低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 99
一日経ってようやく水島の心は落ち着いてきていた。
突然目の前のサラリーマンの意識に介入した瞬間に男の能力が発動してそのまま切り裂かれた空間と一緒に腕が転げ落ちる。倒れこみうめく男。突然の出来事に慌てて泣き叫ぶ通行人。そのまま走り去らなかったのはほとんど奇跡だった。
「やっぱり・・・同盟も東和政府も何かを隠しているんだな・・・」
法律書を置いた机に向かっていてもそのことばかりが気になってくる。
人体発火は以前から都市伝説として知られていた。最近では一部のテロ組織は法術の存在を同盟機構が発表する以前から知っていて運用していたことは当然の常識だった。意識介入。いわゆるテレパシーについてもその後のプライバシー対策の為に成立した法案を見れば政府は知っていたと考えるのが自然だった。そして一応法律家を目指す水島にもそれはよく分かる能力でこれまでも他人の能力を借りて発動する際には気を配るところがあった。
しかし今回は突然空間が切り裂かれていた。
まるで知らない法術の発現。水島は結局そのまま野次馬の一人として警察の捜査が一段落するまでの6時間ほどほとんど現場に立ち尽くしていた。
「しかしあの切れ味・・・色々使えそうだな」
突然湧き出てくる独り言。その能力が強力で簡単に発動するものだったことに気づくと不意に水島の顔には笑みが浮かんできた。
「色々使える・・・色々使える・・・」
笑みが止まらない。行政訴訟に関する判例集は次第に水島の『色々使える』と言う言葉に埋め尽くされていく。鉛筆を持った水島の手。まるで意思を持ったように同じ言葉を書き連ねていく。
「もしかしたら神にでもなったつもりなのかな」
突然の背中での声に水島は驚いて振り返った。
そこには当然のように以前東都でであったアメリカ大使館の関係者の少年が立っていた。ヤンキースの帽子。噛み続けるガム。それらの典型的すぎて笑いが出てきそうな特徴につい水島も驚きから笑顔に表情を変えていた。
「そんなに驚かなくても良いじゃないか。知りたいんだろ?あの切れ味とあの力で何ができるか」
「つまり今の君のようなことかな?」
冷静に当たりを観察して水島はそうつぶやいた。明らかに自分の脳裏には昨日の血まみれのサラリーマンに感じた感覚と同じ雰囲気があたりに漂っていた。




