芽を摘んでおくというのも選択肢の一つですわね。
「アーゼちゃん、お願いだから本当に止めてください。殿下とは廊下で待っている間、少しお話をさせて頂いてただけなんです」
「話……ですの?」
ロゼの言い分によると、殿下はわたくしとお父様が陛下と話している間、廊下で待っている彼女に声をかけて来たそうですわ。
そこで彼は主にわたくしとロゼのバレスチカ家での生活について訊ねてこられたとか。
殿下はロゼからわたくし達の話を聞く度に『素晴らしい!』『最高だ!』『君達こそ世界の真理に違いない!』と大層大仰なリアクションをされていたそうで、彼女もつい嬉しくなって会話が弾んでしまったそうですわ。
なるほど。
灰色の脳細胞を持つわたくしは状況を完全に理解しましたわ。
……えぇと。
つまりどういう事なんですの?
色々ありすぎて精魂尽き果てたわたくしはそのまま王都シュトーでお父様と別れ、宮廷魔導士から調整の終わった対レイライト用の妨害魔道具を受け取ると、ロゼとともに馬車でゆっくり7時間かけてバレスチカ家に帰還しましたわ。
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やたらクセが強いアレイスター殿下の詳細な紹介は第2章で行う予定です。
次話で第1章ラスボス戦&第1章完結ですので最後まで読んでくださると幸いです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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