第15話 アーゼちゃんが悪いんです
△△(side:ロゼ)
「んん……ふぁっ!?」
身体を揺さぶられ、意識が覚醒したあたしは目の前の光景につい声を上げてしまいました。
「アーゼちゃん……」
スッと鼻筋の通った顔立ちに形の良いピンク色の唇、艶やかな真っ黒な髪。
いつもの美しいながらもあたしを見下ろし口角を釣り上げる彼女とは違う、天使と言っても過言ではない愛らしい少女の寝顔があったのです。
「……」
なんだか胸がドキドキしてきました。
こうして夜を共にする(睡眠)事は何度かあったのですが、昼間にダンジョン内でずっと彼女にお姫様抱っこされた状態でいた事もあってか、どうしてもいつもより意識してしまうのです。
それに……女の子の匂いとでも言うのでしょうか。
テント内の香りがあたしが寝る前とは少し変わっていて、嗅いでいると頭がクラクラしてきます。
「ロゼ、起きれるかしら?」
「あ……」
頭上から声をかけられました。
どうやら先程からあたしの身体を揺さぶっていたのはアクアル様だったようです。
あたしは急いで身体を起こして、彼女と向き合いました。
「申し訳ありません、アクアル様。あたしだけがずっと寝てしまって」
「見張りの事なら明日からあなたにも参加してもらうし別にいいわ。それよりちょっと話せる?ずっと一人だし暇なのよ」
「あたしなんかで宜しければ」
収納鞄からポット型の魔道具を取り出し、二人分のコーヒーを淹れます。
今日のあたしはずっと魔物達の魔力を取り込んだ反動でぐったりしてただけで終わってしまいましたし、話し相手としての役割ぐらいはこなしたいところです。
「それじゃ……まず、なんであなたってこの子の事を呼ぶ時はアーゼちゃん呼びなのかしら?私や兄さんの事は様付けなのに」
どうしましょう。
いきなり咎められてしまいました。
顔色を窺う限りアクアル様は怒っているようには見えませんが、考えてみれば実の妹が最近養女に迎えられたばかりの元メイド如きにちゃん付けで呼ばれるのは不快ですよね。
「えっと、アーゼちゃ……リリアーゼさ––––」
「アーゼちゃんでいいわ。なんだったら私の事もアクアルちゃん呼びでいいのよ?」
「いえ、流石にそれは畏れ多いので」
あとアクアル様をちゃん付けで呼んだりしたら、アーゼちゃんが露骨に不機嫌になる……というかキレだす気がします。
「……アーゼちゃんからアーゼと愛称で呼ぶように言われたんです。それで最初はアーゼ様と呼ばせて頂いていたのですが、余所余所しいからやめろと言われまして。流石に呼び捨てにする訳にもいかなかったのでアーゼちゃんと呼ぶようになった次第です」
「なるほどね。独占欲と支配欲が剥き出しで、実にこの子らしいわ」
そう言ってアクアル様は一つ頷くと、仰向けになっているアーゼちゃんに手を伸ばし……おもむろにドレスの上から彼女の乳房に触れて揉みしだき始めました。
「えっ、あっ……何を?」
「あぁ、やっぱり結構育ってるのね。あと数年経てば私と同じぐらいにはなるんじゃないかしら」
アクアル様は何事もなかったかのようにコーヒーを啜りながら愛撫を続けます。
それを見てあたしは背中にぞわりとした感覚を感じました。
「あの……アクアル様。寝ている無防備な女の子の胸を触るのは良くないと思うのです」
とにかく止めないと。
説得するべくあたしは常識を武器に彼女に語りかけます。
「私はこの子に胸を触られたどころか、あなたと兄さんの見ている目の前で純潔まで散らされたのに?」
あたしに向けていたずら好きな子供のような笑顔を浮かべるアクアル様。
そうでした。
アーゼちゃんの方がよほど彼女に対して常識から外れた行為をしていたのです。
「うぅ……それはそうですけど、このまま続けるならアーゼちゃんを起こしますよ?」
理論で太刀打ちできないのなら実力行使?するしかありません。
流石にここまで言えば引いてくれる筈––––
「どうぞ?」
「え?」
「起こしてもらって構わないわよ。その後この子が私に何をするか、分かった上でなら起こしなさい?」
「あ……」
そう言われてあたしは一つの可能性に思い至ります。
アーゼちゃんが寝ていた自分をアクアル様が好きにしていたと知ったら、彼女はきっと半年前の時のように嬉々としながらアクアル様の身体を蹂躙するでしょう。
その光景を想像したら……何故か途端に気分が落ち込んできました。
何も言えなくなったあたしを見て気分を良くしたのか、アクアル様は次の行動を起こします。
「私は純潔まで奪われたんですもの。ならこの子だって上の方の口ぐらい奪われても文句を言う筋合いはないわよね?」
そう言ってアクアル様は身を屈めると、そのままアーゼちゃんの唇へと自分の唇を重ねようとして––––
「あ、やだ––––」
その寸前で止めると、アーゼちゃんのほっぺたに軽いキスをしました。
ほっとすると同時に一気にきた疲労感であたしは軽い眩暈に襲われます。
「ふふ、凄い顔してるわよ、ロゼ。まるでこの世界が終わってしまったような、そんな顔」
クスクスと朗らかに笑うアクアル様。
……揶揄われているのでしょうか?
「ねぇ、取引をしましょう?」
「取引……ですか?」
どうしましょう。
ロクな事を言わない気しかしません。
「今からあなたがリリアーゼの唇にキスするところを見せてくれたら、私はこの子にこれ以上手出しはしないわ」
出された条件を聞いて、心に衝撃が走りました。
あたしがアーゼちゃんにキスを?
「……どうしてそんな事を」
「私が見たいからだけど」
意味が分からないです。
「寝ている女の子の唇を奪うなんて、そんな卑劣な真似はできません」
「あなたの唇はとうにこの子に奪われてるのに?」
「えっ?」
あたしの唇がアーゼちゃんに……?
「あなた達って今は一緒のベッドで寝ているのでしょう?どっちが先に眠っているのかしら?」
「……たぶんあたしです。アーゼちゃんの身体は体温が低くて心地良くて、一緒に横になっているとすぐ眠くなってしまいますから」
「ならキスの一つや二つぐらい、やってるわよ。無防備なあなたにこの子が手を出さない筈がないじゃない」
そんな……あたし、全然覚えがないです。
どうして。
どうしてあたしの意識がある時にしてくれないんですか!
『された』という事実だけ突き付けられても、ただの生殺しじゃないですか!
「付け加えるなら私と見張りを変わってからこの子、30分ぐらいかけてずっと自◯してたわよ」
「!?」
それじゃあこのテント内に漂う匂いは……。
「たぶん寝ているあなたの身体を使っていたんでしょうね。テントの外までこの子の声が漏れてくるから他の冒険者達の耳に届かないかとひやひやしてたわ」
アーゼちゃんが寝ているあたしを使って……?
あたしの事を想ってしていた?
「ねぇ、どうかしら?ちょっとぐらいやり返してもバチは当たらないと思わない?」
そう言うアクアル様の瞳は暗いテントの中でもキラキラして見えて、何かを期待しているように感じました。
「……アーゼちゃんが」
「えぇ」
心の中の天秤が悪魔の方へと傾く音が聞こえました。
「アーゼちゃんが悪いんです」
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アーゼちゃんが悪いなら仕方ない。
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