第22話 目覚めのキスはほろ苦……苦いってレベルじゃないです
△△(side:ロゼ)
「アーゼちゃん!?」
幻竜王シャーク・ドレイクを倒し、アーゼちゃんがようやく一息付いたその時――
まるで彼女の影から這い出るようにして全身を紫色の刃物で覆ったような魔物が現れ、アーゼちゃんの背後から何かを突き刺したのが見えました。
アーゼちゃんの胸から長剣が飛び出し、大量の出血が引き起ります。
「う……あああああああああああ!!!」
目の前が真っ赤に染まり、怒りの感情が頭の中をグルグルと駆け巡りました。
あたしは手の中にある短剣を握りしめると、すぐさまアーゼちゃんを手にかけた魔物に飛びかかろうとして――
既に行動を起こしていた人物がいた事に気が付きました。
「【激流加速】––––はあっ!!」
アクアル様です!
彼女は足元から水の魔法を噴出する事で推進力を得た事で高速で飛び出すと、そのままアーゼちゃんにトドメを刺そうとした魔物に薙刀で斬りかかったのです!
「ロゼ!リリアーゼを回収してすぐに治療しなさい!このままじゃ全滅するわよ!」
「は、はいっ!」
そのまま現れた魔物と斬りあいになるも、冷静に指示を飛ばすアクアル様を見て、ようやくあたしも我を取り戻しました。
そうです。
ここであたしが怒りのまま戦いを挑んだところで、返り討ちにされるのは目に見えているという物です。
あたしは今、あたしにしかできない事をしないと!
「アーゼちゃん、すぐに治しますから!」
アクアル様が現れた魔物を引き付けている間、あたしはすぐさまアーゼちゃんの傍まで駆け寄り彼女の身体を抱えると、20m程離れた場所まで移動しました。
◇
「早く……早く何とかしないと」
アーゼちゃんの身体を地面に横たえると、あたしはすぐに収納袋の中を漁り始めます。
――あった!
取り出したのは瓶詰めにされた濃い蒼色の液体。
「ハイポーション!これさえあれば––––」
治癒魔法程ではないものの、怪我や傷を驚くべき早さで治す秘薬であるポーション(1本5万ゼニン)。
ハイポーションはその上位の性能を有しており、その効力は治癒魔法と同等、場合によっては上回る事すらあると言われている程です。
そしてバレスチカ家ではこのハイポーション(1本50万ゼニン)がなんと!当家の子息子女に対して一人につき5本も支給されているのです!
これだけの危機に対する備えは上位貴族である伯爵家レベルであっても中々ある物ではなく、それこそ侯爵家並の充実ぶりであると言えるでしょう。
普段の食事は裕福な平民レベルで、家具にもお金をかけず、衣服も質こそいいものの、何十着もあるわけではなく繰り返し使用して節制しているバレスチカ家ですが、本当に必要な物には金に糸目を付けない。
その素晴らしい家訓がここに来て活きてきたのです。
「アーゼちゃん、ごめんなさい」
気を失っているアーゼちゃんの身体に触り、彼女が着ているゴシックドレスの上の方を脱がせます。
もちろん治療の為です、他意はありません。
「あぁ!アーゼちゃんの美しいお身体に傷が!?」
ドレスを脱がせて現れたのは無惨にも胸に穴が穿たれた、それでもなお美しいアーゼちゃんの肢体でした。
あたしはハイポーションの瓶の栓を抜くと、液体を傷口に振り掛けます。
そのまま傷口に染み込ませる為に素手で上だけ下着姿となったアーゼちゃんのお胸を愛撫……じゃなくて触れました。
あ……柔らかい、それにおっきい。
あたしの掌がすっごい幸せになってます。
……えっと、治療の為なので他意はありませんよ?
ほんとにありませんったら!
「よかった!傷口は塞がって跡も残ってない。アーゼちゃんのお肌は綺麗なままです!」
って、今はそんなお肌の具合とかを気にしてる場合ではありませんでした!
いきなり現れた魔物と交戦しているアクアル様はまるでバレスチカ家のご当主であられるグラント様もかくやと言わんばかりの凄まじい戦いを繰り広げておられます。
ですが、彼女は元々近距離戦に特化した冒険者という訳でもありません。
並大抵の近距離戦に秀でた冒険者達より強いというだけで、彼女は本来近中遠に加えて回復と全てを高めの水準でこなせるバランス型の冒険者です。
一方現れた魔物はどう見ても近距離戦に特化しており、このままずっと近距離のみでの戦闘を続けていたら押し切られるのは目に見えていました。
「早くアーゼちゃんを起こさないと」
あたしは彼女の身体を必死に揺さぶりますが、残念ながら目を覚ます兆候は見られませんでした。
なら次に取るべき行動は––––。
あたしは再び収納鞄を漁ります。
「あった!」
瓶に詰められた緑色の透明の液体――気付け薬!
これを使えばアーゼちゃんも目を覚ます筈です!
あたしは瓶の栓を外して––––
「うっ、臭っ!?」
開けた途端に辺りを腐った生ゴミ……いえ、ヘドロみたいな臭いが立ち込めました。
これ絶対目を覚まさせる成分が入ってるとかそういうのじゃなくて、ショックのあまり跳ね起きる系のやつですよね!?
とはいえ、戸惑っている暇はありません。
「本当にごめんなさい、アーゼちゃん」
気付け薬を彼女のお口に流し……こめない!?
アーゼちゃんが頑なに口を閉じてるせいで全然入っていかないです!
ほぼかけるだけになってしまいましたが、アーゼちゃんは(おそらく臭いで)苦しそうなお顔をされているだけで、一向に起きる気配がありません。
やはりちゃんと飲ませるしかないようです。
あたしは意を決して新しい気付け薬の瓶の栓を開けるとそれを自分の口に含んで––––。
「ぶうううぅっ!くっさ!?苦!!?まっず!!??」
たまらず吐き出しました。
や、ヤバいですこれ!
気付けどころかむしろ魂が天国に飛んでいきそうになりました!
緊急事態なんだから口移ししたって、アーゼちゃんも許してくれますよね。
––––なんて事を考えてたさっきまでのあたしに助走をつけて全力ビンタしてやりたいです。
どう考えてもこのヘドロみたいな激物を口に含む苦痛の方がアーゼちゃんと合法的にキスできる快楽を上回ってます!
というか苦しすぎて快楽とか味わう余裕が一切ないです。
「こ、これもアーゼちゃんの為です。ロゼ、頑張って耐えきるんです!」
あまりの苦さとまずさ、そして酷い臭いに吐きそうになりながらもあたしはもう一度気付け薬を口に含み、そのままアーゼちゃんの唇に自分の唇を重ねました。
そのまま無理矢理舌を捩じ込んで口の中の液体を流し込んでいきます。
うぅ……アーゼちゃんともう一度キスできたのに全然嬉しくないです。
苦痛に耐えながら彼女の口内に気付け薬を流し込み続け、数秒たったその時––––
カッとアーゼちゃんの大きな瞳が見開き、彼女は少しの間呆然としていたかと思えば盛大に咳き込んで……あたしの身体は優しく引き剥がされました。
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気付け薬は原作ゲームだと瀕死や気絶からの復活みたいな立ち位置のアイテムだと思うのですが、実際に使うとこんな感じなんですかね?
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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