不幸な観測者Sheet6:策士策に溺れる
薔薇筆が手帳に経緯を書き込みながら言う。
「理論的にはエルさんのやり方で何とかなりそうですね。これがそういうトリックを使った犯罪だとしたら、疑問点がいくつかあります。育ちゃん、そのホワイトボード取ってくれる?」
手帳のメモをホワイトボードに書き写す。
1.密室殺人を反故にした理由
2.解錠のタイミング
3.犯人は誰
「1番ですが、もしIoTドアにオートロック機能が付いてれば部屋を出るだけで密室になりますので密室トリック自体には意味がありません。ではなぜわざわざそれを反故にしたか?恐らく第三者に解錠するのを聞かせ、その時までAが生きていたと思わせたかったんじゃないでしょうか」
そこで川口が口を挟む。
「という事は犯人が被害者のスマホを使ってB,Cを呼んだって事か。2番のタイミングってのは?」
「それなんですが、エルさんのエクセル方式ですと、途中で発動時間を変える事が出来ません。たとえば二人が来るのが10分ほど遅れてたら、すでに鍵は開いてた事になります」
「B,Cの時間に厳格な性格を知ってたって事?あ、もしかして…」
育美が気付いた。
「そう、ちゃんと正確な時間に玄関前に居るようにコントロール出来た、つまり3番の犯人は誰かの答え」
「二人の内どちらかが犯人。たしかBにはアリバイがあったな。となるとCか」
川口が言う。
「ひとつ、いいかな?」
アキラが尋ねる。
「仮にCが犯人だとして、わざわざそんな危険を冒して現場に戻らなくても放置しとけば良かったんじゃないの?次の日、無断欠勤になるからどのみち発見は遅くないでしょ?」
アキラの疑問に黙って聞いていた石森が説明する。
「それだと孤独死という事で必ず警察の現場検証が行われます。今回上手く行きませんでしたが、犯人は事故死に見せかけたかったんでしょう。犯人の誤算は救急隊員がその場で死亡と判断した事です。判断基準は六つほどあるのですが、死後硬直もしくは死斑が見られるというのもあります。死後硬直がみられたのなら死後二時間は経ってるでしょうから発見の直前まで生きてたというのは矛盾してます。結果論からすればアキラさんの仰る通り何もせず放置する方が良策だったと言えるでしょう。まさに"策士策に溺れる"といったところですね」
アキラは石森に対する初見、"どこかカタギではない匂い"はあながち間違っていなかったと確信した。