第12話 お姉様抱っこは全女子の憧れなのですわ
「アーゼちゃん、大丈夫?気分は悪くないですか?」
「大丈夫ですの。問題ありませんわ」
ふわふわした頭でロゼに手を引かれながら岩に近い物質でできたダンジョンの道を歩いていく。
何故かロゼから心配されたものの、今のわたくしはステップでも踏みたいぐらい気分が高揚してますわ!
「はぁ、これじゃどっちがお守りか分からないわね」
先頭を歩くアクアルお姉様が呆れ声で生意気にもわたくしをお荷物扱いしてきやがりましたが、ご機嫌なわたくしにはそんな挑発など通じませんの。
ダンジョン内での基本的な作戦としては、わたくしとお姉様が交互に魔物と戦い、残ってる方がロゼの警護。
ロゼのレベルが上がってきたら彼女にも限界まで弱らせた魔物を相手に戦闘経験を積ませる手筈となっていますわ。
お姉様にはせいぜい馬車馬の如く働いてもらうとしますの。
ちなみにレベルを上げるという表現をしましたけれど、ここはゲームではなく現実なので、ステータス画面を開いて自分の強さを確認するなんて手段は当然ありませんわ。
世界のルールとしては、冒険者は魔物を倒すとその魔力の一部を取り込んで強くなれると、そんな感じの認識をしていればオッケーですの。
「……来たわね」
お姉様が呟くと前方に魔物の姿が現れてましたわ。
そこにいたのは右手にショボい短剣、左手にヘボい盾を構えるくっさそうな緑色の皮膚をしたゴブリンソルジャー4体、美少女冒険者を見つけたら『ぐへへ』とか言い出しそうないやらしい(主観)豚面をしたオークが1体。
いかにも雑魚そうな見た目な上に、わたくしからすれば実際くそ雑魚なのですけれど、原作では大ボス悪役令嬢たるリリアーゼが待ち構える最終ダンジョンである事もあって、他ダンジョンの物より魔物のレベルは上となってますわ。
「……」
敵影を確認したお姉様は収納鞄(空間魔術が施されためっちゃ荷物が入るご都合主義の入れ物)からミスリル製の薙刀を音もなく取り出しましたわ。
にしても日本人としての記憶が戻る前は違和感を感じなかったとはいえ、中世ヨーロッパをモチーフにした世界観でもろ日本の武器が使われてるのは謎ですわね。
っと、そんな事を考えてる間に駆け出すお姉様。
原作では四天王(3人)という名の中ボスを務めていただけあって中々の速さですの。
「【凍結】」
お姉様が呪文を唱えると待ち構えていたオークとゴブリン達の足下が毒々しい紫色の氷によって覆われ、地面に釘付けにしましたわ。
基本的には蒼色の魔力を帯びる水属性の魔法、だけど彼女の操る魔力はそれに黒を混ぜ込んだような色をしていますの。
あれこそが、希少属性たる光属性と対になる闇属性。
わたくし達バレスチカ家が魔王バルバトスの末裔である証拠とも言われていますわ。
ちなみに原作ゲームだと闇属性を帯びた攻撃は光以外の属性を持つ者に対して1.2倍、光属性の者に対しては0.8倍のダメージとなっていますの。
光属性で聖女見習いである原作主人公シャルロットへの露骨な接待ですわね。
あっ、そうこうしてる間にお姉様が薙刀で動きの止まった魔物達の首をサクッとぶった斬ってしまいましたわ。
戦闘終了ですの。
「んうっ……!」
隣にいるロゼが胸を抑えて膝を付き、喘ぎ声を漏らしましたわ。
倒した魔物達の魔力、ゲーム的に言うなら経験値が急激に流れ込んできた事による成長の反動でショックを受けているのでしょう。
紅く染まった頬と少しだけ荒くなった呼吸音がとても妖艶でエッッッですわ!
