不幸な観測者Sheet5:詠唱魔法
「エル、今の声は?」
アキラが問いかける。
「魔道具。エクセルに喋らせた」
エルはどことなく自慢げに答えた。
「そんな事も出来るの?私、そんなメニュー見たことない」
育美がつぶやく。
「[Excelのオプション]の中に[クイックアクセスツールバー]というのがあって、[リボンにないコマンド]を表示させると普段あんまり使わない機能が色々出てくるよ。その中にあったのこないだ見つけたんだ」
エルはPCを操作しながら育美に説明した。
「なるほど、マクロで時間を設定しておいてそれを喋らせればいいわけか」
薔薇筆が補足を入れる。
「警察が現場に駆けつけた際にパソコンは消えてたそうですが…」
石森が言う。"仮定の話"というのが空々しくなって来た。
「マクロの作りは…えっと…アキラ、ホワイトボードに書いてくれる?」
キー入力はブラインドタッチで早いエルだが、手書きの文字はまだまだ拙い。
1.指定した時刻にマクロを実行
2.セルの読み上げ
3.PCのシャットダウン
「1番はモリワーキー教授も使ってたOnTimeメソッドね」
「何ですか、そのモリワーキー教授ってw」
薔薇筆が自分のハンドルネームを棚に上げ尋ねる。
育美は後で教えるからと黙らせた。
「で、次がさっきのセルの読み上げ。どのセルでもいいから言わせたい事を書き込んでおいてマクロで指定します。後はPCのシャットダウン。普通はファイルを保存するか聞いて来るけど、そうならない様設定します」
「でもさ、パソコン立ち上げたらそのマクロを書いたファイルが見つからないか?」
川口が疑問を口にした。
「いえ、最初にマクロ作り始めた最初から一度も保存しなければファイルは存在してません」
「そんな事が…可能なのか」
石森も意外だったようだ。
それからエルがつくったマクロで実証してみせるのにさして時間はかからなかった。
あいにく店にはアレクサは置いてないので、
「グッさん、ドアの鍵を開けて」
と喋らせた。
川口は黙って店の出入り口まで行くとドアの鍵を開け締めして戻って来た。
ロボットの様なギクシャクした動きだ。
アキラが吹き出す中、PCはシャットダウンした。
以下はテキスト読み上げからシャットダウンまでのサンプルコードです。
実行に際してはいかなる損害に対しても自己責任でお願いします。
Sub pc_shutdown()
'セルA1の内容を読み上げ
Selection.CurrentRegion.Select
Range("A1").Activate
Range("A1").Speak
'PCシャットダウン
Dim objsystem As Object
Set objsystem = CreateObject("WScript.Shell")
objsystem.Run "shutdown -s", 0, False
Application.Quit
ThisWorkbook.Close SaveChanges:=False
End Sub