第16話 これで終わりなの?
今回エッッッな表現がいつもよりきついので苦手な方はご注意ください。
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悪魔の囁きに屈して覚悟を決めたあたしはアーゼちゃんの頭がある位置まで来て腰を下ろし、彼女を見下ろします。
うわ……睫毛長い。
肌も真っ白で透明感があって、本当にお人形さんみたいです。
本当にこの子はお顔が良すぎます。
手を伸ばし、彼女の頭に触れて撫でてみました。
枝毛の一つもないさらさらの長い黒髪は触れているだけでなんだかいけない事をしている気分になってきます。
いえ、実際これからいけない事をしようとしているのですが。
あたしは正直、アーゼちゃんは口を開かずにさえいれば顔面だけで世界を支配できると思っています。
あたしが元居た場所で一番綺麗だった人、公爵令嬢であるあの子よりもずっと美人です。
傾国の美女レベルです。
そんなアーゼちゃんに対して、寝ている間に唇を奪われ(アクアル様推察)、彼女の自◯行為に利用された(ほぼ確定)という前提があるにしても、これからあたしがしようとしている行為とは価値が全然釣り合ってない気がしてきました。
鮫トレードならぬ鮫キスです(意味不明)。
……でもこんな機会でもないとアーゼちゃんとキスできる機会なんて一生ないですし。
と、ここまで考えてようやく自分が仕返しとか関係なく、アーゼちゃんとキスをしたいと思ってた事に気付きました。
もしあたしがこれからやろうとしている事がバレたら、アーゼちゃんはあたしをどうするのでしょうか?
これが実姉であるアクアル様だったら身体を蹂躙されるだけで済まされると思いますが、あたしの場合は普通に殺されるような気がします。
何故なら彼女にとって、あたしはお気に入りの玩具みたいな物ですし、その玩具が自分に危害を加えたというなら生かしておく意味もなさそうだからです。
でもそれも仕方ないかなと納得しました。
あたしの命一つでアーゼちゃんの唇を頂けるのなら安い物です。
身を屈めます。
アーゼちゃんのぷっくらとした形の良い唇が近づいて……そのままあたしの唇と重なりました。
あ……やわらかい。
あたし、今アーゼちゃんとキスしてるんだ……。
唇から伝わってくる熱と感触、その奥から漏れてくる吐息を逃さないよう吸い込んで––––
「……ぷはっ」
息が続かなくなって唇を離しました。
「はぁ……はぁ……」
頭がクラクラします。
少し経って意識がハッキリしてきて……あたしの頭の中に一つのある想いが浮かび上がりました。
『……これで終わりなの?』
実際にアーゼちゃんとキスをした時間は10秒ぐらいはあったと思います。
ですが、あたしの体感では3秒ぐらいにしか感じられなかったのです。
あたしは命を賭けました。
いえ、今も現在進行形で賭けています。
だからもう少しだけ、もう少しだけでも……。
隣にいるアクアル様に向き直ります。
彼女は口元を押さえて頬を紅くして潤んだ瞳をしていました。
「アクアル様」
「えっ!あっ……ご、ご苦労だったわねロゼ。いい物を見させて––––」
「申し訳ありません、失敗しました」
「……え?」
「こんな、3秒程度の触れ合いじゃとてもキスとは言えないですよね。もう一度やります。どうかあたしに挽回のチャンスを与えてください」
「いや、3秒じゃなくて30秒の間違いじゃ––––」
「今度はうまくやります。ですからどうか!」
「……ええと、したいなら好きにすれば?」
「ありがとうございます!今度こそアクアル様のご期待に応えてみせます!」
無事許可を頂けました!
しかもアーゼちゃんの実のお姉様から『アーゼちゃんを好きにしていい』とのお墨付きまで!
これはもう、アーゼちゃん本人から許可を貰ったのとほぼ同意義ではないでしょうか?
つまりもう、何も遠慮する必要はないのです!
高揚する気分に身を任せつつ、あたしはアーゼちゃんの後頭部へと手を回し、再び彼女の唇に自分の唇を重ねました。
「んちゅ……アーゼちゃん、アーゼちゃん……」
舌を突き出し、彼女の唇を舐めとるようにして濡らしていきます。
––––甘い。
食事を終えた後はお互いにうがいと歯磨きをしてますので実際には味なんてある筈もないのですが、アーゼちゃんの唇は蜜のように甘く感じられました。
「んう……ちゅう……」
そのまま舌をねじ込んでアーゼちゃんの舌と絡めようとして……口が閉じてるせいでそれが叶わない事を悟ります。
でもやる事は変わりません。
あたしはアーゼちゃんの歯や歯茎を舐めるようにして吸いつきます。
「はあぁ……アーゼちゃん、好きぃ」
意識しないまま言葉が勝手に漏れます。
今まで彼女を恋愛の対象として見た事はありませんでした。
何故なら彼女は生まれながらにして500年もの歴史を誇るバレスチカ家、その正統な血筋の貴族であり、対してあたしは生まれが半分平民のような存在だったから。
育ちに関しては下手をしたらそれ以下です。
そもそもアーゼちゃんは貴族どうこう以前に生き物として別物とすら感じる程には常人とはかけ離れた場所にいる人でした。
あたしの中でアーゼちゃんはリリアーゼ・バレスチカという一つの種族なのです。
でも、今ならそんな彼女を意のままにできる。
アーゼちゃんの背に腕を回して強く抱きしめました。
今、腕の中には神聖で、普段なら触れる事すら許されない天使がいます。
あたしの控えめな胸と、アーゼちゃんの歳の割には大きな、それでいて下品すぎない形の良い胸が押しあい潰れ、その感触がとても心地良く感じました。
「……ロゼ」
……もうあたしはここで死んでもいいや。
アーゼちゃんがこの場で目を覚ましたって構わない。
むしろ好きな人に殺されるのなら本望まであります。
「ロゼ」
あたしはアーゼちゃんを抱きしめたまま、口づけを続けて――
「ロゼ、聞いて」
肩を叩かれました。
何なのですか?
あたしはアーゼちゃんだけに集中していたいのに。
キスしたまま目線をやると、そこには掌で鼻の辺りを抑えたアクアル様がいました。
抑えた手の隙間からはうっすらと血のような赤い液体が零れているようにも見えます。
「その辺りにしておきましょう?それ以上やるとその子、窒息するわよ」
「えっ!?」
かけられた言葉に動揺し、すぐさまその場から飛び退くようにして身体を離します。
「すうぅ……すうぅ……」
するとそこにはまだ覚醒には至ってないものの、苦しげな表情で酸素を求めて懸命に深い呼吸をするアーゼちゃんの姿がありました。
……あたしは何て事を。
「ここまでして暴れるどころか抵抗すらしなかった辺り、よっぽどあなたの事が好きなのね」
「……」
心が、重い。
あたしはそんな彼女からの信頼を裏切り、傷つけてしまったんですね。
「私は鼻血の処––––じゃなかった、見張りに戻るわ。あなたもそろそろ休みなさい」
テントの外へと出て行くアクアル様。
取り残されたあたしはただ茫然とするしかありませんでした。
「ごめんなさい」
呼吸が安定し、穏やかな寝息を立てるアーゼちゃん。
そんな彼女に対して聞こえない事が分かってるにも関わらず、意味のない謝罪をするあたし。
物言わぬ彼女の頬を撫でると、ひんやりとした柔らかくて、触り心地のいい感触が伝わってきました。
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やべー奴が好きになる女もまたやべー奴なのです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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