「はぁ……はぁ……ありがとうございます、アーゼちゃん」
欲望に負けて背後からロゼに抱きついていたら何故か礼を言われましたわ。
どうやら倒れそうになった自分を、わたくしが後ろから支えてくれたと勘違いしたようですわね。
「あなた達ってほんとどこでもイチャつけるのね」
いつの間にかドロップ品の魔石を回収したお姉様が戻ってきてましたわ。
魔石は魔道具の燃料になるし、売ればお金にもなるから回収必須ですの。
まぁわたくしはロゼの首筋の匂いを嗅ぐのに夢中でそんな物は気にも留めてませんでしたけれど。
「そんなに活力が有り余ってるなら戦いで発散してきなさい」
「上等ですわ。ロゼ、よく見てなさい!このわたくしの、リリアーゼ・バレスチカの勇姿を!」
「頑張ってください、アーゼちゃん!」
そんなこんなでロゼをお姉様に預けて、ダンジョンを散策していると早速次の獲物が現れましたわ。
現れたのは全長3m程のぬぼっとした顔の茶色いトカゲ、通称ハウンド・ドラゴン。
鈍臭そうな見た目ながらドラゴンの名を冠しているだけあって先程お姉様が倒したゴブリンやオークとは格違いの強敵ですのよ?
まっ、わたくしにとっては有象無象の雑魚ですけれど!
「ぶおおおおおおおおぉッ!!」
わたくしの思考が漏れたのか、ハウンド・ドラゴンは豚の鳴き声みたいな怒りの雄叫びをあげながら土属性の魔法によって作られた岩石を飛ばしてきましたわ。
わたくしはそれをブーツを履いた蹴りで叩き割ると同時にすぐさま呪文を唱えますの。
「【黒羽】」
するとわたくしの着ているゴシックドレスから2対の闇属性を纏う風の魔力によって造られた真っ黒な翼が現れましたわ。
原作の乙女ゲームでは敏捷性を上げるだけのこの魔法、現実での効果も至ってシンプルな物ですわ。
生み出した翼によって空を飛ぶ事ができるだけの単純な、それでいて並大抵の魔法使いでは使えない高等魔法ですの。
わたくしは背中に生えた翼を2度だけ大きく羽ばたかせましたわ。
1度目は斜め上、2度目は斜め下への急加速。
ハウンド・ドラゴンには一瞬にして敵が目の前に現れたようにしか見えなかった事でしょう。
目を白黒させるハウンド・ドラゴンをよそにわたくしはミスリル製のナックルダスターを装備した拳を振りかざしますの。
「令嬢パンチ!!!」
わたくしの渾身の拳を叩き込まれた事で脳漿をぶちまけながら爆砕するハウンド・ドラゴンの頭。
ふっ、本当の強者は戦うのに刀やら槍やらの大仰な武器なんて必要としませんことよ。
たとえ武器を持ち込めない場所でも己の身一つで戦い抜く格闘技術、加えて圧倒的な魔力。
まさに最強を体現するわたくしに相応しいスタイルなのですわ!
「どうですの、ロゼ!これがわたくしのちか––––
華々しい戦果をあげたわたくしが後ろを振り返るとそこにはとんでもない光景が待ち受けていましたの。
「申し訳ありません、アクアル様」
「別にこうなる事は予測してたし、気にしなくていいわ」
わたくしが見たのはレベルアップの反動でぐったりしつつも、顔を真っ赤にしてお姉様にお姫様抱っこされるロゼの姿でしたわ。
お姉様はそんなロゼに素っ気ない返事をしつつも、優しく微笑みかけてましたの。
お姉様は前世でいう宝◯系の女子と違い、完全に令嬢らしい令嬢の容姿をしているとはいえ、わたくしより背が少し高い事もあってか、不思議と身長がやや低めのロゼをお姫様抱っこする姿も堂に入って見えましたわ。
え?何ですのこれ?
まさかNTRですの!?
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最初は素手で戦うスタイルにしようかと思いましたが、それが通用すると原作ゲームで令嬢達にエッな事をする時にグロの方のR18になりそうな気がしたので武器を装備させる事にしました。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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