第11話 モヒカン以下は辛すぎますの
「ロゼ、何をしてますの?そこをどきなさいな」
見ればわたくしの前に出たロゼの身体は少し震えていましたわ。
まさか、最強無敵完全無欠の超貴族たるこのわたくしを守ろうとでも言うんですの?
思わぬロゼからの気遣いに感動半分、わたくしの実力を低く見積もられた事に怒り半分で感情が混乱している最中、アクアルお姉様が懐から冒険者カードを取り出してモヒカン共に見せつけましたわ。
「ねぇ、モヒカンさん達。それは私達がバレスチカ家の者だと知っての誘いかしら?」
「Aランク!?しかもあの魔王の末裔と噂のバレスチカ家だとぉ!!?」
腰を抜かして尻餅をつくモヒカン二人。
コワモテのくせに意外と小心者ですわね。
「お茶の誘いだったらあなた達を我が家に招待してもいいんだけど……どうするの?」
「ひええええぇッ!す、すいませんでしたああああああぁッ!!!」
見事な土下座を決めた後に脱兎の如く逃げ出すモヒカン二人。
いえ、今はあんな小物共はどうでもいいのですわ!
「ロゼ、さっきのはどういうつもりですの?」
ロゼに対しての怒りと感動は結局怒りの感情の方が勝りましたわ。
そもそも原作である『ふぉーみら』で、ロゼは牢に捕えられたわたくしを助ける為に現地に乗り込み、そして命を落としている。
今回の蛮勇を許す訳には行かないのですわ。
「わたくしがあのモヒカン共に負けると思ったんですの?それともあなた、まさか自分がわたくしより強いとでも?」
ロゼの頬を撫で付けつつ、真っ正面からロゼ色の瞳に目線を合わすと……眉を下げ困ったような表情をしている彼女がいましたわ。
な、なんですの?その顔は?
「はぁ。分かってないわね、リリアーゼ」
すると、アクアルお姉様が溜め息を付きながら話に割り込んできましたの。
「ロゼはあなたをモヒカン達から守ろうとしたんじゃない。あなたからモヒカン達を守ろうとしたのよ」
「……は?」
ロゼにとってはわたくしより見知らぬモヒカン達の身の安全の方が大事だと言いますの?
嘘ですわよね、ロゼ?
ですが、その願いもむなしく本人によって否定される事になりましたの。
「アクアル様の仰る通りです」
無情にも告げられる真実にガツンと頭を殴られたような感覚に陥りましたわ。
クラクラと目眩がして膝を突きそうになりますの。
……あぁ、別にわたくしはロゼから嫌われている事に動揺している訳ではありませんわ。
嫌われるような事しかしてきませんでしたし、それぐらいの自覚はしてますもの。
ですけれど、わたくしは今まで彼女を意のままにする為に恥辱を与え、尊厳を踏み躙る事で、わたくしに見捨てられたら生きていけないと錯覚させて、依存するように仕向けてきた。
いつまでも自発的にわたくしの側にいなければいけないと思わせる為に手を尽くしてきましたの。
何の意味もありませんでしたわ。
彼女の中でのわたくしの存在の大きさはさっき絡んできたモヒカン以下だった。
「アーゼちゃん!?」
柄にもなくわたくしの目尻から涙がぽろぽろと溢れてきましたわ。
流石にモヒカン以下は辛すぎますの。
「ロゼ、ちょっと耳を貸しなさい」
ふと気付くとお姉様がロゼに何やら耳打ちをしていましたわ。
するとロゼは途端に顔を真っ赤にして、しかしそれでも決意を秘めた瞳でわたくしを見つめてきましたの。
……な、なんですの?
これ以上わたくしに追い討ちをするつもり?
「アーゼちゃん、失礼します」
「ふえっ!?」
ロゼの端正な顔がわたくしに近付くと、彼女は口から舌突き出して、わたくしの頬に這わせてきたのですわ!
「な、な、何をしてますの!?」
背中をぞわぞわとした感覚が駆け巡り、そのすぐ後にとんでもない多幸感がわたくしの脳内を襲ってきましたわ。
「んちゅ……はぁ……アクアル様が普段、あたしが泣いた時にアーゼちゃんがしてくれてる事をしたらアーゼちゃんは喜んでくれるって」
そう言ってロゼはわたくしの頬をつたう涙を舐め取り続けましたわ。
わたくしはふわふわした頭で何とか隣に視線を飛ばすと、そこには自分の胸に手を当てて心臓の鼓動を確かめるようにしながら目を見開いてわたくし達をガン見しているお姉様の姿がありましたの。
「ロゼはあなたに人を殺して欲しくなかったのよ。あなた、あのモヒカン達を殺すつもりだったでしょう?」
お姉様の問いに『ただあいつらの玉を潰してやろうと思っただけですわ』等と応える余裕はありませんでしたわ。
いえ、もはや文末に『~ですわ』とか付けてる時間すら惜しい。
そんな事に労力を費やすぐらいなら今この瞬間、頬を拭うロゼの舌の感触を脳に刻み込む事に集中したい。
「相手が手を出してきたならそれも仕方ないわ。でもね、たかがナンパ程度で殺生をしていたらあなたの立場も、ひいてはバレスチカ家の立場も危うくなるの」
不意に鼻先を微かな薔薇の匂いが掠める。
養女になった事でスバセから支給された香水を使ったのかしら。
「ましてあなた達が通う事になるフォーチュン学園は教師生徒がほぼ全て貴族で構成されているのよ。しかもあなたの属する学年には侯爵や辺境伯はおろか、公爵令嬢、はたまた王太子だって入学が予定されている。あとは新しい聖女候補なんかもね。前の聖女……レイライトは失踪してしまったから」
頬に触れる少しザラザラとした感触とロゼの温もりが離れていく。
あぁ……もう終わってしまうの?
「その子の事が大切なら今後、特に学園では軽率な行動を控えなさい」
いつの間にか溢れていた涙は引っ込んでいた。
そして残ったのはドクドクと高鳴る胸の鼓動だけだったわ。
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ロゼはリリアーゼが泣かした相手の涙を舐める習性を真似していますが、リリアーゼは直接相手の顔に舌を這わせている訳ではなく、涙を拭った指を舐める形式で行っています。
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